米Appleの新製品「iPhone 5」が、9月21日に発売された。すでに購入や予約を済ませた人も多いかもしれないが、au版とソフトバンク版のどちらを購入しようかまだ迷っている人も多いだろう。また、キャリア内での機種変更ではなく、MNPで別キャリアのiPhone 5へ機種変更することを検討している人も少なくないのではないだろうか。
そこで本稿では、両社の料金プランと機能面での比較を行い、両社広報部への取材も交えながら、どちらのiPhone 5が「買い」なのか検証してみたい。iPhone 5のキャリア選びで悩んでいる人の参考になれば幸いだ。
iPhone 5の料金プランをチェック
まずはiPhone 5の料金プランを見ていきたい。au版、ソフトバンク版ともに本体代・料金プランは「だいたい同じ」だ。詳細はマイナビの別稿で確認頂きたい。(該当記事:KDDI au版/ソフトバンク版 )。
2年間の月額料金で考えると、MNPを利用したときの合計金額は、au版、ソフトバンク版ともに5,775円と同額。また、新規契約の場合も6,775円で同額となっている。機種変更の場合は、ソフトバンク版だと1年目のみ6,265円だが、2年目以降はauと並ぶ6,775円となる。月額料金でも、au版とソフトバンク版でほぼ互角といえる。
本体代金は、au版のほうがソフトバンク版よりもやや高めとなっているが、月々の割引額も大きくなっているため、MNPまたは新規契約の場合、実質負担額は同額となっている。一見すると、ソフトバンク版のほうが安く見えるが、購入の際には実質負担額を把握しておくとよいだろう。
このほかソフトバンクでは、自社の既存スマホユーザーがiPhone 5を購入する場合、旧端末を下取りする「スマホ下取りプログラム」を11月30日まで実施している。広報に聞いたところ、「ソフトバンクのショップで引き取るのではなく、専用の封筒を店舗でお渡しし、ソフトバンクテレコムに送付する形になっています」とのことだ。手続きが完了すると、毎月の利用料から最大1000円×20ヶ月間などの"リボ払い"形式で割引きが開始されるが、液晶画面割れなどの大きな破損がある場合は下取り不可となっている。一方、auの広報に確認したところ「現時点で下取りキャンペーンの実施は未定」とのことだった。
また、両社とも自宅の固定回線との併用によって、月額利用料金から割り引く「auスマートバリュー」「4G/LTE スマホBB割」を実施している。どちらも最大2年間1,480円/月、それ以降は980円/月が割り引かれる。
「auスマートバリュー」の対象となるのは、「auひかり」などの通信会社と「J:COM」などのケーブルテレビ局の合計79社。提携事業者数も多く、既にサービス対象者である場合はもちろん、「@nifty」「ASAHIネット」「BIGLOBE」などでauひかり回線を使用している場合も含まれるので、フレッツ光などから切り替えれば新たに割引対象になる人も多いだろう。最大1GBのスピードを誇る、ひかり回線が中心なことも魅力といえる。
「4G/LTE スマホBB割」の対象は、「ホワイトBB」「ケーブルライン」「ひかりdeトークS」いずれかに加入し、「ホワイトコール24」に申し込むことが条件。詳しく見ていくと、「ホワイトBB」はソフトバンクユーザー向けのインターネット接続+IP電話サービス。「ケーブルライン」と「ひかりdeトークS」はIP電話サービスの名称で、22社(25局)のケーブルテレビ局が提供しているものだ。こちらはIP電話だけの申し込みでも可能となっている。「ホワイトコール24」に申し込むことで、これらのIP電話とソフトバンク携帯電話との国内通話が無料になる(定額料金無料)。なお、「Yahoo! BB」は対象に含まれず、ADSLが中心となっている。
LTEの通信制限とは?
iPhone 5で大きな注目を集めたテザリング機能だが、どちらも上限7GBという制限が付けられている。auの「LTEフラット」では、1カ月のデータ通信量が7GB(テザリング加入時は7.5GB)を超えると速度制限が課され、当月末までの通信速度が最大128kbpsに制限される。LTEで通信できなくなるわけではなく、「エクストラオプション」として2,626円を支払えば、この通信量の上限を2GB単位で増加できる。また、直近3日間の通信量が1GBを超えた場合も、当日1日間の速度が制限される。この制限は「エクストラオプション」の有無とは無関係だ。
これについてauの広報に聞くと、「よく話題になっていますが、実際7GBにひっかかるお客様は全体の5%程度という形になります」という。ちなみにこの方、「iPhone4Sを半年ほど使っていますけど、それでも累計で2.3GB程度しか使っていません」とのことだ。7GBを超えるのは、メールなら1日約62万通分、動画だと毎日1時間以上必ず視聴する、というレベルであり、一般的な使い方であればテザリングでも上限に達することはほぼないだろう。
ソフトバンクのテザリング対応プラン「パケットし放題フラットfor 4G LTE」も、auと条件をあわせてきた。その一方で、当初「制限なし」をうたっていたテザリング非対応プラン「パケット定額 for 4G LTE」だが、現在は、前々月の合計パケット通信量が約 1.2GBを超えた場合、当月の1カ月間は最低 128kbpsの通信速度制限を課される可能性があるという。これについては「iPhone 5に限らず全てのソフトバンク携帯端末が対象になっています」とのこと。実際にどの程度のユーザーがどの程度の速度に規制されているのかなどは非公開ということで、確認できなかった。機種変更後、LTEが快適だからといって動画視聴などの利用が急増したら、通信データ量を注意して見てみよう。
使用量が心配になった場合は、auでは「お客様サポートのページでパケット通信量がわかるようになっている」おり、自分の使用状況が確認できる。またソフトバンクでは「『My SoftBank』で事前にメールアドレスを登録し、上限1GB手前に達するとお知らせするサービスを提供」するとのこと。テザリングを利用する場合の詳細は来年1月のサービスインを待って確認したい。
もう一つ気になるのがLTEのサービス提供状況だ。ともに下り最大75Mbps、上り最大25Mbpsの通信速度で、すでに利用している人からは「繋がれば非常に速い」という感想が聞かれている。auは、サービス開始時で東京23区と政令指定都市を中心とした全国主要エリアをカバー。今後も順次拡大し、2013年3月末には実人口カバー率約96%を目指すとしている。また、2013年には下り最大112.5Mbpsで提供される予定。現在の対応エリアはKDDIのWebサイトで確認できる。
ソフトバンクは、2013年3月末に政令指定都市と東京23区での人口カバー率100%を目指すとしている。なお、これは全国政令指定都市の市役所および東京23区の区役所が所在する地点における通信が可能か否かをもとに算出される。現在の対応エリアはソフトバンクのWebサイトで確認できる。
au版とソフトバンク版の機能面での違いは?
同じアップル社製のiPhoneだが、au版とソフトバンク版で微妙に異なる部分がある。一つはau版がテザリング中に通話ができないという点。実はLTEで通信している時、同時に3Gを使えないのはauに限ったことではない。通話は3Gが使われるため、通話する際には切り替えなくてはならない。ソフトバンクの場合、「LTEでデータ通信をしている最中に着信があった場合、通信も3Gに切り替わり、そのまま継続」する形になる。一方、auでは着信があると通話が優先されてLTEがいったん切断され「電話が終わった後は、自動でLTEの通信に復帰」する形になっている。
もう一つは連続待受時間。アップルの製品紹介ではiPhone 4Sの最大200時間に対して5では最大225時間に延びているが、auではさらにそれを上回って約260時間を実現したという。これについて聞いてみると、「必要な時だけ基地局と通信する省電力設計にしているため」という回答を得た。車でいうアイドリングストップのような仕組みだが、これを端末でなく「利用するネットワークのほうをどのように作り込んでいるか」によって差が出ているのだという。
この点は緊急地震速報の設定にも影響しており、auでは緊急地震速報があった時のみ必要な通信を行う仕組みになっているので、待ち受け時間に影響はない。一方、ソフトバンクにこの点をたずねてみると、「消費電力自体が通話やメールに比較して非常に小さいので、実際にはそれほど大きな影響はありません」という回答だった。なお、ソフトバンクは4G LTEエリアにおける緊急速報メールには現在対応しておらず、2012年10月末より順次開始される予定。
無線LANスポットについては、より早くから設置を進められている「ソフトバンクWi-Fiスポット」の方が数で勝っている。一方でauの「au Wi-Fi SPOT」では、新たにiPhone 5が対応した無線LANの5GHz帯が利用できる所が多い。また、iPhone 5の以外にPCやiPadなど別の機器1台からも無料で利用できることも、地味ながら通信制限の上限到達回避に役立つだろう。
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au版とソフトバンク版のiPhone 5を料金面と通信面、機能面で比較してきた。料金面では、月額料金、機種代金ともにau版とソフトバンク版でほぼ互角。ソフトバンクの「スマホ下取りプログラム」を利用するかどうかが比較のポイントになるかもしれない。通信面では現時点でテザリングを利用できるという点でauに利がある。機能面では、4S発売時に見られたような大きな違いはないものの、テザリング/LTE通信時の緊急地震速報対応や、5GHz帯のWi-Fiスポットが多いなど、細かい点でau版に利点がある。
約1年前の2011年10月にiPhone 4Sが発売された際には、携帯メールのリアルタイム着信やMMS、「FaceTime」「iMessage」などがソフトバンク版iPhoneのみ対応で、au版iPhoneは未対応となっていた。しかし今回は、iPhone5の発売タイミングにあわせて、auが独自のチューニングをおこなってきた様子が伺える。少なくとも現時点ではau版がソフトバンク版よりも優位に立っていると考えられ、iPhone 5の機能を今すぐ存分に活かして使いたいなら、au版を手に入れるのが正しい選択かもしれない。後手の印象を拭えない滑り出しとなったソフトバンクが、LTEの緊急地震速報やテザリングへの対応を完了する2013年1月頃を目処に、どこまでこの差を縮めてくるのだろうか。両社のiPhone 5をめぐる争いは始まったばかりで、特にLTEにおける対応力の差が今後重要な鍵を握ることになりそうだ。