――というわけで2曲目は「Shangri-La〔mf〕」ですが、この〔mf〕は何を意味しているのですか?

KATSU「これは"メゾフォルテ"の〔mf〕です。前回よりもやや強くなったという意味なんですけど、実は全部で3つの意味があって、もうひとつは"male and female"、男性と女性ですね。ファフナーという作品自体が男の子と女の子のお話なので、男の子と女の子をフィーチャーしたアレンジを入れたくて、今回は男女混声のコーラス隊を入れたりしています。そしてもうひとつは、『蒼穹のファフナー』のエンディングの『Separation』に『Separation〔pf〕』というのがありまして、これはピアノを意味する[pf]なんですけど、それにちなんで、『Shangri-La』は〔mf〕にしました」

atsuko「今、KATSUがさらっと説明しましたが、実はこの〔mf〕をつけるだけで、朝まで延々と会議室で話し合いをしたんですよ(笑)」

――夜を徹しての話し合いですか?

atsuko「やはり『Shangri-La』のままで出すわけにもいかず、『帰ってきたShangri-La』でも『Shagri-La 2011』でも、何でもいいから新しいタイトルをつけなければならなかったのですが、なかなかこれだ! という案がなく、みんなで会議室にこもって、ああでもない、こうでもないと、辞書で調べたり、くだらないことを言ったりしながら、ずっと話し合っていました。ようやくKATSUから〔mf〕という案が出たのは、朝の4時も過ぎた頃で……」

KATSU「タイトルを決めるのですら、そんなに時間が掛かるぐらい『Shangri-La』は自分たちの中で完成していて、何もいじれないような作品だったんですよ。今回、『蒼穹のファフナー』の舞台にあわせて、曲を作り直さないかというお話をいただいたのですが、タイトルさえなかなか決まらないぐらいなので、中身なんか決まるわけもない。なので、最初は無理だったら断ろうぐらいの気持ちでしたね」

――やってみないとわからないという感じでしょうか?

KATSU「演出家さんやスタッフの方々の意見を聞いていく中で、『Shangri-La』を作り直す機会は、たぶんこの先ないだろうと。なら、むしろ今回の作り直す機会は、自分たちに課せられた壁なのではないかと思って、それならちょっとやってみようかなと。『Shangri-La』は、今でも普通に歌っていますけど、angelaの中では7年前の曲なわけですよ。その7年前に完成している曲を、今の自分たちが持っている知識や技術、7年間の蓄積によって、どのように変えることができるのか? パソコンひとつとっても、この7年間で大きく変わっているじゃないですか。『Shangri-La』のデータって、実はZIPに保存されているんですよ。圧縮ファイルじゃなくて、ZIPディスク」

――それはまた懐かしいですね

KATSU「それも含めて、この7年間の進歩をいかに出せるか。もしこれで何も出せなかったら、ミュージシャン終わりだなっていうぐらいの気持ちで取り掛かりました。当時、ドラムは打ち込みだったんですけど、それを生ドラムにしたり、ストリングスはオーケストラ的な大人数にしてみたり……。そういう意味ではけっこう面白く作業ができたなと思っていますし、もうこれ以上のものはできないという感じがします」

atsuko「どうする? また7年後に新しい『Shangri-La』をお願いしますって言われたら(笑)。そのときはもっとすごいことができるかもしれませんが、今回はかなり悩んで、作り上げた曲になっています」

――ちなみに、オファーがなければ、作り直したいという気持ちはまったくなかったのですか?

atsuko「まったくなかったです」

――最初に話が来たときは、やはり「ノー」の返事ですよね

KATSU「『ノー』と言うより、逆に何がダメなんですかって。やはり『Shangri-La』には自信がありますし、何よりangelaにとってすごく大切な曲なわけですよ。それを何で作り直さなければならないのかって。ただ、7年前はあれ以上のものはできなかったけれど、7年経った今ならさらなる何かができるかもしれない。そんな気持ちもあって作り直すことになったわけですが、やはり作り直すというのは勇気のいる決断でした」

atsuko「ゼロから作るよりも、既にある曲を崩して新しくするほうが難しいというのは、最初からわかっていたんですよ」

KATSU「新しい曲ならいくらでも書くって言ったんですけどね」

――そうやって出来上がった「Shangri-La〔mf〕」は、やはりお2人にとって、原曲とはまったく別の曲という感じでしょうか?

KATSU「まったくの別曲ですね。この曲は、"自分への挑戦"という意味合いが強くなっていると思います。とにかく、取り掛かるまでがすごく辛かったんですよ。すでに『Shangri-La』という曲には、聴いてくださる方の中にも固定観念のようなものがあって、さらに『蒼穹のファフナー』という作品に対するイメージも出来上がっている。そういう意味では、バランスがすごく重要になってくる」

――バランスですか?

KATSU「あまりやりすぎてしまうと、お客さんも持っている"Shangri-La像"を壊してしまうじゃないですか。そのイメージを壊さずに新しくするというのがやはり難しかったです。壊していいのなら、たぶん簡単だったと思います。ドメラバぐらいやっていいんだったら、いくらでもやります(笑)」

――やはり聴く側のイメージを壊さずに新しく作るというのはバランスが大事ですね

KATSU「あと、作る前から舞台では、『ヒロイックエイジ』のエンディングを歌っていた浦壁多恵ちゃんが歌うことが決まっていたので、多恵ちゃんが歌っても『Shangri-La』になるものというあたりも少し意識して作っています。歌の上手い子ですし、表現力もあるので、こういう曲であれば、多恵ちゃんなら『Shangri-La』として歌ってくれるだろうと」

――angelaにとってはもちろんですが、ファンにとっても『Shangri-La』を作り直すというのは大きなトピックだったと思います

KATSU「今年、来年は頼まれても作り直せないです」

atsuko「それだと、再来年ならいけるみたいな発言だね(笑)」

(次ページへ続く)