世界的な不景気が新聞業界を直撃している。米国では経営破たんする新聞社も出てきており、欧州も例外ではない。そんな状況下、フランスの新聞「Liberation」を発行する仏Liberationが、ISPへの課税を提案した。根本的な解決となるか、新聞各社や通信業界の反応が注目される。

欧州各国の新聞業界は、ずいぶん前から新聞離れによる購読売上げの減少に悩まされている。一般的に日本のような新聞の購読/宅配は少なく、人々は駅や街中にあるキオスクで新聞を買い求めることが多い。すでに発行部数はゆるやかな減少傾向にあったが、インターネットの登場とブロードバンドの普及、さらには数年前から大都市で流通している「Metro」などの無料新聞が追い討ちをかけた。

現在、新聞社は日本の新聞社同様、紙とインターネットの両方で展開しており、紙は有料、オンライン版は無料というモデルをとるところが多い。インターネットで有料を導入しているのは「Financial Times」などごく一部で、多くの新聞は原則として無料だ(アーカイブ的な記事に課金するところもある)。

フランスの新聞社を見ると、経営難はLiberationだけでなく、程度の差はあれ「Le Monde」など他紙も同じような状況だ。新聞社を援助すべく、フランス政府はオンライン化を奨励する経済対策を講じることを決定しているが、オンラインへの移行とオンライン広告がすべての問題を解決するようにはみえない。そこで、今回の提案ということのようだ。

提案は6月2日、フランスの新聞業界団体の会合で行われた。ISPから税を徴収する、つまり、ISPの売上げの一部が自分たちに回るような仕組みを確立しようというものだ。Liberationの共同経営者、Nathalie Collin氏はその際、

  1. ニュースと情報検索は、ユーザーがWebを利用する2番目の目的となっており、大きなトラフィックを生んでおり(フランス最大手のISP、Orangeの場合、約25%のトラフィックがニュース/情報検索という)、ニュースコンテンツはISPの売上高に寄与している
  2. 新聞の経営が安定し品質を維持することは、エンドユーザーとISPにとってメリットがある

などの点を挙げている。Collin氏によると、2000年から2007年の間、新聞の売上高は26%減少しているという。参考まで、Liberationの発行部数を見ると、2000年は約16万9000部だったのが、2007年には13万部台に減少している。同紙に限らず、全国紙の発行部数はすべて同じような下降線を描いており、これに、昨年表面化した不景気がどの程度の影響を与えているのかはわからない。状況がさらに悪化したことは間違いない。

Collin氏は税率については具体的な数字を出していないが、想定しているのは「わずかな率」であり、「グローバルライセンス」として業界全体で徴収し、規模などに応じて各社に配分されるモデルを提示している。フランスのTV局は映画業界を財務支援しているが、この考え方を適用したようだ。

インターネットには無料のサービスやコンテンツがひしめく。インターネット人口が増え、人々の活動がオンラインに移行(拡大というべきか)する中、その入り口となるISPの重要性は高まっている。無料化の打撃と不満を声高に訴えているのは、新聞業界のほかに音楽業界もあり、フランスでは5月、音楽の違法ダウンロードを取り締まる新しい法律「Creation et Internet」法(通称"Hadopi")が可決している。一方、今回のLiberationの提案のような課税のアプローチを音楽でとろうという動きは、英マン島で見られる。

新聞が抱える問題は世界で共通しており、米国では、業界不振を米Googleなどのニュースアグリゲーションサービスのせいにするような意見も出ている。GoogleのCEO、Eric Schmidt氏は、解決策のひとつとして、記事単位で小額課金するマイクロペイメントを挙げており、実際にJournalism Onlineという新しい企業が米国で産声を上げている(課金窓口として同社に料金を払うと、あらゆる記事を読めるという事業モデルを持つ)。

LiberationのCollin氏は、どうしてLiberationはWebサイトでのコンテンツを有料にしないのかという質問に対し、インターネットのコンテンツは無料という暗黙の前提が成立している環境があることを指摘している。ISPに料金を払ってインターネットにアクセスすれば、その上にある無料サービスや情報を利用できるという考え方が定着している。このような状況の場合、1社だけが有料化すると、無料のサイトに読者が流れてしまうというリスクがある。Journalism Onlineなどの動きは、ニュースが今後有料コンテンツとなることを予感させる。

だが、インターネットがもたらしたのはデメリットだけではないはずだ。新聞社はインターネットにより、これまでになく広い読者層にリーチできるようになったのも事実だ。このような状況をなんとか活かせないのか -- 英Gurdianが今年発表したオープンプラットフォーム戦略は、この状況に対するGurdianの挑戦といえる。

新聞社がオンライン時代にどのような対抗策を出すのか、模索は続きそうだ。