米Virgin Galacticは12月7日にも、米国西部のモハーベ砂漠にて最新の宇宙船「SpaceShipTwo(SS2)」を披露する計画だ。当初の計画から数年遅れてはいるが、"200万ドルで宇宙旅行"実現がいよいよ近づいてきた。
Virgin Galacticは英国の億万長者 Richard Branson氏が率いるVirgin Group傘下企業。宇宙旅行をビジネスとする企業として2004年に設立された。本社は米国にある。
宇宙旅行ビジネスの立ち上げで不可欠な要素は、価格と手軽さだろう。民間人として宇宙に行った経験があるUbuntuの創業者 Mark Shuttleworth氏の場合、費用は約2,000万ドル、1年間もの準備期間を要したというが(Wikipedia参照)、旅行に1年の準備期間をかけられる人となると対象はぐっと狭くなる。金額については……言うまでもない。
Virgin Galacticは20万ドルでの宇宙旅行を提供するとうたっている。同社の宇宙旅行では、宇宙船が海抜高度100kmの"カーマンライン"といわれる大気圏と宇宙空間との境界線を超えた地点に数分間滞在、ここで旅行客はわずかの間、無重力状態を体験できる。また、宇宙船の窓から遠く離れた青く丸い地球を見たり、他の惑星を見ることもできるという。所要時間は2時間半程度。まさに観光旅行である。SS2はそれを実現するため、Virgin Galacticが米Scaled Compositesと提携して開発した宇宙船だ。
Scaled Compositesは、著名な航空・宇宙機設計者であるBurt Rutan氏が率いる企業だ。Rutan氏が設計した「SpaceShipOne」とマザーシップ「WhiteKnightOne」は2004年、民間宇宙船コンテストのX Prizeを受賞している。SS2はSpaceShipOneを土台にしたもので、WhiteKnightOneも「WhilteKnightTwo(WK2)」として5年がかりで開発が進められてきた。Branson氏はVirgin Galactic創業にあたり、Paul Allen氏(米Microsoftの共同創業者)のMojave Aerospace VenturesからSpaceShipOneの技術ライセンスを取得している。
SS2はパイロット2人、乗客6人の計8人乗りの宇宙船で、スペースシャトルの約3分の1のサイズという。素材にカーボンコンポジットを採用し、軽量化と燃料効率を改善する。SS2を載せたマザーシップのWK2は高度15km地点まで上昇後、SS2を切り離す。SS2はハイブリッドロケットエンジンを点火し、110km上昇するという流れだ。トレーニングを含む準備期間は2、3日、これなら(費用と興味と度胸があれば)宇宙旅行はまったくの不可能ではないだろう。Virgin Galanticは宇宙旅行に向け、米国とスウェーデンにエアポートならぬ"スペースポート"で米国とスウェーデンで準備中だ。
Virgin Galanticの試算によると、現在のフライト1回の総コストは200万ドルを下回るレベルとのことだ。スペースシャトルの打ち上げが1回10億ドルといわれていることを考えると、かなりコストが下がったといえる。それでも1人の"旅行代金"が20万ドル、1回の発射で運べる人数が6人であることを考えると、採算が採れるのは先になりそうだ。Branson氏はもちろん、20万ドルが多くの人にとって障害であり、ビジネスが本格的に離陸するには将来的に価格を下げる必要があることを認めている。
旅費と準備に加え(あるいは、それ以上に)、安全性も障害といってよいだろう。実際、Scales Compositesは2007年、モハーベ砂漠にある自社施設でSS2が利用するハイブリッドエンジンの爆発事故を起こしている。3人の死者を出したこの事故は、宇宙旅行の安全性イメージにマイナスとなった。Rutan氏は、「少なくとも飛行機が登場した当初の1920年代と同レベルの安全性を実現しなければならない」と述べている。
Virgin GalacticはScales Compositesと共同で7日にSS2をお披露目した後、テストフライトを2010年に開始する計画だ。順調にいけば、商用サービスは2011 - 2012年にスタートできる見込みという。
すでに約250人が同社の宇宙旅行に予約済みで、この中には、物理学者のStephen Hawking氏、映画「X-Men」シリーズの監督Brian Singer氏、日本の平松庚三氏(小僧com 代表取締役会長、元ライブドアホールディングス代表取締役社長)などがいる。
Branson氏は2004年に創業時、3年もすれば宇宙旅行が実現するとしていたが、予定より4、5年遅れることになる。今年7月に米ウィスコンシン州で開催された「EAA AirVenture Oshkosh 2009」では、WK2に自ら乗り込んでデモ飛行を行っている。なお、WK2の名称「VMS Eve」のEveはBranson氏の母親の名前(Eve Branson)に由来する。