以前に、本連載の第5回と第6回で列車の衝突を防ぐための信号保安システムについて取り上げた。これ以外にも、「安全」に関わる機器やシステムはいろいろある。その多くは情報通信技術が関わっているので、その辺の話についても取り上げてみることにしよう。
監視カメラ
どこかの国みたいに、街中が至るところ監視カメラだらけになってしまうというのも息苦しそうだが、監視カメラがあることで安心感をもたらしたり、あるいは抑止力になったりする場合があることは否定できない。
東京メトロ南北線では開業当初から、省人化を図るためにカメラを利用した遠隔監視・管理機能を取り入れた。もちろん、監視作業は集中化するわけだから(個別の駅ごとに監視カメラ担当者を配置していたのでは省人化にならない)、その集中監視施設と、個々の駅に設けた監視カメラを結ぶ通信網が必要である。
南北線が初めて開業した1991年の時点だと、時期的にデジタル化されていたかどうかは分からない。だが、今から同様のシステムを整備するのであれば、間違いなくデジタル化することになるだろう。なにしろ、デジタル化する方が動画の保存が容易になる。ビデオテープを使って記録していたのでは大量のテープを必要とするが、デジタル化した動画データであれば、大容量のハードディスクを用意すれば、さほど場所をとらずに保管できる。
用途が用途だけに詳しい話はあまり明らかになっていないが、N700系やE5系のように、車内のデッキ部分に監視カメラを設置している車両でも、事情は似たようなものではないかと推察される。証拠保全の観点からすれば、駅の監視カメラと同様に、記録した映像は一定期間に渡って保存しておく必要があるだろう。そこでビデオテープの山を作るよりも、ハードディスクみたいなストレージデバイスにデジタル動画を保存する方が楽である。
しかも走っている列車の中に設置するカメラなのだから、機材はできるだけコンパクトにまとめたい。そして、記録したデータをずっと車両側に置いておくのは面倒だから、仕業を追えて入庫してきたところでデータを取り出すのが合理的だ。そういう意味でも、デジタル動画の方が扱いやすそうである。今なら、わざわざケーブルを接続しなくても、無線を介してダウンロードできるだろう。
障害物検知装置・防護発報・非常停止ボタンなど
ときどき、「線路内人立ち入りのため」といって電車が遅れることがある。もっとも、その背後にある理由はいろいろあるらしいが、それを個別に解説するのが本題ではない。
その「線路内人立ち入り」に限らず、踏切内で車両が立ち往生する、ホームドアや可動式ホーム柵と車両の間に人が挟まれたり取り残されたりする、といった具合に、列車の運行に差し障りが発生する「闖入者」はいろいろある。
急カーブ上にホームがある駅では、場所によっては車両とホームの間に大きな空間ができてしまうので、ホーム下部の線路脇に転落感知マットを設けて、人やモノが転落したことを知らせるようにしている場合もある。
また、踏切で車両が動けなくなったり、ホームから人が転落したりしたときに使用する「非常停止ボタン」というものもある。これは利用者が使用することを前提した機器だが、乗務員向けに、「防護発報」を発する機器を列車無線と一緒に搭載している場合もある。何か、安全な運行に支障するような事態を目撃したときに防護発報を作動させると、近隣にいる列車がみんな止まるというものである。ときどき、列車が急停止した際に「防護発報が~」と放送することがあるので、言葉ぐらいは耳にしたことがあるかも知れない。
ただ、防護発報を出すのはいいとして、それを確実に履行させる手段が問題である。無線で放送するとか、信号を赤(停止)にするとかいう手もあるが、そこでさらに一歩進めて、ATS(Automatic Train Stop)、あるいはATC(Automatic Train Control)といった保安システムと連接させると確実であろう。防護発報がかかったら自動的にATSやATCが作動して非常ブレーキをかけるわけだ。
ちなみに、踏切障害物検知装置、ホームドアや可動式ホーム柵、あるいは車両側に設置してホームがない側の扉を開けないようにするホーム検知装置など、「モノの有無」を調べるセンサー機器はいろいろある。この種の機器は、電波ではなくて超音波センサーや赤外線センサーを使用していることが多いようだ。
軍用IT機器に対する関心が強い立場からすると「レーザーでどうだ」と考えそうになるが、レーザーは波長に注意しないと人間の網膜に悪影響を及ぼすことがあるなど、扱いが少々難しいところがある。そのためか、光電管・超音波・赤外線といったセンサーの使用事例が多かったが、最近ではレーザーを使って広い範囲を走査する障害物検知装置を使う事例もあるようだ。
記述に一部不明瞭な部分がありましたので、該当箇所を差し替えました [06/21 16:00]
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。