米Googleは3月19日(英国時間)、英国とオランダの「Google Maps」で、「Google Street View」のサービスを開始した。Street Viewに映った人物などを巡っては、日本をはじめ各国でプライバシー問題が議論されているが、英国でもサービス開始後すぐに画像の削除を要求するユーザーが相次いだようだ。その中には、元英国首相のTony Blair夫妻もいる。

Google Street Viewはご存知の通り、路上から撮影した写真を360度閲覧できるGoogle Mapsのサービスだ。Googleが"バーチャルに街を歩く"と提案している通り、Street Viewはたしかに便利で画期的なサービス、だが、その一部として撮影された人にとっては"プライバシー侵害"となりうる。米国では訴訟問題にまで発展した経緯を持つ。

米国、日本、フランス、スペインなど7カ国でスタートした後でのローンチとなることから、英国ユーザーは期待、興味、それに警戒、と複雑な心境でStreet Viewにアクセスしたようだ。首都ロンドンをはじめ、リバプール、グラスゴー、ベルファストなど25都市で一斉スタートとなったが、開始後すぐに、画像削除の依頼があったという。

削除された画像として、繁華街にあるセックスショップに入る男性や、パブの外で嘔吐中の男性などが話題となった。そんな中、開始後24時間以内に、ロンドン西部にある元英国首相のBlair氏の自宅が削除されたほか、公共の建物であるはずのDowning Street(ダウニング街)にある首相官邸なども削除されている。Googleの英国担当者は開始時、"人物の顔の99.99%にぼかしをいれた"と主張したというが、The Indipendent紙は裸で遊ぶ子どもの画像をスポット、Googleは同紙の指摘を受けてこの子どもの顔にぼかしを入れた。Googleは、削除した画像数を公開していないが、「予想より少なかった」とコメントしている。Street Viewに懐疑的なThe Independentは、ローンチ後、Google担当者にコメントを求め、「"99.99%"は言葉のあやだった」とも言わせている。

Googleは英国版Street View提供にあたり、2008年夏、英国2万2,369マイル(約3万5,998kmル)を撮影して回った。撮影開始前に、英国のプライバシー監視団体Information Commissioner's Office(ICO)と顔写真や車のナンバープレートなどにぼかしを入れるなどで大筋の合意をしていたようだ。もちろん、各国版と同様に、問題を報告するボタンもつけている。

それでも持ち上がったプライバシー懸念を受け、ICOはユーザーに対し、まずはGoogleに削除を依頼するようアドバイスするとともに、根本的な問題があるとわかればICOとしてGoogleに問題を提示する、という姿勢を示している。

なお、Googleは、Street View開始にあたり、ロンドン警視庁に事前に相談していたとしているが、ロンドン警視庁側はこれを否定、相談は受けていないと述べているという。Times紙は、Google英国支社を率いるCEOの自宅の画像がないことも報じている(Googleの広報担当は、この理由について「(自宅は)私道に面しているため」と説明している)。

それでもアクセス数をみると、Street Viewの出足は好調だ。Hitwiseは、「Google Map UK」へのトラフィックは41%増加したと報告、すでに、駐車場賃貸サービス、ナビゲーションサービスなど、Street Viewを活用したサービスも生まれているという。

BBCの特集では、「便利だと思う」という若者の声を紹介しつつ、「"便利さ"の下に、一般消費者はGoogleの新機能をきちんと理解することなく利用している」「一般消費者がGoogleの製品になっている」と批判するヴァージニア大学メディア学教授Siva Vaidhyanathan氏(『The Googlization of Everything』の著者でもある)とGoogleの担当者の議論の様子も公開している。また、BBCの記事では、Oxford Internet Instituteでプライベートに詳しいIan Brown博士の「(Street Viewが)方向性を見失わないためには個人の注意が必要。(削除依頼は)当然だ」というコメントも紹介している。

英国は、監視社会を風刺したGeorge Orwellの「1984」を生んだ一方で、監視カメラ(CCTV: Closed-circuit television)の設置が最も進んでいる国だ。監視カメラは警察と自治体の責任で設置されているが、このところパブでの設置を積極的に奨励する内務省に対し、IOCは懸念を発している。パブのCCTV設置について、Guardian紙がオンラインアンケートを行ったところ、91.5%が「設置は強制にすべきではない」と回答している。

Street Viewに話を戻すと、まだ提供されていないドイツでは、プライバシーの懸念が大きく持ち上がっているという。

慎重にスタートしたにもかかわらず、やはりトラブルが起きてしまった英国版Google Street View。英国首相官邸のある10 Downing Street Londonでも画像が削除されてしまっている…