こんにちは、織田隼人です。
前回はビジネス上の決断を行う際に「一貫していること」が必ずしもよい要素ではないことを紹介しました。人間は歳を重ねるごとに新しい情報に鈍感になり、また保守的になります。自分が知っている方法や、過去に成功した経験のある方法ばかりにとらわれず、常にフレッシュな気分でプロジェクトに関わっていきたいですね。
さて、今回は再びマーケティングの話に戻ろうと思います。もはやビジネス界では基礎用語になりつつある「ティザー広告」に関するお話です。
「チラリズム」に弱い男性の心理を利用する
同じ広告でも男女で効果に違いが…… |
説明不要かもしれませんが、「ティザー広告」とは、情報を小出しにして商品に興味を持ってもらう戦法の広告のことを言います。具体的には、
- ご来場者には、あの有名アーティストのサイン色紙をプレゼント!
- 明朝10時、本社のHPで何かが起こる!
といった類の広告です。このコラムをご覧になっている皆さんも、一度はティザー広告に釣られて興味を持ってしまった商品があるかもしれませんね。
ティザー広告の代表例はAppleです。先日も「ビートルズの楽曲がiTunes storeで発売される」ことを、「明日、いつもと同じ一日が、忘れられない一日になります」という触れ込みで宣伝していました。発表日時までに間を持たせてユーザーにあれこれ予測させるこのやり方は、ティザーカウントダウンと呼ばれています。
このティザー広告、たしかに効果的です。情報を小出しにされれば、その先を知りたくなるのが人間の性ですから。手っ取り早く商品に興味を持ってもらうためには、それなりに有効な方法です。とくに男性は見えそうで見えない「チラリズム」に弱いですから、なんとしてでもその商品を手に入れないと、気が済まなくなってしまうのです。
男性には効果的、しかし女性には……
ところがこのティザー広告、思わぬところに落とし穴があります。
それは、「女性に対してのティザー広告は、ほとんど効果がない」ということです。
言われてみれば、化粧品業界や女性向けの雑誌、おしゃれなカフェなどがティザー広告を打っているところは見たことがありませんよね。それが、「女性にはティザー広告は効果がない」という事実を端的に表しています。
現代は情報の供給量過多な時代です。10年前と比べるだけでも、人間が消化しなければならない情報量は500倍以上に増えているという説もあります。このような状況下で、男性でさえティザー広告にかまっていられない場合があるのですから、もともとチラリズムに魅力を感じない女性向けの商品でティザー広告を打つのは自殺行為と言ってもいいでしょう。
女性は、「よくわからない商品」に遭遇したとき、「まあ、知らなくてもいいや」と考えます。たとえば化粧品などは、「自分に合った」商品を探さなければならない都合上、情報が足りない商品は必然的に視界から外れます。
女性にティザー広告はウケない -- これを意識しておいた方がいいでしょう。
女性には「人柄で売る」
では、女性向け商品はどのように売ればいいのでしょうか。
「自分に合うか?」といった判断基準で商品を選ぶ女性にとって、ある商品を「自分が信頼できる人がお勧めしている」状態はかなり魅力的に映ります。ファッション誌で「読モ」が流行しているのもこのためで、「自分に境遇の近い人、自分と同じ一般の人」がお勧めしている商品は、「自分にも合うかもしれない」という期待を女性に抱かせることができます。
薬局の化粧品コーナーや、女性向けのパスタ屋などを訪れてみましょう。いろいろなところに手書きで、「スタッフのお勧め」や「使用後の感想」が書かれていませんか?
あるいは、一見商品には全然関係ないような情報、店長の似顔絵や、プロフィールが書かれている場合もあるでしょう。女性向け商品のマーケティングを行う際、これらの広告形態から、非常に大きなヒントを得ることができます。
「スタッフの人、私と同じで肌が乾きやすいんだ」「店長さん、私と同じB型だ!」 - このような些細な「人柄」を知ることが、女性客が商品に興味を持つきっかけだったりします。男性から見れば、過剰どころか不必要に思えるくらい情報をオープンにする。そうすることで、「この商品を買いたい」という思いに重ねて、「この人から商品を買いたい」と思い始めてくれればしめたものです。
男女で広告の打ち方を使い分けよう
男性の経営者から見れば、「ティザー広告」は非常に効果的なものに見えます。一方、女性の経営者の場合、「より人柄に訴えることこそ正解」と思いがちです。
「一貫性の原則」、覚えていますか? 「自分がこうだったから」という視点は、正確なマーケティングを阻害します。女性向け商品ならば女性の視点で、男性向けの店舗ならば男性の視点で戦略を練ることで、広告の無駄打ちや機会損失を防ぐことができます。
女性向けのマーケティングでは「何を売るか」と同じくらい「誰が売るか」が重要になる |
(イラスト ナバタメ・カズタカ)
執筆者プロフィール
織田隼人 (ODA Hayato)
心理コーディネーター&経営コンサルタント。心理についての解説の仕事をメインにしながら、経営のコンサルティング業務も行っている。元々は経営コンサルがメインで、マーケティングに関わりながら心理学を学んできた。心理の仕事では特に「男女の心理の違い」や「意思決定」を専門としている。男女の心理の違いを解説したブログに「男心と女心」があり、月間アクセス数は100万を超える。ほかにも心理学を学べるWebラジオやアニメーションも配信している。Webサイトはこちら → 知りたい! 相手の気持ち