他の乗り物と異なる鉄道の特徴として、複数の車両を連結して「編成」を組んでいる点が挙げられる。さまざまなパターンがあるが、基本的には同じ種類の車両同士で連結するのが普通だ。しかし、ときには例外も発生する。そして、例外が発生すると「足並みを揃える」ための工夫が必要になる。

併結運転と協調運転の違い

ひとつの編成だけなら、同じ系列の車両、あるいは系列が違っていても性能を揃えた車両同士で行うのが普通だ。そうしないとスムーズな運転ができない。

例えば、併結した編成同士で加速性能が異なれば、どういうことになるだろうか。加速性能に優れる車両が後ろに位置すれば、それが加速性能に劣る方の編成を「押す」ことになるから、ギクシャクするだろう。逆の配置なら、加速性能に劣る方の編成が「引っ張られる」ことになるし、ヘタをすれば連結器が切れる事故につながるかも知れない。

これは制動時も同じで、併結した編成同士で減速性能が異なれば、やはり押されてギクシャクしたり、引っ張られて連結器が切れる可能性につながったりする事態が懸念される。

そこまで極端でなくても、不具合が生じる可能性はある。つまり、加速度や減速度の数字が平均値だけ見ると同じでも、加速・減速曲線に違いがあれば、やはりギクシャクする。一方は出足が良くて高速域の伸びが悪い、他方はその逆、なんてことになればスムーズに行くはずがない。

そういう問題を避けるには、同系列の車両同士で併結するのが無難だ。例えば、東北本線・高崎線・東海道本線・横須賀線では、E231系やE233系の15両編成が走っているが、これは「15両通し」ではなくて、「10両+5両」である。しかし、同じE231系同士・E233系同士だから、足並みは揃えてあるし、スムーズに走れる。

E233系の15両編成は、5両の付属編成(手前側)と10両の基本編成(奥側)で構成するが、もちろん足並みは揃っている

小田急電鉄みたいに、異なる形式同士で併結運転を行っている事例もあるが、これも最初からそのつもりで設計して足並みを揃えてあるので、問題はない。過去には、特定の系列に限って減速時に足並みが乱れる問題が出て、併結を避けた事例もあったが。

それでも、同じ「電車同士」「気動車同士」であれば、設計の時点で足並みを揃えるのは比較的実現しやすい。難しいのは、異なる種類の動力車を連結して一緒に走らせる場合だ。例えば「機関車+電車」「機関車+気動車」「電車+気動車」といった組み合わせがある。

足並みを揃えるのが協調運転

異なる種類の動力車同士を連結して、その中の1人の運転士、あるいは機関士の指示により、全体で足並みを揃えて運転するケースを、特に「協調運転」という。ただし、協調の有無が問題になるのは動力源の方で、ブレーキについては車種に関係なく、編成全体で一括して面倒を見る。

「協調運転」と呼ぶのは、異なる種類の動力車同士を併結していて、かつ、連結した双方で動力を作動させる場合。系列が違っていても、電車同士なら殊更に「協調運転」とはいわないのが一般的。また、電車と気動車を併結していても、気動車の側が動力を切ってぶら下がっているだけなら、これも協調運転とはいわない。

過去に碓氷峠で行っていたように、電車は力行しないで機関車に押し上げてもらうだけなら、これも客車と同じだから協調運転とはいわない。ただしそれでは電車の連結両数が限られるということで、後に機関車との協調運転が可能な電車(169系急行型電車や489系特急型電車)を開発した。そして、機関車に乗った機関士の指示で、機関車と電車をまとめて制御した。

JR北海道では、201系気動車と731系電車を連結して協調運転を行っている。碓氷峠の場合、機関車と電車という違いはあるが、同じ電気車同士だった。これがJR北海道のケースになると、動力源が違う。もちろん、できるだけ性能を揃えるように工夫したため、201系は一般型気動車としては突出した高性能の持ち主になったのだが、それでも完全とはいえない。

つまり、動き出した直後は気動車の方が出足が良いが、速度が乗ってくると電車の速度の伸びが良くなってくる。だから、最初は気動車側の性能を意図的に抑えて、電車と足並みを揃えるように工夫しているそうである。

201系気動車(手前側)と731系電車(奥側)。動力源は違うが、協調制御を行うことで併結運転を実現した

そのほか、併結相手によって加速性能が異なる、なんていうケースもある。東北新幹線ではE5系の「はやて」「はやぶさ」が、秋田新幹線の「こまち」と併結運転を行っているが、現時点では「こまち」系統はE3系(起動加速度1.6km/h/s)とE6系(起動加速度1.71km/h/s)が混在している。するとE5系は、併結相手に応じて加速度を切り替える必要がある。

E3系とE5系のペア。このときE5系はE3系に足並みを揃えて加速度を落としているはず

E6系とE5系のペア。このときE5系はE6系ともども、本来の加速性能を発揮する

というわけで、併結運転や協調運転では、互いに加減速性能などの部分で足並みを揃えるために、きめ細かい工夫が必要になる。昔ならそれを必死になって機械的制御によって作り込もうと努力したところだが、今のインバータ制御車はソフトウェア制御だから、昔に比べると、制御の使い分けはやりやすくなったのではないだろうか。

ちなみに、山陽本線の瀬野~八本松間で行っているように後部補機(補機は補助機関車の略)を連結する場面では、まとめて制御しようとしても制御用の電気系統を接続できないので、必然的に別々に運転することになる。その場合、前後に離れた機関車の間で、無線でやりとりする等の方法で手作業による協調を図る。

これが電気機関車ならまだしも、蒸気機関車が重連や三重連を組んだりすると大変だ。先頭の機関車を担当する機関士が汽笛で合図して、他の機関車の機関士はそれを受けて細かく加速を制御することになる。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。