1kgを切る10万円以下のモバイルPCは2年前に構想開始

マウスコンピューターから初のUltrabookとして登場したのが「LuvBook X シリーズ」だ。他社の先行製品が1.5kgクラスのものばかりの中、重量985gという挑戦的なスタイルで登場。しかも販売価格は8万9880円からと、マウスコンピューターらしいところに収まっている。このモデルは、どういう経緯で誕生したのだろうか。

「1kgを切る重量で10万円以下のモデル、というのは実は2年前から考えていました。モバイルPCというと1.5kg程度のものが多く、弊社でもそれを1つの基準としてはきましたが、実際に自分で持ち歩くことを考えると1kg以下に抑えたい。それでCore i7とかを載せながら10万円以下というのがマウスコンピューター的な価格だろうと思っていたのですが、当時はコスト的にも技術的にも厳しい状況でした」と語るのは、マウスコンピューター製品企画部 製品開発部の部長である平井健裕氏だ。

当時、試行錯誤していた頃のモックアップも残っている。結果として、そのモバイルマシンへの情熱は「LuvBook L」という形で市場に出たのだが、平井氏の希望した最終形ではなかった。

「当時はコンパクトにするためのパーツが高かったのです。ところがUltrabookというカテゴリが登場したことで、パーツメーカー側も薄さや軽さへのこだわりに協力的になりました。軽いPCを作るためのパーツが安価に入手できるようになったのが、今回のXシリーズにつながっています」と平井氏は語る。

マウスコンピューター製品企画部 製品開発部の部長 平井健裕氏 2年前に作られたモックアップ。当時はフルインターフェースで想定していた

「どう軽くするかの戦いです」と平井氏は振り返る

最も強いこだわりは、1kgを切る重量という部分だった、これを、現実に使いやすい強度で形にすることを目指した試作品づくりが繰り返された。

「中身のパーツを組んだ時点では800g台で行けそうだと盛り上がっていたのに、外装をつけたら1kgを超えてしまったということもありました。そこからは、もうどう軽くするかの戦いです」と平井氏は振り返る。

軽量モバイルマシンの構想が出始めた当時は素材としてアルミニウムとマグネシウムの合金を採用していたが、これは歩留まりの悪さから製造を担当する製造会社が見つからず、コスト的にも厳しいものだった。軽さがあり、十分な強度を持つ新たなマシンの素材として採用されたのはカーボンだ。

「カーボンも扱いが難しく歩留まりの悪い素材なのですが、やれるという協力会社が見つかりました」と平井氏。そこからは、いかに軽く、堅牢なマシンを作るかという試行錯誤が始まった。

量産機ができるまでには、何度も試作機が作られている。少し前に作られた試作機と実機を比べると、実機の方が若干薄い。これは、デザイン的に薄さを追求しただけでなく、強度面でのメリットもある作りだ。

「強度を維持する目的でも、薄いデザインにしました。デザイン面での工夫でいえば、カーボンらしさを見せるためにあえて塗装をしないデザインを採用しています。塗ってしまえばカーボンの網目のヨレが見えなくなって歩留まりは若干よくなりますし、カラーバリエーションもつくのですが、あえてむき出しで。実はトップカバーにわずかな凹凸をつけているのは、薄く見せたいという気持ちとともに、車のボンネットを意識したものだったりもします」と平井氏は実用と遊び心を兼ね備えたデザイン決定の経緯を語った。

下が開発段階での試作品。上の実機の方が薄く仕上がっている 表面を塗ったサンプルも作られた カーボンの網目が整った形で見せるのも難しいポイントだという

軽量・薄型でもがっちり頑丈なマシンにする工夫が満載

薄型のマシンといえば華奢な印象がある。特にモバイルマシンを長く触ってきたユーザーにとって、キーボード部が華奢だというイメージがあるだろう。中央部を強く押した時に全体がたわむ感じや、強いタッチでタイピングした時に強度のない感触があるのが当たり前だ。ところが、「LuvBook X シリーズ」にはそれがない。

トップカバーだけでなく、底面とキーボード面にもカーボン素材を採用したことで、キーボード部も非常に強くなっているのだ。普通にタイピングしている程度では全くゆがむ感触はない。

「キーボード部をカーボンにしたのはちょっとやり過ぎだったかも。強くていいんですが、ちょっとのズレを削って修正できる素材ではないので作るのは大変です。3面カーボン、というとカッコイイんですが……」と平井氏は苦笑する。

外装表面はUVコーティングを施し、軽いひっかき傷等が目立たない作りにした。60cmの高さから落下させる衝撃試験も行っており、トップカバー等は77カ所ほどの点荷重試験も行っている。

「私自身がノートPCを持ち運ぶ時、ソフトケース等に入れずビジネスバッグに直接放り込みます。現実にはそういう使い方ですよね。それで大丈夫な頑丈さは意識しました。でもさすがに、東京の満員電車で大丈夫、とは言い切れません。バッグの角やポケットの鍵など、尖った部分で一気に荷重がかかる可能性もあるわけで、それに耐えるほどの作りではありません。でも、普通に使っている分には大丈夫です」と平井氏。

外装をカーボンにするだけでなく、内部構造も強度にこだわっている。バッテリー部と左右スピーカーががっちりと組み合い、まるで一枚の板のような形でケースに取り付けられている。ネジをとめると、強度を出すフレームとして機能する構造だ。基盤上には専用設計のパーツ類が並び、わずかな隙間も作らないほどに詰め込まれている。隙間を作らないことがマシンを薄型化することにつながり、余分な空間がないことで強度が出されているのだ。

「バッテリーの縁がケーブルフックになっていたり、専用設計のパーツばかりです。キーボードもフレームを兼ねることを期待して、パンチングで留めてしまっています。おかげでがっちりとした作りになり、タッチ感もよいのですが、キーボードが壊れただけで修理は大変です」と平井氏。

ディスプレイ側にはそれほど強度を出すためのパーツを仕込む余裕がないため、非常に強い衝撃がかかった場合にはカーボンのトップカバーよりも先に液晶が割れる可能性もある。使っている中で多少のよじれ等が出ることも想定しており、全てを飲み込んでの設計だ。

バッテリーは平たく大きい作りで、縁にはケーブルフックも取り付けられている バッテリーとスピーカーが外装にぴったりとはまり込み強度を出すフレームとして役立っている バッテリーを取り外した内部はパーツが細かい空間を埋め尽くしている
キーボード裏面は内側からパンチングでがっちりと固定 底面カバー内側には放熱用素材を貼り付け。このサイズも放熱性能と重量のバランスをギリギリまで見極めて決定されている

次世代モデルではさらなる追求を目指す

「2年前、最初の構想ではフルインターフェースでした。それは重さ的にも厳しいだろうとわかり、カーボンという素材が端の方を少しだけ湾曲させる、というような造形に向かないものだったこともあり、諦めた部分もあります」と平井氏は開発の苦労を語る。

特にカーボンという素材に関しては、製造が難しいことからロスはかなり多いようだ。「曲げたりで修正できる素材ではないですし、わずかな歪みが出たりもしやすいのでロット丸ごと捨てるしかないこともあります。カーボンなのに安い、と言っていただけるのですが、正直価格には多少跳ね返っていますね。それでも10万円以下がマシンとしては適正価格だと思っていますし、そういうコンセプトのモデルですから利益を削ってこの価格にしています」と平井氏。社内では厳しい目もあるようだが、マウスコンピューターの心意気を見せた製品だといえるだろう。

現在、ユーザーからは指紋がつきやすいという指摘や、第3世代 Core iシリーズを搭載したマシンがいつ出るのかという問い合わせが多いという。カラーバリエーションへの要望も強い。

「第3世代 Core iに関しては、単純に載せ替えるのではなく何か足したりしたいですね。実は第2世代で出したのには、急いで出したいという理由があったのです。世の中でUltrabookといえば1.5kgクラス、というイメージが定着してしまう前に出したかったのです」と平井氏は語る。

第3世代 Core iシリーズの場合は負荷がかかった時の発熱が多くなるため、新たな工夫も必要そうだという。そして、バージョンアップさせるからには何かトピックスとなるものを盛り込みたいというのがマウスコンピューターの意向だ。

「たとえば10g軽くできるなら、その10gで何かを載せることも考えたいですね。バッテリー強化とか。10時間以上の連続利用が可能、というのはバッテリーのマジックワードだと思います。また、キーボードの強化もしたいですね。アイソレーションではない普通のキーボードにするとか。キーボードにはまだまだ追求の余地があると思っています」と平井氏は貪欲だ。

マウスコンピューターならではのBTOへの対応なども構想にある。ポインティングデバイスの工夫など、平井氏自身がモバイルマシンへのこだわりを持っているだけに、追求したいポイントは多い。

「実は、G-Tuneブランドで出しているNEXTGEAR-NOTE 11.6型も、Xシリーズ開発の副産物なんです。協力会社の中にはハイスペックを追い求めたい所と軽量化を追いたい所など、個性があります。ハイスペック指向の協力会社と思い切って作ったのがNEXTGEAR-NOTE 11.6型です。海外でも評判がいいのですが、おもしろいマシンでしょう? でも今年は11.6インチで暴走しすぎかな」と平井氏は笑う。

「Xシリーズはモバイルの基点にしたいですね。これ1台で終わるということはありません」と力づよく語った平井氏。その熱意が詰め込まれているマシンが「LuvBook X シリーズ」だ。

(マイナビニュース広告企画)

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