鳩山首相に見る矜持

国会議員の「月給」は、任期が1日しかなくても「満額」支給されます。昨年夏の衆院選挙でも8月30日、31日のたった2日間で各衆議院議員に満額が支給され議論を呼んだことを覚えている方も多いでしょう。総額でおおよそ11億円です。規則とはいえ蓮舫参院議員が一躍脚光を浴びた「事業仕分け」で、まず切り込むべきはここだったのではないでしょうか。

その点、我らが鳩山由紀夫首相は立派です。まず御自らが率先して母親から9億円を超える「子供手当」を受けていたのですから。まずは隗(かい)より始めよ。子供手当については、「ばらまき」批判に加えて、子育てへの貢献・意義を問う声に彼はこう答えるでしょう。

「子供手当があったから首相になれた」

冗談はさておき、いざ自分のことになると「棚上げ」してしまうのは国会議員だけではありません。新聞離れを嘆きながら、新聞を読まない新聞記者もいますし、ホームページから受注できないITコンサルタントが、ネットビジネスを語ります。

コンサルタントのタイプ

医療器具製造業のM社長は、ネット通販事業に乗り出すことを決意しました。構造改革の荒波は医療界にも押し寄せ、経費削減の圧力が豊かな漁場を荒らしてきます。目に見えて落ちる売り上げを補完するため「民生品」を開発し、健康グッズとして売ることを考えたのです。

ところがサッパリ売れません。そこで知人のつてを頼りITコンサルタントに相談しました。コンサルタントは開口一番こう切り出します。

「時代はSEMです」

SEMとは「Search Engine Marketing」の略称で、意訳をすれば検索エンジンに探されることを前提として集客を考える方法論で、検索エンジンで探されるやすくするための「SEO(Search Engine Optimization)」の実践編といったところです。

「LPO」「CMS」とコンサルタントは耳慣れない言葉を並べまくし立てます。M社長の表情は次第に曇り、眉間にしわが寄ります。M社長は「素人」相手に専門用語を羅列するコンサルタントに疑問を持ち、こう訊ねました。

「先生が実践され、商売に繋がったものはなんですか」

コンサルタントは狼狽し、M社長はニヤリと笑います。

サイトでのショッピング

昔、あるコンサルタントから聞いた話です。

「ひとつの方法を100人に教える。すると必ずひとりは成功者がでてくる。あとは近づいて自分の手柄にするのさ」

競馬や競艇などの公営ギャンブルにおける「コーチ屋」に似ています。適当な予想を複数の人にし、「結果的に当たった予想」を伝えた客を探しだし「ご祝儀」を貰うビジネスモデルです。実戦経験の乏しいコンサルタントは少なくありません。セミナーで100人集めることができれば、そのうちの1人ぐらいは何も教えなくても成功するもので、こうしたコンサルタントがもつノウハウは「100人の客を集める」ことで、ホームページの実戦の妙法ではありません。これは「セミナー系ビジネス」全般に通じます。

M社長は以前、この「セミナー系」の経営コンサルタントで痛い思いをしており、専門用語を並べて一般論を述べる様子に同じ匂いを感じたのです。そして、自分ができていないことを「先生面(づら)」して能書きを垂れるなど言語道断と追い払います。

あらためて実戦経験豊富なコンサルタントを探し訊ねます。新しいコンサルタントは、サイトを見るなり溜息と共にこう質問しました。

「M社長、ネットで買い物したことありますか?」

サイトには購入手順が示されておらず、どこをクリックすれば申し込めるのかがわかりません。支払い方法が明記されておらず、カード払いがOKなのか、それとも代引きか振り込みかが不明です。配送日についての説明がないのでいつ商品が届くかわかりません。おまけにようやく商品購入画面に辿り着いても、住所氏名などの必要事項の下にはずらっとアンケートが並び、「購入申し込み」ボタンが最下段では購入意欲に水を差します。

新聞を読まない新聞記者

M社長曰く「僕はアナログ人間だから」。ネット通販をしたことがないと続けます。つまり、ネット通販を一度も利用したことがなく、ネット通販をはじめたのです。それは、実戦経験の乏しいコンサルタントや、自分の給与を削れない国会議員と重なる「棚上げ0.2」です。

アンケートを並べた理由を訊ねると、「客の声を大切にしろ」と何かの本で読んだと答えます。客の声を聞いたとしても、自分に客としての経験がなければ、その真意を感じ取ることはできないのは、スキー場に行ったことがない人間に、「リフト」や「ゴンドラ」への不満を告げても分からないのと同じです。

また、恵まれすぎた環境に育った人の語る「格差社会」が、どこか空々しいことにも通じます。

まずは隗より始めよ。ネットも政治も。

「新聞離れ」が叫ばれています。部数の落ち込みは破滅的で、生き残りを賭けて各社必死の取り組みを展開しています。そんな中、某全国紙は「iPhone」向けに無料で新聞の配信をはじめました。ネットへの先行投資という意味合いもありますが、有料で販売している「新聞紙」の読者との整合性から議論は分かれます。その某新聞の記者は

「iPhoneで(自社の)新聞を読むのが日課」

とTwitterでつぶやきます。つまりは、こういうことです。

「自分はiPhoneで無料で読んでいるけど読者は買ってね♪」。読者離れを嘆き、記者は無料を楽しみます。この新聞に毎月2950円を支払っている私としては複雑な気持ちになり、現在、購入中止を検討しています。iPhone(iPodTouchでも可)を買えばタダなので。

エンタープライズ1.0への箴言


「自分がやらないことを客に押しつけるな」