新たな携帯キャリア「Y!mobile(ワイモバイル)」が8月1日よりスタートした。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く"第4の携帯キャリア"として、ヤフーとの連携などを武器に独自のサービスを展開する同社が目指すキャリアのかたちとはどのようなものなのだろうか?
今回、Y!mobileサービスを知る上でキーとなる3名に話を聞いてきたので、連載形式で紹介していきたい。第1回はワイモバイル 取締役兼COOの寺尾洋幸氏だ。
「一歩前に出る」キャリアを目指す
ソフトバンク傘下として、ウィルコム、イー・アクセスが合併し、新たにスタートしたワイモバイルは、NTTドコモやKDDI(au)など、既存の通信事業者にはない独自性を打ち出そうとしている。そのひとつがヤフーとの提携だ。国内インターネット企業の代表格であるヤフーと提携することで、これまでにない新しいサービスを提供していこうとしている。
ワイモバイル発足にあたり、ウィルコム、イー・アクセス、ヤフーから集まったメンバーが知恵を出し合ったという。「何度もマーケティングやサービスを考える部門で集まって合宿した」と寺尾氏は振り返る。
議論の中で、もっとも話し合いがされたのが「ワイモバイルは何を目指すか」という点。その結論として、出たのが「インターネットの生み出す楽しさ、便利さをみんなの手元に届ける」というサービスコンセプトだ。これは、インターネットという便利なツールを、「本来届けなければいけない」(同氏)シニア世代などにも広く使って欲しいとの思いから生まれたという。加えて同社では、スマートフォン利用した通信サービスだけではなく、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)デバイスなどの提供なども視野に入れているという。今後、IoTがインターネットの普及に大きな役割を果たすとの考えだ。
このように、インターネットの楽しさ、便利さを広めるため、広い視野をもって活動するのがワイモバイルのスタンスだ。
料金プランは格安かつシンプルに
Y!mobileサービスの大きな特長のひとつが料金プラン。月額基本使用料が2,980円の「スマホプランS」(データ容量1GB)、3,980円の「スマホプランM」(3GB)、5,980円の「スマホプランL」(7GB)という、シンプルでわかりやすい料金プランを採用している。この料金プランは、基本料金の中に「国内通話定額」「Web接続料」「パケット定額料」がすべて含まれており、1回10分以内の通話が月300回まで利用できる点が特徴だ。
料金プランについて寺尾氏は、とにかく複雑なものにならないようにしたと説明する。「(月額料金として)3,000円を切りたかった」という思いがあり、その中でユーザーの利用動向とコストの兼ね合いから作り上げたプランとのことだ。ちなみに同社のエリック・ガン社長も料金プランの設定にあたり、「シンプルが一番と言い続けていた」という。
また1通話あたり10分以内・月300回までの無料独自の通話体系についても自信を見せる。もともとウィルコムに在籍していた寺尾氏は、同社で無料通話サービスを先行して提供してきた。その経験がY!mobileサービスでも生きているという。
今回ワイモバイルでは、1回10分、月300回までの通話、データ容量1GBまでといった制限を加えることで、月額2,980円からという「フィーチャーフォンと同等の値頃感」を実現。よりデータ通信を使いたい人向けに3GB、7GBのプランも用意し、こちらも使いやすい価格帯で提供している。「ミニマムな使い方であれば(スマホプランSで)十分なはず」と寺尾氏は語る。
この3プランのほか、月額1,000円追加することで、ドコモやauが提供するような完全な音声定額オプション「スーパーだれとでも定額」も用意している。同オプションを利用することで、相手先や通話時間、回数にかかわらず国内通話が完全定額になる。
インターネットの楽しさ、便利さが体験できるヤフーとの連携サービスを提供
料金プランとともに、Y!mobileサービスの大きな特徴となるのが、ヤフーとの連携サービスだ。Yahoo! JAPAN IDとY!mobileメール、30GB容量のYahoo!ボックスサービスを「基本パック」として料金無料で提供。さらに目玉サービスとして「パケットマイレージ」もリリースした。
パケットマイレージは、同サービス経由でヤフーにアクセスすると「マイレージ」が貯まり、一定数が貯まれば翌月に一定のデータ量を増量するというもの。1カ月で80~199マイル貯めれば、翌月のデータ量が0.5GB追加される。200~399マイルなら1GB、400~599マイルなら5GB、600マイル以上は翌月に無制限でデータが使えるといった内容だ。
同サービスは、ワイモバイルとヤフー双方のサービスの利用を活性化させる目的で開発されたもの。前述の「インターネットの生み出す楽しさ、便利さをみんなの手元に届ける」という想いから生まれたサービスと言えるだろう。
ユーザーにとっては、データ量が増量されるというわかりやすいメリットがある同サービスだが、両社にとってはどうだろうか? 寺尾氏によると、「ワイモバイルはデータ通信量が増えてより上位のプランを利用してもらえるというメリット、ヤフーは何度もアクセスしてもらい、サービスを使ってもらうというメリット」があるという。
取材時点ではまだ8月の提供開始から10日程度しかたっていなかったが、「想定以上にヤフーにログインされている」とのこと。現在はトップページへの誘導だけだが、今後は他のコンテンツの利用でマイレージが貯まるような仕掛けもしていきたいと寺尾氏は語る。 このほか、通信速度や対応エリアなどネットワークについても聞いた。ワイモバイルのネットワークは、同社の前身であるイー・アクセスの通信網に加え、ソフトバンク、ウィルコムから事業を継承したWireless City Planning (WCP)が展開するXGPを高速化した規格「AXGP(Advanced eXended Global Platform)」をサポート。「他キャリアとも遜色ないレベルで安定したネットワークを提供している」と寺尾氏は自信を見せた。
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ワイモバイルは、本稿で紹介した通りキャリアと枠にとらわれないサービスを提供することをモットーに、これまで料金や使いやすさなど、様々な理由でスマートフォンの導入を見送ってきたユーザーなど、いわゆる「レイトマジョリティー」をターゲットに、存在感を示したい考えだ。
寺尾氏はウィルコムとイー・アクセス、そしてヤフーの3社から集まったメンバーが話し合い、「今までと違う目線で議論できた」ことから、新しい発想が生まれ、それが大きなシナジーになっていると語る。単なる通信事業者でも、インターネット企業でもない、新しい「携帯キャリア」の誕生に手応えを感じているようだ。
第1回:取締役兼COO 寺尾洋幸氏インタビュー
第2回:取締役プロダクト&コンテンツ担当 村上臣氏インタビュー
第3回:Y!シナジー推進室 室長 三浦由佳氏インタビュー