最近、自動車メーカー各社は"電池"に関連した発表を相次いで行っている。この話題を以前から注視していたが、いよいよかという感じだ。電池というのは単純な鉛バッテリーではなく、電気自動車(EV)やハイブリッドカー、燃料電池車(FCV)に使用される高性能の二次電池のこと。

来年発売予定の三菱i MiVE。すでに電力供給会社とのフィールドテストも進み、市販レベルの完成度

試乗は東京・台場周辺で行われ、限界走行ができる特設コースも用意された

自動車メーカーは以前から二次電池の開発研究を独自で行ってきたが、高性能な二次電池を量産するとなると簡単にはいかないようなのだ。やはり電池は電気関連メーカーが強く、開発から生産まで高いノウハウを持っている。

トヨタが1997年に世界初の量産ハイブリッドカー・プリウスを発売するために、事前に松下電器と合弁で設立したのがパナソニックEVエナジー。世界トップクラスのトヨタでさえ、電池の開発から量産まで独自でやることはない。このようにハイブリッドカーで先行したトヨタは松下と連合を組むことが確定していたが、日本はもちろん世界の主要自動車メーカーは二次電池のパートナー探しに必死になっていた。

自動車メーカーにとって、どの電気(電池)メーカーと組むかによって将来が決まってしまうと言っても過言ではないからだ。ハイブリッドはもちろん、燃料電池車もほとんどが二次電池を併用するタイプだからだ。GMの燃料電池車は二次電池に頼らないシステムだが、そうしたクルマは少数派。次世代のクルマでは二次電池が性能や価格を大きく左右する。それを自動車メーカーは痛いほどわかっているから、パートナーに慎重になっていたわけだ。

電気自動車でもモーターやインバーターなどの冷却のためにラジエターを装備する

給油口ではなく、充電口。ガソリン車はリヤエンジンの吸気口になっている場所だ

メーターはノーマルをベースにしたものだが、左の燃料計がバッテリーの残量計に変更されている

セレクトレバー自体はノーマルと同様だが、新たにECOモードが追加されている。出力を抑えることで航続距離を延ばすためだ

また原油価格の高騰で状況が変わったことも大きい。燃料電池車普及までのつなぎといわれていたハイブリッドカーや電気自動車を、今は多くの自動車メーカーが発売の検討をしているのだ。そうした背景から今年に入ってから自動車メーカーと電池メーカーのパートナーが明らかになっている。前述にようにトヨタは松下だが、意外だったのは日産。日産はNECグループと09年からリチウムイオン電池の量産を開始すると発表した。意外というのはNEC系のリチウムイオン電池の開発はスバルと協力していたからだ。実際スバルはNECのリチウムイオン電池開発のエンジニアを受け入れて、社内で電池開発に取り組んでいた。トヨタがスバルを傘下に納めた一因も、リチウム電池の高いノウハウのためだったと思っていたからだ。

世界トップクラスの自動車メーカーの中ではフォルクスワーゲンが三洋電機と組むことが決まった。三洋電機といえば二次電池のトップブランド。そのノウハウにフォルクスワーゲンが注目したわけだ。三洋電機もリチウムイオンを含む電池を主力事業にすることを目指していたからウイン・ウインの関係を築けた。リチウムイオンのシステムを共同開発し、09年に市販車を投入する予定だから注目したい。

フューエルリッドオープーナーのマークもきちんとチャージリッドオープナーに変更されている

これが注目のジーエス・ユアサコーポレーションと共同開発したリチウムイオン電池。国産では日産の電気自動車のハイパーミニ、ティーノ・ハイブリッドがリチウムイオン電池を採用した例はあるが、本格的な量産車ではこれが初になる

小型高出力モーター。永久磁石式同期モーターは最高出力47kW (64PS)、最大トルク180Nm(18.4kgm)、最高回転数8500rpm

DC-DCコンバーター。これによってリチウムイオンバッテリーから330V、80Aの電気を作り出す。リチウムイオンの1セルは14.8V、50Ah

もうひとつのドイツ巨大自動車メーカーのダイムラーも、動きを加速させている。フォードと燃料電池のトップランナーであるバラード・パワー・システムと共同出資で自動車用燃料電池の新会社を設立した。ダイムラーは出資の半数以上を負担するという。以前から燃料電池車の開発ではダイムラーはバラードとパートナー関係にあったが、さらに関係が深まった。ダイムラーは燃料電池車だけではなく、ハイブリッドカーを09年に発売することを明らかにしている。SクラスのS400ブルーハイブリッドがそれ。詳細は不明だが搭載するリチウムイオン電池は大手タイヤメーカーのコンチネンタルと組んで開発したようだ。

アメリカの巨大自動車メーカーGMは複数から電池の調達を考えているようだ。ボッシュとサムスンの合弁会社と日本の日立製作所が調達先として明らかになっている。すでに日立のリチウムイオン電池は、GMのハイブリッドカーのサターン・ビューやシボレー・マリブに搭載することが決まっている。日立の子会社である日立ビークルエナジーが10万大規模で供給するようなのだ。

GMが本格的にハイブリッドカーを販売するのは2010年とまだ少し先の話だが、ハイブリッドカーで先行した日本は、いよいよ来年から本格電気自動車が市販される。今までも電気自動車は官公庁向けや電力会社向けに販売されていたが、一般向けの本格モデルが三菱から登場する。

車載充電器。一般的な家庭用AC100Vでも200Vにも対応する。200V・15Aで約7時間でフル充電。100V・15A なら約14時間でフル充電できる

車体左側のコンセントが急速充電用。電池容量の約80%までの充電なら約30分でOK

後ろに見えるのが急速充電器。これがコインパーキングや高速道路のパーキングなどに置かれるようになれば、ロングドライブも可能になるはずだ

走りはスムーズで静粛性も高い。乗り心地も満足できるレベルで、完成度はかなり高いため早く市販してほしい

軽自動車のiをベースにしたi MiVE(ミーブ)。このプロトタイプ試乗したがなかなか出来がいい。軽自動車規格のため乗員定員は4名だが最高速度は130km/h。一充電で走行できる距離は10・15モードで160kmを目指している。プロトタイプはまだ130kmだが、シティコミューターとしては十分な性能だ。近距離の通勤にも使える航続距離を確保していると言っていいだろう。

充電時間も短く、200V・15Aなら約7時間でフル充電できる。家庭にIH用などの200V電源がない普通の100V・15Aでも約14時間でフル充電できる。普段買い物などでちょっと乗るだけならば電気の消費が少ないためため、100Vでも十分に補充電できる。さらに3相200V・50kWの電気自動車用専用急速充電器なら約30分で80%まで充電できるというから、高速道路のサービスエリアに急速充電器が配備されれば長距離移動も可能だ。電池はジーエス・ユアサコーポレーションと三菱自動車、三菱商事が共同出資した会社で生産する。

動力性能はターボに近い感覚。操縦性の面では重いバッテリーがフロア下にあるため、ノーマルに比べ安定している感じがする

スラロームもスイスイこなす

スバルR1eの完成度も高く、プロトタイプとは言うものの市販レベル。ただしスバルが軽自動車から撤退することで、来年発売の予定がどうなるのか心配

リヤスタイルはノーマルとほぼ共通

走り出しは滑らか。わずかにモーター音が聞こえるくらいで、室内の静粛性は高い。これが電気自動車のもっとも得意とする性能で、ガソリンエンジンでは高級車でないと実現できない静かさがiのような軽自動車でもできてしまう。アクセルを素早く踏み込むとモーターが即座に十分なトルクを発生させて、軽とは思えない加速を見せる。車両重量は1080kgとガソリン車より約170kg増えているが、それをまったく感じさせない。

市街地での走りもガソリン車と遜色ない。今までの電気自動車はバッテリーが重いためサスペンションを固くする必要があったが、i MiVEはリチウムイオン電池を使っているためそれほど重くなっていない。サス設定も専用に見直されているので乗り心地がいいのだ。

さらに特設のコースでジムカーナのようなハードな走りも試したが、スラロームがガソリン車よりも安定している。これは重い電池を床下に納めているため重心が低くなった効果。電気自動車自動車が得意とするアクセルレスポンスもいいため、スポーティな走りが楽しめる。

充電はフロントグリル側から行う。スバルが軽自動車撤退を発表する前2007年12月発表の導入計画では、2009年に年間100台程度の規模で販売をスタートさせる予定。年々販売台数を拡大させ、3年から4年後には200万円レベルの価格を実現させるとしていた。年間数万台以上の販売を確保できれば、二次電池の価格が大量生産で大幅に下がり、販売価格は150万円を切るとまで発表している。当時の発表では2010年代の半ばに実現するとしていたが、どうなるのかが心配

インパネなどの基本デザインもガソリン車と変わらない

メインメーターの左側に付けられているのがバッテリーの残量計

右側にはパワーメーターが付けられる。0から下のブルーの部分は坂道や減速時の回生量を示す

さらにうれしいのがランニングコスト。ガソリンはリッター200円に突入しそうな勢いだが、電気自動車は深夜電力料金で充電すれば数十円。電力料金の設定は複雑なため計算方法に違いは出るが、圧倒的にランニングコストは安い。電気自動車が普及すると霞ヶ関の役人は"自動車充電税"を考え出すに違いないが…。

このi MiVEは09年に市販される予定。気になるのは価格だが、ガソリン車より少し高くなりそうだ。三菱は200万円を切る価格を実現したいようだが、資材が高騰する中では厳しい。予想では250万円で補助金を使って200万円を少しオーバーする程度になるだろう。電池の寿命は10年・約10万kmを目安にしているという。エンジンオイルなども使わないから、ほぼメンテナンスフリーというのも電気自動車のいいところだ。

プロトタイプらしいのは、無造作にラゲッジスペースに入れられている充電用コード

上に見えるのがインバーター部分。このアングルからはモーターは見えない

下を覗き込むとわずかにモーターが見える

三菱はiの海外販売をすべて電気自動車にすることを決めた。燃料電池自動車の開発では少し遅れたが、三菱は電気自動車でグローバルに生き残る作戦。これが人気車になれば自社の立て直しも加速するだろうし、コストダウンも一気に進むはず。三菱にとってi MiVEは大きなターニングポイントになるクルマなのだ。

もう1台気になる電気自動車がスバルR1e。すでにエコカーなどのイベントに登場しているので知っている人も多いだろうが、これも三菱と同時期に発売予定のクルマだ。スバルは自社開発の軽自動車から撤退することを明らかにしているため、R1eが本当に発売されるかが心配。このクルマもプロトタイプに試乗したが三菱同様に市販レベルのまとまりを見せている。電池によって重くなったボディもサスペンションの設定で乗り心地を改善。ぜひ市販してもらいたい一台だ。

電気自動車はエコでランニングコストが安く、メンテナンスフリーといいことが多いが、まだ解決しなければならない点がある。電池のコストと耐久性はもちろん、寒冷地での快適性がネック。ガソリンエンジンと違い大きな熱源がないため、冬にヒーターが効きにくいのだ。二酸化炭素を冷媒にした高性能なヒートポンプエアコンもあるが、まだ高価で使えない。そのため各社は自己温度管理ができるPTCヒーターを採用する予定だ。すでにプリウスなどでエアコンに採用しているヒーターなので車載時の安全性も確認されている。

充電のときなど外部電源を取れる状態ではあらかじめエアコンを作動させる、プレヒート、プレクール機能を付けることも考えている。これがあれば寒い朝でもヒーターのための電池消費は最小限に抑えられるだろう。

いよいよ電気自動車が本格的に走り始める。電池メーカーを含めてこの競争で、新たな自動車メーカーの再編が起こることが予想できる。