2014年4月に公開された「アベンジャーズ」プロジェクトのひとつである映画『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』のMovieNEXが発売された。同作はアクション映画でありながらも、脚本制作にかなりの力を入れたことを売りとした作品。今回は、アメコミ好きの小説家、シナリオライター 岡田伸一に同作品の魅力について話を聞いた。

小説家、シナリオライターの岡田伸一

――マーベルヒーローをはじめとした、アメコミ全般が大好きだと聞きました。

小学校の頃『X-メン』や『ミュータントタートルズ』のアニメを見て「アメリカのアニメはいいな」と思い始め、高校生のときに公開された映画『スパイダーマン』でアメコミを強く意識し始めました。さらに時がたち、自分自身がコミックや小説などエンタメ作品の制作に携わるようになると、日本のエンタメは正直「仕事」であって、純粋に楽しむ気持ちになれなくなってしまったんです。ちょうどそんな時期に映画『アイアンマン』が公開され、マーベルヒーローへの興味が一気に加速しました。登場人物のキャラクター、度肝を抜かれるアクション、テクノロジーと、なにをとっても魅力的で、「こんなおもしろいものが世界にはまだあるんだ!」と新鮮な驚きでしたね。

――『キャプテン・アメリカ』シリーズに関しても、かなり好きとのことですが、ズバリこのシリーズの魅力を教えてください。

正義感は強いがひ弱な青年だった主人公のスティーブ・ロジャーズが、超人兵士として変貌し、成長していく。まずここに世界共通で感情移入できると思うんですよ。前作の『キャプテン・アメリカ』に、兵士たちが逃げる中で手榴弾を自分ひとりで抱え込もうとする印象的なシーンがあって、そこで一気に心を鷲づかみされました。強い中にも、善良で、弱き者の小さな部分も理解していたり、一方で恋にはオクテだったりと、そういう可愛らしい部分があるのも魅力的ですね。

――アベンジャーズプロジェクトには、アイアンマンをはじめとした様々なタイプの"ヒーロー"が登場します。そのなかでヒーローとしての"キャプテン・アメリカ"の特徴はどういうところにあると思われますか?

アベンジャーズのヒーローたちの中でも人間の内面をいちばん映しているヒーローだと思います。単に物理的に強力な相手と戦うのではなく、人間社会の難しい部分、組織や思想といったところで戦っているヒーローで、そこが僕にはすごく魅力的ですね。最近の日本の作品と比較してよく似ていると思ったのは『半沢直樹』。組織の複雑な環境の中で、主人公が常に正しく、悪の上司と戦う。そういった点で『半沢直樹』と近いですし、日本人も思い入れがしやすくなると思います。

――サラリーマンの半沢直樹ですか!?それは面白い表現ですね。この作品についての感想も教えて下さい。

アメリカという国の悪い部分と、主人公キャプテン・アメリカの良い部分、言い換えればアメリカの良心の葛藤がうまく描かれていると思います。また、現実に起きた出来事を想起させる部分があったり、サブタイトルの「ウィンター・ソルジャー」も1970年代のベトナム帰還兵による戦争告発集会で使われた思想家トマス・ペインの言葉「サマー・ソルジャー」が念頭にあるそうで、時代ごとの社会問題としっかり向き合っていると思います。これはマーベルヒーローの多くに共通する特徴ですが、今回の作品ではそれが特に色濃く出ていますね。

――作品の構成や展開についてはどう思われましたか?

明るい描写で映画が始まり、そこから一気にスリラーになっていく。今回は全編スリラーを基調としているのですが、その中にファンタジーやSFのアイデアが織り交ぜられている。さらに、その上でリアリティあふれるアクションやテクノロジー、組織の問題などもしっかり打ち出し、ラストにスローなテンポの詩的なシーンへ進んでいく。そしてエンドロールの映像でまたコミックに戻す……。もうあらゆるジャンルが詰められていて、いまこうして話していても興奮してしまうくらいですよ。

――そこまで様々な要素を盛り込みつつ、ひとつの作品として成立させるのは、かなり難しいことですよね。

ものすごく難しいですね。よくぞひとつにまとめたな、という印象が強くあります。スリラーパートの中にアクションを取り込む点もすごく巧みだった。ほぼ無理だろう、というさまざまなジャンルをしっかり混ぜて、しかも見ている人に疑問を抱かせないような作りに仕上げているんです。脚本家の方もシーンの順番で悩んだと読みましたが、悩んだ甲斐があったと思います。

――たしかに、構成の妙を感じました。

スリラーですから、話が進むにつれて敵の目論見や正体、真実がわかってくるんです。今回の作品でも、ロバート・レッドフォード演じるピアースが黒幕なんじゃないかと誰もがなんとなく気づいてくるんですが、僕がすごいなと思ったのは、そのピアースが、見ている人の予想をはるかに裏切るほどに悪者だったことなんですよ。やはり悪の魅力は作品そのものを魅力的にしますし、なおかつ主人公の魅力にもつながります。ロバート・レッドフォードの悪者感は、静かでありながらえげつない悪でもあって、いい意味で期待を裏切るのが印象的でしたね。

――ご自身が脚本家だからこそ、印象的だったシーンなどはありましたか?

脚本家の8歳の娘さんが、この作品を見たときに終盤のヤマ場で「キャップ(キャプテン・アメリカ)が死んじゃう! 」と叫んだとき、父親の彼はガッツポーズをしたというエピソードを聞きました。

僕は、家族を喜ばせる作品を作るのがすごいと思うんですよ。僕の個人的な場合ですが、妻は僕の小説を読まないんです。そんな彼女が初めて読んでくれて、「おもしろいじゃん」と言ってくれた作品が160万部を突破したんですよね。そのくらい、家族を楽しませるというのは難しいことですし、大事なことなんです。作り手側の意見として、それがとても印象的でした。

――なるほど。

この作品においてはとにかく、すべてにおいてキャプテン・アメリカ。彼を中心に置いた人物構図で、彼をいかに魅力的な人物として見せるかを綿密に計算して作ったなと思います。たとえばフューリーやブラック・ウィドウにしても、キャプテン・アメリカの魅力を引き出すように配置しています。だからこそ、見ている人がキャプテン・アメリカに感情移入できるわけで、8歳の娘も思わずキャーッと叫んでしまったのでしょう。

――こういった作品を見ると、ご自身の制作活動にも影響を与えるものなのですか?

今回はものすごく勉強になりました。「現実社会と向き合っていない哲学や思想は絶対衰退する」という僕個人の考えがあるんですが、『キャプテン・アメリカ』はその点でも実際の社会問題を扱っていますし、それを見ている人が身近に感じられる形で提供している。そういった社会性のあるものを、自分が噛み砕いて提供していかないと、誰もついてこないと思うんです。今回の作品を見て、そのことを強く実感しました。

――今回、MovieNEXが発売され、家でも鑑賞できるようになりました。好きなだけ何度でも見られるわけですが、だからこそこういった面から見てほしい、といったオススメはありますか?

今回の作品だけでなく、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』から通して見てほしいですね。僕もすでに4回くらい通して見ています。ファーストを見たうえで今回のウィンター・ソルジャーを見ると、シーンごとに前作へのオマージュというか対比の部分も感じられます。もちろん、2作目のウィンター・ソルジャーだけ見てもファーストのことがなんとなくわかるように作られてはいるんですが、できればファーストから見なおしてほしいですね。

――今後のアベンジャーズシリーズに向けて、岡田さんならではの期待はありますか?

期待することは山ほどあるんですが、一番はキャプテン・アメリカの成長ですね。彼自身、まだまだ純粋すぎるというか、器として空白の部分があると思うんです。だから、彼自身がどう成長していくのか、それと同時に彼を囲む一人ひとりの人物がどういうふうに変わっていくのかを見たいですね。あとはもう、ヒーローや魅力的な悪者をひたすら出してほしいです(笑)。『キャプテン・アメリカ』は、仕事などを忘れさせてくれる世界最高のエンタテインメントだと思っているんですよ。現実の悪い部分を全部ふっ飛ばしてくれるくらいの2時間を提供してほしいという期待感が本当に強いですね。

岡田伸一
小説家、シナリオライター。1984年、東京都生まれ。代表作「奴隷区」シリーズ(双葉社)は映画化され、累計160万部を突破。他多数の小説、コミック原作を手掛ける。新作として、9月11日にコミック「奇少物件100LDK」(作画:九里もなか)(小学館クリエイティブ)を、小説「少年と老婆」(幻冬舎)(発売日未定)を発売する。

キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー

アベンジャーズ抹殺の危機「全世界2000万人暗殺計画」阻止の為、最強の暗殺者ウィンター・ソルジャーとの正義をかけた戦いを描くアクション・サスペンス大作。2012年に公開された『アベンジャーズ』、そして2015年に公開が決定した『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』に向けて、マーベル・スタジオの総力を結集したプロジェクトが始動。同作は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』に続く、“アベンジャーズ・プロジェクト”の最新作となる。
「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー MovieNEX」は9月3日より4,000円(税別)にて販売中。MovieNEX購入者限定サイト「MovieNEXワールド」では、「特別映像:格闘シーンの裏側」などを視聴することも可能だ。なお、数量限定で「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャーMovieNEXプラス3Dスチールブック」(税別7,000円)、「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャーMovieNEXプラス3D」(税別6,000円)も同時に販売中。

(C)2014Marvel

撮影:伊藤圭

[PR]提供: