――すでに原作も終了してしまった『鋼の錬金術師』ですが、今回のような完全オリジナルストーリーという形なら、さらにまた新しい形での展開も期待されます。そのあたりはいかがですか?

「元々、『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』でアニメは終わりだって聞いていたんですよ。もうこれで『鋼』は作らないって。なので、私と理恵は、『もうエドとして、アルとして皆さんのお目にかかることはありません、今までありがとうございました』ってイベントでわざわざご挨拶までさせていただいたんですね。そのあとも、大量の赤いバラをいただいたりして、本当にこれで終わったんだって思っていたところ、数年経って今度は『FULLMETAL ALCHEMIST』の話が来て……」

釘宮「そんなの聞いてないよーって(笑)」

「『そういうのはいいですから』みたいに思っていたんですけど、どうやら本当にやるらしいということで……。一度自分たちが死にものぐるいで駆けずり回ってきっちり終わったものをもう一度イチから作るということに、どういった気持ちで臨めばいいのか、はたしてどんなモチベーションで向き合えばいいのか、本当に悩みました。でも、『鋼』に関して、あれだけ一生懸命に体当たりで向き合った記憶というものは、消せと言われても消せるものではないし、私の中にずっと残っているものなんですよ。だったら、今エドをやれるのは自分しかいないし、アルができるのは理恵しかいない。そんな風に考えて、じゃあ私たちが『鋼の錬金術師』という世界観をきっちり守っていこうと。そういう感じで、『FULLMETAL ALCHEMIST』はさんざん悩んだ末にやらせていただいた感じでした」

――その悩みはかなり大きなものだったんですね

「やはり一度やったものをまっさらにして、またイチから始めるというのは、舞台などでは再演とか、演出家が変わってもう一度といったこともありますが、アニメーションではなかなかないですよね。だからすごく戸惑いましたし、『FULLMETAL ALCHEMIST』ではキャストの入れ替えなんてこともありましたから」

釘宮「役自体は同じなんだけど、役を取り巻く環境が変わったりしたので、それに慣れるのに少し時間がかかりました。新しいものを受け入れるということに、最初どこか抵抗のようなものがあったのかもしれません」

「今になって思うのは、『FULLMETAL ALCHEMIST』の1クール目は、『鋼ってこうですよ』みたいなことを私たちが先陣を切ってやるという感じだったのが、2クール目になって、リンをはじめ新しいキャラが登場したことで、新しい風が入り、やっとここから『FULLMETAL ALCHEMIST』が始まるんだって感じになった。そして3クール目に入って、北の人たちとかいろいろと出てきて、これまで育ててきたものをドンドンと皆さんに分けることができて、その結果、最後は皆さんに私たちが引っ張ってもらった……。今振り返ってみるときれいな流れになっていますが、やっている間は、まったくこんなことは想定できなかったですね」

釘宮「もう、全然何も見えなくて、ちょっと軽くなったねっていうぐらいでした」

「本当に暗中模索の連続で、散々悩みに悩んだものですから、今回の劇場の話を聞いたときは、時間軸とか、どんなストーリーなのかっていうことは全然気にならなかったんですよ。無印の『鋼の錬金術師』で、私たちが一生懸命に体当たりしてきたことが核となり、『FULLMETAL ALCHEMIST』で悩みに悩みぬいたという流れがあったので、もはや私の中では、『鋼の錬金術師』、そして"エドワード・エルリック"というものが普遍的なものになってしまっているんですよ。『FULLMETAL ALCHEMIST』をやる前の私だったら、また劇場があるらしいよって聞いても、『いやあ、ないですよ』って答えていたと思うんですけど、今は逆に、いろいろな方が演出する、そしていろいろな方が書く『鋼』を逆に観てみたいですし、いろいろな方に料理していただきたいという気持ちが強いです」

――ドンと来いという感じですか?

「今回は村田監督の『鋼』でしたが、次回は全然違う監督の『鋼』で、そしてまた次は村田監督に戻るみたいな(笑)。そんな感じになってもらえれば楽しいなって思いますし、私自身も逆に楽しみたいです。あれだけ苦しんだので(笑)」

――それでは次回作の話があっても、もう悩むことはない感じですか?

「今度こそ楽しんで台本が読めると思います……あ、やっぱりそれはわからないですね(笑)」

――釘宮さんはいかがですか?

釘宮「私もほぼまったく同じ感じです。無印の『鋼』のときは、役と私がお互いに依存しあっていて、ものすごく寄り添いあっていたという感覚が強かったんですよ。アルと私がものすごい近くにいるという感じがしていたのですが、『FULLMETAL ALCHEMIST』をやったことによって、すごく対等な距離感になれたような気がしたんです。役と向き合えるという意味で。おそらく、この状態が朴さんのおっしゃっている普遍的な感じだと思うのですが、『私がいるかぎりアルもいる』という、この関係性はもはや崩れないものに成長してきたという自信があります。そして、この状態に至ってしまえば、多少台本をいただいたときに重いなって思ったとしても、心構え自体はできあがっているので、あとはその作品世界に飛び込むだけなんですよね。だからこの夏はこの一作、別の季節はまた別の一作みたいな感じで、いろいろな形で展開していったらいいのになって、今では逆にひそかな楽しみに思っているぐらいです」

――それでは最後に映画の見どころを含めつつ、ファンの方へのメッセージをお願いします

「とにかく本編は観ていただければ見どころだらけで、きっと観てくださる方の五感をまさぐる作品になっていると思います。8年ぐらい『鋼の錬金術師』に関わらせていただいていますが、今回初めて(アニメーション制作の)ボンズさんへ陣中見舞いに伺わせていただきました。アニメーションがどうやって作られるかというのは、頭ではわかっていたつもりだったのですが、実際に作られている方々を見て、たった2秒ぐらいのシーンを何十人もの人が何日もかけて作り上げる、そしてまたそれに手直しを入れていくという途方もない作業を見て、あらためて、モノ作りは人の想像力から始まって、人の手によって作り上げられるものなんだっていうことを感じました。どれだけ機械が発達して、どれだけデジタル化が進もうとも、やっぱり人の手が、ぬくもりのある手が作るものなんだっていうことを実感させられたんですよ、今更ながら恥ずかしいお話なんですけど。今回、絵がものすごい動きをしています。ハンパないです。それは、ひとつひとつ、ぬくもりある手が作ったものなので、ぜひぜひそのあたりの描写に人のぬくもりを感じながら観ていただけたらうれしいなと思います。よろしくお願いします」

釘宮「こんなにサービス精神旺盛でいいのかなって思うぐらい盛りだくさんの内容が、次から次へと展開していきます。そして、そのひとつひとつの密度がすごく濃くて、本当に丁寧に、熱意を持って作り上げられたんだということを感じられる作品になっています。ストーリーも、『鋼』らしい、のめり込めるような素敵なお話ですし、絵も温かみのある線や色づかいで本当に見やすいものになっていて、誰もが飛び込んでいける、ものすごいドアが開いているなって感じです。なので、まだ観ていない方はもちろん、一度観た方も、お友だちを誘っていただいたりして、ぜひこの扉を開いていただきたいなと思っております。よろしくお願いします」

――ありがとうございました


劇場映画『鋼の錬金術師 嘆きの丘 (ミロス)の聖なる星』は、2011年7月2日より、東京・新宿ピカデリーほか、全国ロードショー。配給は松竹/アニプレックス。なお、公開劇場など作品についての詳細は、公式サイトをチェックしてほしい。

(C)荒川弘/HAGAREN THE MOVIE 2011