SFGateによると、8日に行われたTwitterのプレスイベントでCEOのDick Costolo氏が、Google+はサービスが複雑すぎてユーザーを遠ざけていると指摘したという。同社は近々Twitterのデザイン刷新を予定しており、VentureBeatによると同氏は「できる限りインタフェースをシンプルにして、デバイス間およびプラットフォーム間の整合(consistent)を保ちたい」と述べたそうだ。この発言について、VentureBeatのJolie O'Dell氏は「言い換えれば、TwitterはTwitter.comと、タブレットやモバイルデバイスのTwitterを、同じ見た目、そして同じ機能であるようにしようとしている」と解説している。

"シンプル"というからには、モバイル向けのデザインを土台に、そこにパソコンユーザーも満足させる機能を含ませるのだろう。ただTwitterの使い方は、デバイスによって異なるものだ。携帯電話ではすばやくつぶやけるのが大事だし、同じモバイルデバイスでもタブレットは流れてくる情報を確認するのに向いている。じっくり腰を据えて情報を整理するなら、より大きなディスプレイとキーボードを備えたパソコンである。このようなデバイスごとの違いに対応しているのが、今のTwitter.comとTwitterクライアントの便利なところであり、すべてのデバイスを1つのインタフェースでカバーするというのは、特にパソコンでの利用において改悪になりそうな印象を覚える。そもそもCostolo氏の言う整合は、本当に"同じ見た目"を意味しているのだろうか……と次々に疑問が浮かんでくる。

モバイルに軸足を移すためのAmazonタブレット

タブレットやスマートフォンがパソコンを上回るペースで売れ続けている。早晩モバイルデバイスからインターネットを使うのが当たり前になりそうで、さらにその先でモバイルデバイスがパソコンから本流の座を奪いそうな勢いである。Webサイトを提供する側にとっては、Webサイト・デザインやビジネス戦略において、モバイルを優先すべきか、それともしばらくデスクトップPC優先にとどまるべきか……タイミングの見極めが悩ましい。

Archimedes VenturesのパートナーであるKeith Teare氏は、TechCrunchに寄稿した「Smart Mobile And The Thin Cloud」の中で、「2011年に何かを構築するなら、誰もが"モバイル・ファースト"を検討するだろう。ひょっとすると"モバイル・オンリー"かもしれない」と断言している。ノートPCを含めパソコンは専門的な作業をこなすためのデバイスに縮小し、クラウドをストレージと配信手段として用いることで、スマートフォンに代表されるモバイルデバイスが役割を広げると見る。それだけではない。今のGoogleやFacebookなど、デスクトップブラウザからの利用を軸としたいわゆるWeb 2.0時代のWebアプリやWebサービスを"厚いクラウド(thick cloud)"と表現し、それらが間もなく時代遅れになると予測する。より大きくシンプルな薄いクラウド(thin cloud)と、それらとユーザーを結びつけるリッチクライアントが次の時代の主役になるという。

逆に、ユーザビリティ研究の第一人者であるJakob Nielsen氏は「Webサイトをモバイル・ファーストでデザインしてから、その上でデスクトップPC向けに手を加えることを勧める人たちがいるが、私は反対だ」と反論している。今後のモバイルデバイスの成長を認めるものの、ディスプレイが大きく、マウス/キーボードが使えるというだけでも、まだデスクトップPCの大きなアドバンテージであり、さらに高速なネット接続、ハードウエア性能、成熟したソフトウエア資産、印刷(ペーパーレスオフィスはまやかしと断言)が、今はパソコンを価値のあるものにしていると述べる。

どちらの見方にも一理ある。こうした困った状況に対して、インタラクティブデザイン会社のZURBは「Think Usability Instead of Simplicity (シンプリシティではなく、ユーザビリティで考えろ)」と提言している。シンプルさ(Simplicity)と、機能・性能(Capability)は本来相反するものであり、どちらも追求すれば矛盾するのは当たり前だ。そこで、ユーザーが必ずしもシンプルさを必要としているのではなく、ユーザーが本当に求めているのは使いやすさ(Usability)であることに気づくべきだとしている。ポイントは、以下の2つ。

  1. シンプリシティは初期に効果を発揮する。機能・性能の追加は製品が成熟する過程で追加するのが最善。

  2. 人々は、それほどシンプルさや機能の品質を気にしていない。本当に求めているのは使いものになる製品……つまり、人々が抱えている問題を解決する製品、もしくは彼らが理解できる製品である。因って、ユーザーにとって役立つように、そして彼らが理解できるように機能を追加するのが仕事になる。

TwitterのCostolo氏が述べた整合も、この使いやすさと機能の関係を指しているのではないだろうか。整合とはすべてのデバイスをカバーする1つのインターフェイスではなく、すべてのデバイスでユーザーが悩まずに、Twitterのすべての機能を楽しめるように、Twitter自体をシンプルにとどめるということではないかと思う。

ZURBは製品初期の段階でシンプルさが活きるとしていたが、フルWebを使えるモバイルデバイス自体がまだ初期の段階であり、それらを使いやすいものとしてカバーするには、今はまだサービスのシンプリシティを維持せざるを得ない。それでパソコンでの使い勝手が犠牲になるのならば、今はパソコンに軸足を置くか、モバイルとパソコンを切り分けるべきである。逆に言うと、元来シンプルなTwitterは現段階で十分な機能と使い勝手をすべてのデバイスに提供できる数少ないWebサービスである。さらにシンプルさを極めるというのは、他のソーシャルサービスに対抗する上で、自身のアドバンテージを十二分に活かしていくという宣言に聞こえる。

一方、Google+はTeare氏の言うパソコンのWebブラウザで使うThick Cloudサービスであり、モバイルデバイスでの利用は補足的なものにとどまっている。そのThick CloudぶりをCostolo氏は"複雑"と表現し、モバイルデバイスからフルサービスを利用できないことを"ユーザーを遠ざけている"としているのだろう。

Google+だけではない。パソコン向けにリッチな機能を追加してきた成熟期にあるWebサイトやWebサービスは、モバイルデバイス時代のユーザビリティの実現に悩むことになる。

米Wall Street Journalが4日に、米Amazon.comがWebサイトのデザイン刷新を計画していると報じた。年内の登場が噂されるAndroidタブレット端末を視野に入れたもので、トップページが従来よりも簡素化され、余白が増え、ボタンや検索窓が大きくなるという。Amazonはすでにモバイルデバイス向けのWebページを用意しているが、今試している新デザインは、デスクトップ用とモバイル用を切り分けるのではなく、歩み寄らせる第1歩になるのだろう。

Amazonは、すでにiPad版、iPhone/iPod touch版、Android版、Windows Phone 7版、BlackBerry版のKindleクライアントを提供している。そのため、電子ペーパーのような際だった特徴を持たないAndroidタブレットを「今さら、なぜAmazonが投入する意義があるのか?」という疑問の声が聞こえてくる。

Amazonの狙いはiPadや既存のAndroidタブレットを打倒することではないと思う。Twitter同様、デスクトップPCとモバイルデバイスの両方を等しくカバーしたいのではないだろうか。現状では、タブレット版のKindleやKindle Storeは他のプラットフォームに間借りしているようなもので、誰もがAmazonの本流はデスクトップPC向けのAmazon.comだと思っている。パソコン向けのWebサイトを極めたAmazon.comが、モバイルデバイス時代の新たな使い勝手の構築に乗り出しても、今の間借り状態ではシフトを明確に印象づけられない。KindleブランドのタブレットをAmazonが自ら用意するぐらいの、インパクトのある再スタートが必要なのだろう。