オンライン音楽の90%が違法といわれる中、欧州生まれの新しいオンライン(合法)音楽サービスが注目を浴びている。スウェーデンのベンチャー Spotifyだ。今度こそ、違法ダウンロードに揺れるオンライン音楽業界に救世主誕生、となるのだろうか?

2006年に創業したSpotifyは、2008年10月にローンチした。たまたま、その直後にSpotifyの本拠地スウェーデンで開催されたITと投資のイベント「ETRE 2008」に参加していたのだが、ベンチャーキャピタルの間でちょっとした話題となっていた。

Spotifyのサービスは、無料と有料の2本柱を持つ。無料は広告モデルで、約15分ごとに表示される広告と引き換えに無制限でストリーミングを楽しめる。Ogg Vorbis q5コーデックを利用、ビットレートは160kbpsという。有料サービスの場合、ビットレートが320kbpsと高音質になり、わずらわしい広告もない。料金は月額99スウェーデンクローナ(約1,280円)。提携している楽曲販売パートナーから楽曲を購入することもできる。

広告モデルの無料音楽ストリーミングは新しいものではなく、フランス系のDeezerなどがある。だが、Spotifyが急激に人気を集めている理由として、使い勝手がある。シンプルなユーザーインタフェースだけでなく、ローカルにあるファイルにアクセスする感覚で楽曲を再生できる快適さ(バッファ時間はほとんどない)が大きく支持されているようだ。Spotifyは自社システムを、システムはストリーミングサーバーとP2Pを組み合わせたハイブリッド型と説明している。創業者をはじめ、チームは技術集団のようだが、Webに敏感な層を狙ったマーケティングもなかなかで、創業以来、マーケティングに費やした額はたったの5,000ポンド(約77万円)とか。話題を作り、招待制により口コミで広めていくという戦略のようだ。同社のブログやフォーラムを見ると、技術的な問題から楽曲やサービスの最新情報など、ハイテク通と音楽好きの両方を見据えていることがわかる。実際、Spotifyのコミュニティはあちこちでうまれており、Spotifyでストリームされたランキングを紹介するサイトやMacのリモコンでSpotifyを操作するプラグインも登場しているようだ。

もう1つの特徴が楽曲カタログだ。合法というだけあって、4大レーベル(EMI Group、Sony BMG、Universal Music、Warner Music Group)はもちろん、Orchard、Merlinなどのインディーズともライセンス契約を結んでいる。楽曲数は約380万曲といわれているが、常時カタログは増えている。またレアなバージョンが見つけられるという声もある。

このような特徴から、ローンチから1年経過していないが、展開している欧州6カ国の合計ユーザーはすでに400万人を超えているという。

Spotifyの最新の話題は、新しいベンチャー投資ラウンドとモバイルだ。8月初めに英Financial Timesが報じたところによると、新投資ラウンドには香港のLi Ka Shing Foundationらベンチャーキャピタル数社が参加、最大5,000万ドルを調達するという。同社の企業価値は2億5,000万ドルと評価されたとのことだ。

Spotifyは新たに得る資金を利用して待望の米国進出を図るが、その前に中国進出が正式発表されている。米国進出は年内と予想されている。

モバイルではすでに米Google「Android」向けのアプリをデモ済みだが、Spotifyは7月末、米Apple「iPhone」アプリケーションを公開した。現在Appleの承認待ちというこのアプリケーションは、Wi-Fiまたは3G回線経由でアクセスしてプレイリストを作成したり新しい楽曲を検索できるというものだ。それだけでなく、楽曲をダウンロードしてオフライン時に再生ができるという一時保管機能もあるという。Spotifyは2008年10月のローンチ当時、"iTunesキラー"と形容されたことがあったが、iPhoneアプリはiTunesに挑戦するものになりそうだ。

SpotifyのiPhoneアプリについては、「Google Voice」と同様、Appleは締め出すのでは?という予想もあれば、Last.fmやPandoraなどのオンライン音楽サービスが承認されているので大丈夫だろうという予想もある。オンライン音楽業界側からは、承認されればiTunesの独占状態が変わるのではないかという期待もあるようだ。

勢いづくSpotifyだが懐疑論もある。違法ダウンロード対策という観点でみると、これまでいくつかのオンライン音楽サービスが立ち上がったが、大きなインパクトを与えていない。合法的な音楽サービスで誰もが成功と認めるのはiTunesぐらいだろう。

Spotifyは今後、持続性のあるビジネスモデルを確立する必要がある。有料サービス加入者増、さらにはBtoCだけではなくISPなどにライセンスするBtoBの模索も考えられる。その意味で、モバイル進出は興味深い。承認待ちのiPhone向けアプリは、アプリそのものは無料だが、利用には同社の有料サービスに加入する必要があるからだ。モバイルはPCと違って有料が根付いているので、モバイルの動向次第では、有料サービス加入者を増やすきっかけになるかもしれない。

個人的には、SpotifyとThe Pirate Bayがともにスウェーデン生まれというところにも興味をそそられる。

音楽配信サービスの救世主となるか - 日々ユーザも曲数も増え続けている「Spotify」