パナソニックは今年再参入した海外市場からの撤退のみならず、日本での事業縮小も検討しているという。美しいデザインと防水機能を備えた同社の製品も、並居る競合製品がひしめく海外市場を攻めることはできなかった。
1年を待たずしてヨーロッパから撤退
2011年冬に海外市場再参入を発表したパナソニックだったが、その道は早くも閉ざされてしまうようだ。ヨーロッパでの2012年の販売目標台数は150万台とされ、来年以降は各国への展開も予定されていた。だが再参入から1年と経たずの事業撤退の決定は、ヨーロッパでの端末販売数が極端な不振に留まっているということなのだろう。
では実際にヨーロッパでの売れ行きはどうだったのだろうか? 今年9月にベルリンで開催されたIFA2012の取材の折に、地元の大手家電量販店を訪れてみた。ヨーロッパ向けの「ELUGA DL1」は各店舗で販売されているものの、SamsungやHTC、Sonyなど大手メーカーの多数のラインナップの中に1機種だけでは埋もれてしまっているかのような印象を受けた。店舗によっては水槽に入れて防水機能を見やすく展示していたが、多くの来客はその前を素通りしているようだった。
パナソニックはヨーロッパでもTVや家電を販売しており認知度は高い。だが2005年にはGSM携帯電話事業から撤退しており携帯電話メーカーとしてのブランド力は皆無に等しい。そのため今年になって新しくスマートフォンを発売したからといって、1機種だけでは消費者の目を惹き付けることは難しかったのだろう。なにせ今年上半期だけを見てもSamsungは10機種以上、ソニーもほぼ毎月新製品を市場に投入している。ハイエンドにシフトしているHTCもOneシリーズ、Desireシリーズを複数展開。さらにはHuaweiやZTE、そしてヨーロッパでは未だに根強いブランド力を持つAlcatelの製品も複数機種が販売されている。
ELUGA DL1は薄さやスタイリッシュなデザイン、そして防水機能を売りとしていたものの、多種多様な製品が乱立するヨーロッパ市場では特徴すら出せなかったのが敗因の一つだろう。また目玉の防水機能も市場ニーズがあったかどうかも大きな疑問だ。海外では防水機能の無いスマートフォンが一般的であり、防水は特殊機能としてごく一部の機種のみが採用している。つまり防水機能を必須と考えている消費者の数は多くないと考えているメーカーが大多数なのだ。そのような市場で「防水」をアピールする意味は果たしてあったのだろうか?
今や各メーカーはラインナップの拡充に必死だ。製品のバリエーションを増やせば消費者の目を自社製品に向けさせることが可能となり、また多様な消費者ニーズに対しても対応できる。少数のモデル数で勝負できるのは高いブランド力と総合的な使いやすさ、そして製品そのものに魅力を持たせたAppleだけだ。パナソニックが海外市場を本気で攻めるのであれば年始に発表した2機種をすぐに市場に投入するだけではなく、この秋には後継機となる新製品を出すくらいの意気込みが必要だったのではないだろうか?
ラインナップ拡充なくしてシェア拡大は難しい
シェア上位メーカーは年間数十機種もの新製品を市場に投入している。これは多様化する消費者ニーズに応えることで、あらゆる消費者層に自社製品を販売するためだ。前述したようにソニーは今年になって旧ソニー・エリクソンから単独で市場に参入し、毎月新製品を発表・発売している。その結果昨年はシェア下位にあえいでいた同社が今年第3四半期にはヨーロッパのスマートフォンシェアでNokiaとRIMを抜き3位(Kantar社調査)に、また全世界でも3位(Canalys社調査)とみごとな復活を遂げている。
ソニーの今の製品ラインナップはハイエンドからエントリーまで揃っており、海外専用モデルが大半を占める。一方で日本では必須の防水機能を備えた製品はわずかしかない。旧ソニー・エリクソン時代からの製品資産はあるとはいえ、わずか1年での復活劇は豊富な製品数を短期間で揃えた結果がもたらしたものだろう。
パナソニックもELUGAの第一弾投入後、たて続けに製品を投入する計画があったのかもしれない。だが2月に製品を展示会に出しメディアにも大々的に取り上げられたあと、実際に市場に製品が投入されたのは4月過ぎだった。この間にHTCはOneシリーズを投入、すぐ5月にはSamsungがGALAXY S IIIを発表するなど各社のスマートフォン競争は過熱化する一方である。新製品を迅速に、そして立て続けに様々なバリエーションのモデルを投入しなくては今の海外市場で販売数を伸ばし、シェアを奪っていくのは困難なのだ。