米eBayが傘下企業Skypeの株式65%を総額約19億ドルで投資会社グループに売却することを発表した後、Skypeの設立者であるNiklas Zennstrom氏とJanus Friis氏が訴訟をはじめ、数々の動きに出ている。Skypeの将来はどうなるのか? また2人の創業者の狙いは何か?

Skypeについてはここで紹介するまでもないだろう。スウェーデン人のZennstrom氏とデンマーク人のFriis氏のコンビが2003年に立ち上げたVoIPサービス企業だ。その後、ブロードバンドの世界的普及と共に人気に火が付く。絶頂期の中、2人は2005年10月に総額31億ドルでeBayにSkypeを売却した。Zennstrom氏とFriis氏はその後もSkypeの経営に関わるが、2007年10月にeBayがSkypeの評価切り下げを発表した際にSkypeから離れた。2人はその後、"Venice Project"として進めてきたインターネットTVサービス「Joost」の立ち上げ、および自身のベンチャーキャピタルAtomicoに専念する。

eBayのSkype買収については、当初から買収の狙いやシナジー効果について疑問があった。Skype買収を決定したMeg Whitman氏から引き継いだeBayのCEO、John Donahoe氏がSkype売却やスピンオフを検討していることを公に認めたのは2009年初めのことだ。

だがSkypeは、ビジネスモデルの確立など当初から指摘されてきた課題はあるものの、ユーザー数を順調に増やし、「iPhone」などモバイル進出計画も進めてきた。有料サービスの利用者も増え、2009年第2四半期にはユーザー数は前年同期比42%増の4億8,050万人、売上高は同25%増の1億7,000万ドルに成長している。Donahoe氏は、2011年には年間10億ドル事業に成長する可能性も示唆している。

だがそのSkype、売却方針が明らかになったところで、創業者2人とeBay/Skypeの関係が良好ではないことが表面化する。

ここで登場するのが、Joltidという企業だ。Zennstrom氏とFriis氏が2001年に英国に設立した企業で、PtoPを利用した技術ソリューションの開発およびライセンスを事業とする。同社の主力技術が「Global Index」だ。JoltidのWebサイトによると、「Global Indexは、世界で最も地術的に高度かつ拡張性があり、実証実験済みのPtoP技術。自己管理/自己修正機能を持つ分散ストレージ/伝送/データオブジェクト管理システム」で、「Global Indexを実装した最大のサービス事例はSkype」とある。つまり、eBayはSkypeを取得したものの、Skypeの中核技術は、Joltidを通じてZennstrom氏とFriis氏の手中にあるということになる。

JoltidはeBayがSkype売却方針を公にした後の3月、英国でSkype/eBayを相手にIP訴訟を開始する。同社は現在、Skypeへの技術ライセンスを停止しており、eBayは1日7,500万ドルの損害を与えていると主張している。その一方で、Zennstrom氏とFriis氏はこの春より、Skypeを再び手中に収めるため、投資会社に接触をとっているとうわさされていた。

eBayは結局、9月1日にSilver Lakeが率いる投資会社グループと現金19億ドルと1億2,500万ドルの証券を引き換えにSkypeの株式65%を売却することを発表した。評価額は27億5,000万ドルで、投資会社グループには、Index Ventures、Andreessen Horowitz、Canada Pension Plan Investment Boardなどが含まれる。

その後、Zennstrom氏とFriis氏はいくつかの行為にでた。まずはJoostが9月15日、会長で6月までCEOを務めていたMike Volpi氏の解任を発表する。同時に、CEO任期中のVolpi氏の行為について調査を開始することも明らかにした。Volpi氏はJoostのCEOを退任しIndex Venturesに移籍しているが、Index Venturesは上述の通り、9月1日に発表したSkype売却の投資グループの1社である。

創業者2人とeBay/Skype、Index Ventures、Volpi氏との対立は、より明確になる。9月16日、Joltidは米国ノースキャロライナでもeBay/Skype、投資会社グループ、Volpi氏を相手に著作権侵害訴訟を起こした。さらに、18日にはデラウェアでVolpi氏を起訴、Joost勤務中に得た機密情報を用いた違法行為があったと主張している。

Joltidと対立が強まっていることから、eBayは以前よりGlobal Indexに頼らない方法を探っているといわれている。Volpi氏はCisco Systems出身で通信技術に強いだけでなく、Ciscoの買収戦略を率いてきたことでも知られる。このプロフィールから推測できるように、Volpi氏はSkypeが代替技術を買収するにせよ、迂回技術を開発するにせよ、他の企業と提携するにせよ、要となりそうな人物なのだ。

さて、Zennstrom氏とFriis氏の"妨害"とも映る行為だが、まずはeBayが年内完了を目指して進めている取引に与える影響が考えられる。Donahoe氏は「予定通り」と強気の姿勢だが、中核技術が利用できなくなる可能性もある。なお、投資会社グループらはSkypeとJoltidとのライセンス関係を承知の上での買収であり、取引撤回の場合には料金が生じることなどから、手を引く可能性は小さいと見られている。

次に、Zennstrom氏らの狙いも気になる。Business Weekによると、Silver LakeらがeBayと取引を固める前に、Zennstrom氏らはeBayに対し、他の投資会社と共に評価額21億ドルでSkypeを買収提案していたという。Joostが事実上の失敗に終わる中、創業者がSkypeを取り戻したいと考えてもおかしくない。

2007年の秋、ベンチャーカンファレンス「ETRE」で、SkypeのCEO退任が決まった直後のZennstrom氏の講演を聞く機会があった。Zennstrom氏はSkype売却について、「後悔はしていない」としながらも、「売却が早すぎるかもしれないと考えたことがある」とコメントしていたことを思い出す。Index Venturesは、eBay売却前のZennstrom氏とFriis氏が立ち上げたばかりのSkypeに投資したベンチャーキャピタルでもある。人や企業の運命というのはわからないものだ。

2007年のETREで講演したZennstrom氏。このときは何かふっきれたような表情に見えたのだが…