スマートフォンブームで立ち上がったモバイルアプリ市場、数あるアプリケーションの中で、スマートフォンアプリとして名を成したのが「Angry Birds」だ。Appleの「iPhone」アプリとしてスタートし、この12月に晴れて1周年を迎えた。Angry Birdsを開発するのはフィンランドのRovio Mobile。Rovioは、久々に大成功を予感させる欧州ベンチャーだ。
真っ赤な顔に吊り上った太い眉、だがなぜか憎めないのは丸っこい体のせいだろうか。Angry Birdsは、この丸い赤い怒った鳥が卵を盗んだ緑の豚に攻撃するというゲームだ。羽がないので、ユーザーはAngry Birdをパチンコで打ち、緑の豚が隠れる要塞(?)を攻撃してスコアを獲得する(Angry Birdsは赤だけではなく、白(眉は下がっている)や黒もある)。ゲーム通ではないわたしでもルールはわかりやすいと思うし、はまってしまう人も多いらしい。Rovioによると、この秋にAngry Birdsのぬいぐるみを販売したところ、あっという間に完売したのだそうだ。Angry Birdsは、キャラクター、ネーミング、そしてゲームのコンセプトとすべてがうまくいったゲームといえそうだ。
ハロウィーンやクリスマスと、時期に合わせた限定版だけでなく、ぬいぐるみ事業まで展開するあたり、巧妙だなと感心するが、それもそのはず、Angry Birdsの開発の背景には、最初にあの赤い怒った鳥のキャラクターありきだったという。
Microsoftによる「Facebookを買収したかった」発言、PayPalによるWikiLeaksへのサービス停止の説明など、話題には事欠かなかった今年の「Le Web 2010」。Rovioの共同設立者兼CEOのMikael Hed氏が、TechCrunchライターのMG Siegler氏のQAセッションに登場、Angry Birdsの発展計画やRovioの展望などについて語った。
2003年、フィンランド・ヘルシンキ工科大学の学生だったHed氏はJarno Vakevainen氏、Kim Dikert氏とともにフィンランドのNokiaらが開催したモバイルゲーム開発コンテストに参加、これがその後、Rovio設立に至ったようだ。Angry Birdsの前に、Javaゲーム会社としてさまざまなゲームを開発してきたというから、モバイルゲームを熟知しているようだ。Angry Birdsについては、スタッフの1人のアイデアで、ゲームコンセプトはよくなかったようだが、赤く丸く怒った鳥というキャラクターを膨らませていったと背景を語っている。そのためだろう。早い段階でライセンスエージェントと手を組み、ブランディングに着手したと明かす。
Angry Birdsは2009年12月10日、iPhoneアプリとしてデビュー。まずは欧州でヒットし、その後米国に広まったという。秋には「Android」「Symbian」(Nokia/Ovi)に拡大、両プラットフォームでも人気アプリ上位にランクしている。iPhone版は、1日に6,500万回プレイされているともいわれている。
ユニークなのは、iPhoneで0.99ドルの有料アプリとしてスタートし、AndroidではGetJarと組んで無料の広告モデルを取った点だ。Hed氏はこれについて、iPhoneではiTunesというきちんとした課金のメカニズムがあるが、Androidではマーケットにより仕組みが異なり、すべてのマーケットで課金できなかったため、と説明している。だが、iPhoneアプリとして人気を呼んだ後の登場だけあり、大ヒット。現在、無料版から得られる広告の売り上げだけでも月に100万ドル程度とのことだ。Angry Birdsのダウンロード数は報道により異なるが、Hed氏はこの日、有料ダウンロードは1,200万件、無料ダウンロードは3,000万件と述べた。
Angry Birdsの今後の展開について、Facebook向けの提供、「Windows Phone 7」向けの提供、ゲームコンソール向けなど、プラットフォームを拡大していく計画を明らかにした。将来的には、iPhoneでやった後コンソールで続きを、といったことも可能にしていきたいという。
資金には不自由していないというHed氏、買収オファーも多いというがすべて断っている様子だ。「自分たちのビジネスを立ち上げたい」と思いを語る。
Rovioは今年初めに12人だったのが、現在40人弱。スタッフは倍増したが、ほとんどの作業がプラットフォーム対応に追われているとのこと。次の展開については、「新しいタイトルの開発」とHed氏、Angry Birdsが関係したものかもしれないし、まったく関係ないものかもしれない。それでも、ゲームの数を増やすよりも品質にフォーカスしていると慎重な姿勢をのぞかせ、「予算をもっとクリエイティブな方法に費やしたい」とHed氏は述べた。
フィンランドとモバイルといえばNokiaが浮かぶが、Nokiaは以前ほどの勢いはない。だが、そのNokiaが催したコンテストからRovioが誕生したというところに、時代の移り変わりを感じずにいられない。