スマートフォンと言えば、Android端末やiPhoneを思い浮かべる人が多いだろう。Windows Phoneを挙げる人はだいぶニッチだが、もう1つ2014年12月より販売された新しいOSの端末がある。それがFirefox OSの「Fx0」だ。
Firefox OSはWindows PhoneやTizenと並ぶ第3のOSとして、2013年より端末が登場しており、現在29カ国、15のキャリアから販売されている。
Firefox OSの特色は「全てがWebでできる」という点。iOSやAndroid OSのアプリケーションは、C言語などのアプリケーションの開発言語で作られている。一方でFirefox OSは、Webの言語「HTML5」などでアプリケーションを作り上げられるため、これまでWebサイト構築などを行ってきた会社など、新たな開発者の参入が期待できるとされている(既存のスマホでも、Webビューなどを使って、擬似的にアプリを作ることは可能)。
新しい特色を持ったFx0だが、新しいプラットフォームであるため、制約もある。まずはアプリの不足。端末を発売したKDDIやFirefoxのオープンコミュニティなどの尽力により、LINEアプリやNAVITIMEアプリ、日本語化された海外アプリなど、一通りの使えるアプリは揃っているのだが、後発プラットフォームであるため、絶対的にアプリの数は足りない。また、アプリの品質についても新しいプラットフォームが故に十分なものに仕上がっていないという声がネット上で多く見られる。
ただ、こうしたイバラの道はAndroid OSやiOSもくぐり抜けてきた過去があるため、現状をもってFirefox OSの評価を下すことは早計だろう。Firefoxが目指す場所は、特色としても触れた「全てがWebでできる」ということ。Web言語のHTML5は、アプリケーション化も想定した設計となっているため、PCブラウザ上でもアプリケーションとして動かすといった想定もなされている。
一方でFirefox OSは、スマートフォンに限らず、テレビなどの他のデバイスでも展開が予定されている。特にテレビでは、パナソニックが採用を表明しており、国内でプラットフォームの拡大が期待できる点は、開発者にとっても魅力的といえるだろう。
なぜ新たなOSの端末が必要?
Fx0はKDDIが販売しているスマートフォンだが、同社としてもAndroid端末やiOSというGoogle、Appleという巨人に振り回されないオープンなエコシステムの存在が必要だった。Firefox OSを提供するMozillaは、御存知の通り一般社団法人の非営利組織だ。
Webというオープンな世界に、何のしがらみもなく繋がるスマートフォンが提供されれば、万が一IT界の2大巨頭が、ある種の"締め付け"を行ったとしても、多くのユーザーの受け皿ができる。それがFirefox OSという存在なわけだ。
もちろん一般的に考えれば、消費者に支えられている企業が消費者に不利益となる戦略は行わないと言えるが、iOSとAndroidで95%とも言われるシェアの寡占状態が健全とも言い切れない。こうした勢力図に楔を打ち込む意味でも、MozillaとKDDIの取り組みは重要となる。
ただ、一人のユーザーがスマートフォンを手にした時に「これって何のOS?」と気にするケースは少ないだろう。例えば、iPhone→Androidという機種変更ですら、アプリの有無の違いなどで携帯キャリアショップの店員に聞くユーザーも少なくないからだ。そんな中にアプリの少ないFx0が入るとどうなるかは容易に想像がつくことだろう。
そこでKDDIが考えた策は、きめ細やかなサポートが行えるau SHINJUKUなどの直営店4店舗のみで販売するということ。これ以外の店舗では、全て予約販売となっており、存在を知らないユーザーは購入しづらいようになっている(できないわけではない)。
「端末を売る気はあるのか」と言うと難しいかもしれないが、よくわからないユーザーが購入し、使いこなせないという状況が生まれてしまうよりも、「使える人が、使いたいように使える」という環境を目指した施策といえる。
もちろん、スケルトン仕様の端末フォルムや「なんか面白いスマホがあるらしい」といった話を聞きつけて、あまり知識を持ち合わせていなくても購入するユーザーは一定数存在する。
そこでKDDIはこの2月にFx0の購入者や購入希望者などを対象に「Fx0使いこなしセミナー」を東京・新宿のau SHINJUKUで開催した。その模様を以下でお伝えするが、セミナーは愛知県・名古屋市のau NAYOGA、大阪府・大阪市のau OSAKA、福岡県福岡市のau FUKUOKAでも順次開催される予定で、店舗によってはまだ若干の空きがあるため、興味がある人は申し込んではいかがだろうか。
Webと同じことをスマホアプリでも
セミナーには、Fx0の製品担当であるKDDI 商品統括本部 商品企画部 商品戦略3グループ マネージャー 澤田 裕史氏と、Mozilla Japan モバイル&エコシステム マネージャ テクニカルマーケティングの浅井 智也氏、同テクニカルマーケティングの清水 智公氏が登壇。受講者に、Firefox OSとは何か、Fx0の意外なTipsを説明した。
(左から)KDDI 商品統括本部 商品企画部 商品戦略3グループ マネージャー 澤田 裕史氏、Mozilla Japan モバイル&エコシステム マネージャ テクニカルマーケティング 浅井 智也氏、同テクニカルマーケティング 清水 智公氏 |
Mozilla 浅井氏が最初に語ったことは、Firefox OSの魅力。
「Webの言語で全てを作れるんです。電源を起動したところから、すべてWeb技術だけで作り上げています」(浅井氏)
Webの技術で言えば、文書から直接別ページをリンクできる「ハイパーリンク」の仕組みが存在するが、この機能をアプリ上でも再現できる。例えばiOSでは、アプリからアプリへ進むことはできるものの、ジャンプしたアプリから元に戻るにはホームボタンを連打してタスク管理画面を呼び出すか、ホームへと戻る必要がある。
一方で、Firefox OSでは、アプリ間の移動がWebページの遷移のように行えるため、進んだページから戻るときは、左端からスワイプインするだけで、直前のアプリへと戻ることができる。ハイパーリンクを記述できるので、アプリ間連携も容易とのことで「Webと同じようなアクセスをアプリでも実現できるようにしたい」と語っていた。
製品名をわざと(?)読み間違えるKDDI田中社長
続いてKDDIの取り組みを説明した同社の澤田氏。
「Fx0は"エフエックスゼロ"と呼ぶんです。"ゼロ"を"オー"と呼ぶ人もいるんですよね。実は、弊社の田中(社長)もオーと呼んじゃってるんですが、ゼロですからね(笑)」(澤田氏)
そんな"掴み"で語り始めた澤田氏は、Fx0の開発にあたり、「いかに、自然に、使いやすくするか」を念頭に考えたという。
通常の40倍のコストをかけたネジや透明な筐体、ダミーアンテナといったデザインの細部までに気を使う一方、ダミーアンテナには「NFCアンテナ」を入れることで、機能性も損なうことなく端末を作り上げた。
NFCでは、Firefox OSの特徴を活かした「Web-Cast」と呼ばれる機能を開発し、Fx0同士を重ねあわせることで写真などを共有できるようになる。この機能だけではNFC搭載の魅力が薄れるが、NFC搭載のAndroid端末ともURLや連絡先送受信などもできるようにすることで、汎用性を持たせている。
プライバシーに配慮したOS
その後に登壇したMozilla 清水氏はFirefox OSはプライバシーにこだわっている点も強調。iOS端末やAndroid端末は、Apple IDやGoogleアカウントの登録がなければアプリをダウンロードできず、メールアドレスの登録が必須となっている。
清水氏は「Firefoxアカウントを作ってくださいね(笑)」としつつも、登録しなくてもいいと語りかける。
「登録しなくても大丈夫なんです。アプリのインストール制限はないし、マーケットプレイスと呼ばれるAndroidのGoogle PlayやiOSのApp Storeに相当するものもありますが、アカウントはなくてもいい。
私達の組織はプライバシーは大事にしており、できるだけそういった情報は取らないようにしています。電話を使うだけという人であれば、必要ないんだから登録しなくていい。ただ、あると便利に使えるようになりますけどね(笑)」(清水氏)
便利になる機能としては、端末の探索機能やロック、ワイプ機能、マーケットプレイスにおけるアプリのダウンロード履歴管理機能などがある。
ロック画面はWebサイト表示がオススメ
最後に改めて登壇した浅井氏は、Tipsとしてロック画面のカスタマイズ機能を紹介。ロック画面といえば、ある種のスマートフォンの"顔"だが、この顔がFx0では自由にいじれるというわけだ。標準搭載のロック画面でも、位置情報に応じた航空写真やRSSニュースフィードをグラフィカルに表示する画面、Twitterのタイムライン表示などが用意されている。
ただ、浅井氏が勧めた表示は「ロック画面のWebサイト表示機能」だ。URLに好きなページを設定するだけで、お気に入りサイトの最新情報が端末を開くと取得できる。例としてはナビ代わりになるGoogle Mapsや、経済情報をすぐに取得できる日本経済新聞、待受画面で簡単なゲームが遊べるブラウザゲームサイトなどが挙げられた。
最後に、浅井氏は取材に来ている筆者を気遣い、「日本経済新聞以外にも、マイナビニュースとかの総合情報サイトとかも良いですね」と宣伝してくれたが、受講者は誰一人として反応してくれなかったことを付け加えておこう。