OSのバージョンは統一されていたほうがハッピーなのか?――昨今、モバイル分野の興隆からOSプラットフォームが拡大し、互いに比較されるケースも増えてきたこの問題。改めて考察してみる。

「OSバージョンのフラグメンテーション」って何?

「Fragmentation (フラグメンテーション)」とは「分裂」や「断片化」を意味する英単語だ。IT分野に限っていえば、「ファイルシステムにおけるファイルの断片化(それを解消する"デフラグ"というツールをご存じだろう)」が古くから有名だが、最近再び取り上げられはじめたトピックとして表題にあるような「微妙に異なるプラットフォームが散在して非統一な状態にあること」が挙げられる。ケースとしてはいくつか考えられるが、互換性のない規格や製品が乱立状態にあったり、あるいは同じ会社の製品でありながらPC向けとモバイル向けでアプリの互換性が実現できていないといった状態だ。

前者の場合、最終的に負ける規格の製品を導入したユーザーが不利益を被る可能性が高いが、ある意味で市場に競争原理が働いており健全な状態にあるといえる。一方で諸所の理由から同一メーカーの製品でありながら、こうした状態が発生するケースもある。例えば、いまだ撲滅できず大問題となっている「MicrosoftのIE6やWindows XPなど旧バージョンが動作する環境の存在」であったり、最も最近のトピックとして挙げられるのが「AndroidのOSバージョンの混在問題」だ。

Google Playへのアクセス状況から解析したAndroid OS別アクティブユーザーのシェアは毎月Googleが公開している。これを見るとわかるが、最大勢力が2.3.x系のGingerbreadで全体の約3分の1、次いで4.1.x/4.2.x系のJelly Beanも約3分の1、残りが4.0.x系のIce Cream Sandwichとその他だ。つまり、現状のAndroidはGingerbread、Jelly Bean、Ice Cream Sandwichの3大勢力でシェアを3分していることになる。AndroidではOSバージョンごとにAPI Levelが設定されており、これによりアプリの適合するOSが決まってくる(Androidでは必ずしも後方互換性が実現されているわけではない点に注意)。Google PlayではOSバージョンに応じたアプリのパッケージを複数登録することが可能だが、こうした作業はアプリ開発者の負担を増やす結果につながる。開発ツールから複数のパッケージを作ること自体は容易であっても、バージョンごとの検証が必須だからだ。これが「OSバージョンのフラグメンテーション」における問題の1つだ。

この問題について、米Apple CEOのTim Cook氏は6月初旬に開催された開発者会議「WWDC 2013」において数多くの開発者らを前に訴え、同問題の少ないiOSプラットフォームが有利であると強調している。iOSでは、iPadまたはiPhoneの2種類のデバイスしか事実上存在せず、OSバージョンも最新のもので9割以上を占めており、こうした問題が少ないというわけだ。後に同社ワールドワイドマーケティング担当SVPのPhil Schiller氏がReutersに語ったところによれば、開発者にとってOSのフラグメンテーション問題は「非常にやっかいなものだ」とコメントしている。

WWDC 2013でTim Cook氏は、iOSにおいてはフラグメンテーションが少ないことを強調した

どんな不利益があるの?

OSのフラグメンテーション問題が開発者にとってやっかいなのは「開発ターゲットや検証プロセスが増える」ことにあるのだが、当然エンドユーザーにとっても不利益な部分がある。これはAndroid特有の問題でもあるが、

  • AndroidのハードウェアごとのOSバージョンアップはメーカーに委ねられている
  • これによりアップデータ提供に時間がかかったり、あるいは提供地域や型番によってはアップデータの提供が見送られる場合も
  • アプリによっては旧バージョンへの提供打ち切りや、あるいはトラブル対応が遅れる可能性がある

などが顕著だ。シングルプラットフォームを実現しているiOSに比べ、ハードウェアをリリースするメーカーの数が多いAndroidは多様性を実現している反面、こうした問題がついてまわる。もしAndroidでOSの最新バージョンや多くのアプリが問題なく動作する一般的な動作環境を入手したいと思った場合、Google自らが直接リリースするNexus端末を入手する必要がある。メーカーが独自に提供しているソフトウェアやハードウェアの機能が利用できない難点があるものの、このあたりは適材適所だろう。

まとめると、Nexus以外のAndroid端末はOSのバージョンアップは必ずしも期待できないため、基本的にはバグフィクス以外での更新は行われず、購入した状態のまま製品サイクルの終了まで使い続けることになる。OSのバージョンも必ずしも最新であるとは限らない。製品によっては比較的長く使い続けることも可能だが、Google Playで提供されるアプリや最新機能を積極的に利用するユーザーには製品寿命が短くなる可能性がある。だがiPhoneやiPadの場合、少なくとも2世代前のハードウェアまではOSバージョンアップが保証されており、一部機能に制限こそかかったり、パフォーマンスにやや不満があるケースも散見されるものの、アプリやOSの最新機能利用の面での不利益は少ない。シングルプラットフォームゆえの有利なポイントだ。

シングルプラットフォームの弱点としては、プラットフォームの運営が1社に委ねられてしまうため、場合によって開発者が振り回されることがある。最近の例ではiTunesでの書籍配信におけるアダルト関連の審査問題の話題が記憶に新しい。もちろんAndroidでも似たようなケースはあるが、依存度が高いというのは、より振り回される可能性が高いことを意味する。またiOS 6の地図問題のように、バージョンアップによって著しく機能性が損なわれるケースでは、シングルプラットフォームであってもユーザーがバージョンアップをためらうケースがある。Adobe SystemsがたびたびFlash Playerにおけるバージョンのフラグメンテーションの少なさをアピールしているが、これも「バージョンアップによる問題が少なくメリットが多いことをユーザーにアピール」してこそのものだ。