ツイッター、Facebookの次に来るのはGoogle+!?

これからは「Google+」の時代がやってきます。

こう吹聴するWeb業界人が増えそうで、今からげんなりしています。「Google+」とは、いわずと知れたグーグルが試験運用を始めたSNSで、先日ユーザーローカルが公開した人気ランキング(ツイッターでいうところのフォロワー、ミクシィでいうところのマイミクの数の集計)にはツイッターやFacebookを礼賛していた業界著名人が並びます。昨年はツイッターでビジネスが変わると喧伝していた人が、今年に入ると「本命はFacebookだった」と手のひらを返し、次は「Google+にいくだろう」というわけです。

新しいモノに飛びついては、とにかく素晴らしいと喧伝するのがWeb業界のビジネスモデルで、これ自体はインターネット黎明期から何一つ変わっていません。そして、もう1つ変わらないのが「誰でもできる」という枕詞。PCが「マイコン」と呼ばれた時代から、新製品が発売されるたびに使われてきた言葉です。

この2つが組み合わさり、「誰でもFacebookでビジネスを成功させる」という書籍やセミナーが粗製濫造されるという構図です。しかし、「できる」と「成功」は別の議論です。

誰でもできるツールの効果は使い手のスペックによる

誰でもできるということは、その「誰」のスペックに結果が左右されるということを意味します。このことは「ブログ」を例に考えればわかります。無名の中年男性のエントリーとモデルでタレントの佐々木希さんの日記、皆さんはどちらを見たいでしょうか?

中年男性の文才が溢れているれば話は別ですが、文才は誰もが持っているものではありません。ツイッターにFacebook、そしてGoogle+といった誰でも気軽に使えるツールを使っての勝負では、本人の「スペック」が大きくモノをいうわけです。

飲食業を営むTさんはブログにツイッター、最近ではFacebookにも挑戦しています。しかし、すでに述べたようにこうした誰でも取り組めるネットツールの成否は本人のスペックによるため、Tさんの取り組みはどれも成功しているとは言い難いものでした。

そんなある日、Tさんの元へ「貴店への集客について」というダイレクト(電子)メールが届きます。その内容を要約すると、ブログとツイッターを組み合わせることでワンサカ客が訪れるというものです。ネットで喧伝される「成功物語」を信じる素直なTさんは自分の「やり方」が悪かったのだと考え、メールに書かれていたURLにアクセスします。

ボットで客がわんさか来る……か?

ブログの見出しとURLを自動的にツイートすることでブログへ集客し、そこから店舗へ誘導する集客方法が説明されます。店舗へ誘導ができる理由は「半径5キロ以内にいるツイッター利用者にアプローチできる」からです。また、ツイッターのリアルタイム性を駆使することで、好きな時間に客を呼べるといいます。

この集客方法を始めた店舗では、数百人のユーザーが押しかけるようになり、今ではこの集客方法を中止している。そんな強力な集客方法がわずか9800円で買える……というわけで、Tさんはすぐにその集客方法にチャレンジしましたが、客が増えることはありませんでした。

この集客方法を検証していきましょう。まず、ブログの内容を自動的にツイートする方法を「ボット」と呼び、多少の知識があれば無料で設置することができます。しかし、先ほどブログを例に説明したように、誰が見ず知らずの飲食店店主のツイートを見るでしょうか。そもそもツイートを見てくれるのは自分をフォローしている人だけです。フォローされていなければ何億回自動でツイートしても客が来ることはありません。

次に「半径5キロ以内のツイッター利用者」へのアプローチを見てみます。これは位置情報を公開してツイートしている利用者がターゲットで、例えば、東京・渋谷に店があったとして、ツイッターの検索窓(あるいはオプション検索)に

「near:"渋谷" within:5km」

と入力すると、5キロ以内にいるツイッター利用者の一覧が表示されるので、その彼らに絡む(話しかける)という方法です。

人間力が反映される

想像してみてください。ツイッターから突然、見ず知らずの飲食店店主が話しかけてくるのです。異常に話が上手といったように、コミュニケーション能力が飛び抜けて高い人なら、突然の声がけから友情が芽生えることもあるでしょう。しかし、それは「誰でも」できることではありません。

「ボット」や特定地域の利用者を捜し出して絡むことは、方法論としては「誰でも」できますが、それが集客に直結するものではありません。この集客方法はコミュニケーション能力という個人のスペックがなおざりにされており、Web業界の「誰でも●●で」と繰り返すビジネスモデルと同じ「誰でも0.2」です。

Tさんがこの集客方法に飛びついた背景には、Web業界の数々の礼賛があります。ブログ、ツイッター、Facebookが成功例と共に賛美され続け、「誰でもできる」というのに、うまくいかないのは自分が悪いと自分を責めていたのです。しかし、Web業界の著名人が繰り返す「誰でも●●」を真剣に受け止めてはダメ。効果・効能には個人差があるダイエットグッズを「誰でも痩せる」かのように礼賛する、通販番組でのタレントのコメントと同じだからです。

ちなみに、私がこの「集客方法(実在します)」で疑問に思うのは「5キロ」という設定。渋谷駅から東に5キロ行くと日本テレビがある汐留(新橋)。東京の便利な鉄道網を駆使したとしても渋谷まで行くのは面倒です。北は大久保駅を少し越えて早稲田大学の近く。渋谷に向かう前に、大歓楽街「新宿」に客を奪われることでしょう。Webの世界では「商圏」といった「リアル」が忘れられがちです。

エンタープライズ1.0への箴言


「誰でもできる方法は個人のスペックが勝敗を決する」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi