WebブラウザのOSへのバンドルについて、欧州委員会(EC)より競争法違反の疑いを突きつけられている米Microosftが次期「Windows 7」について、欧州地区で「Internet Explorer(IE)」をバンドルしないバージョンを提供する意向を明らかにした。調査を進めるECの動きに先んじるものだが、ECはMicrosoftの計画に冷たい反応を示している。IEをバンドルしないだけでは不十分と見ているようだ。
Microsoftの副法務顧問であるDave Heiner氏は6月11日付けのブログで、欧州市場では、Windows 7にIEをバンドルしないバージョン「Windows 7 E」を提供する計画を発表した。ECと継続中の独占禁止法訴訟を考慮しつつWindows 7のグローバルローンチを実現するため、というのがHeiner氏の説明だ。
「IEはOSとは別に提供し、コンピュータメーカーとユーザーが容易にインストールできるようにする。メーカーとユーザーは、Windows 7にIEをインストールする・しないを選択できる。もちろん、いま現在でもそうだか、他のWebブラウザをインストールすることもできる」とHeiner氏は記している。欧州のWindows 7はIEがバンドルされていないだけで、その他の機能はまったく同等という。「「バンドル」に対する苦情に対応しつつ、欧州の消費者も他の地域の消費者と同様にWindows 7のメリットを利用できる」とHeiner氏。
ECは2007年末のノルウェーOpera Softwareによる苦情申し立てを受け、IEバンドルがEU競争法に違反するかどうかの調査を開始、2009年1月に「疑いあり」とする異議告知書(SO)を送付した。これが独占禁止法訴訟の最初のステップとなる。その後、「Firefox」のMozilla Foundation、「Chrome」の米Googleなども、ECの調査に協力する姿勢を示すなど、Microsoftには厳しい状況となっている。
そのECはMicrosoftの発表を受け、翌日の6月12日、報道資料にて公式見解を示した。
ECはここで、IEバンドルなしというMicrosoftの方針がコンピュータメーカーと小売店の両方のレベルで、消費者に本物の選択肢が与えるものかに関する考えを示している。小売店レベルでは、Microsoftは「消費者に多くの選択肢を与えるどころか、選択肢を減らすことにしたようだ」と非難している。
売上げの95%以上を占めるコンピュータメーカーレベルでは、メーカーが
- IEをインストール
- 他のブラウザをインストール
- 複数のブラウザをインストール
の3つから選択できるとMicrosoftが述べていることに触れ、「ポジティブなものとなる可能性がある」としている。だが、もしクロと判定した場合、Microsoftの提案が十分かどうかを検討しなければならず、Microsoftがその後、別の行動をとることで"OSとブラウザの分離"が意味をなさなくならないかを見る必要があるとしている。「Microsoftが言葉通り実行しないのではないか」という疑いを示すものだ。
たとえば、Microsoftがメーカーに何らかの形でインセンティブやプレッシャーを与えることができるかもしれない。
OperaもECに同意し、「1997年ならば適切な動きだったかもしれないが、10年もの間、独占を濫用した現在にあっては、(アンバンドルにとどまらない)さらなる対策が必要だ」と述べている。
ECとOperaの冷たい反応の背景には、「Windows Media Player(WMP)」の失敗がある。Microsoftは、独禁法違反とするECの判定を受けて2005年、WMPをバンドルしない「Windows XP N」を欧州地区で発売したが、売上げはほとんどなく(つまり、市場にもほとんど影響を与えず)、是正措置の効果が疑われた。
そのため、今回のWebブラウザについても、判定が出る前から、ECがどのような是正措置をとるべきかについて議論がされている。IEをアンバンドルする、他社のブラウザをインストールする、などの案に混じり、このところ「投票画面」が有力な線として浮上していた。これは、OSインストール時にIE、Opera、Firefox、ChromeなどのWebブラウザを紹介する画面(「投票画面」)を表示することで、ユーザーがブラウザを選択できるようになるというものだ。Microsoftにしてみれば避けたい措置だろう。Heiner氏はこの案について、「複雑性と競合する利害関係を考慮すると、このアプローチを一方的に採用するのは適切ではないと考えた」と記している。
今回、Microsoftがアンバンドルを決定した理由は、Windows 7のグローバルローンチだけはなく、判決と是正措置が出る前に先回りすることで訴訟を優位に運べるという狙いがあるのではないか、という声もある。
ECはこれまでのところ、比較的急ピッチで調査を進めており、12日の報道資料でも、訴訟を早期に終わらせる意向を示している。一方のMicrosoftは、口頭聴聞会延期を申し出るなど、遅らせモードだ。双方の動きには、今年秋に現競争委員担当、Neelie Kroes氏が任期満了を迎えることも関係あるとみてよさそうだ(Microsoft、Intelの例でお分かりの通り、Kroes氏は独占的企業に対し手厳しいことで知られる)。
宿敵となったMicrosoftとEC、政治的なかけひきは今後も続きそうだ。