勝たなきゃいけない理由がある!?
国際レベルで自分の研究を披露し、国際交流を図ることのできるISEFは、「参加することに意義がある」と言ってしまえば確かにそうかもしれない。しかし中には、「必ず賞を獲得したい!」という強い思いで参加している高校生たちがいる。
ISEFでは、各部門賞のほかにも、企業や学会、大学、政府機関などが独自の審査基準により授与する「スペシャルアワード」や「ガバメントアワード」が数多く用意され、1,600人中500人を超える参加者が奨学金や賞金を獲得することになる。その賞金総額は400万ドル(約3億5千万円)にものぼる。その中には、大学からの直接の奨学金やインターンシップ、実験機器なども含まれる。この奨学金や賞金は、ISEF参加の大きな理由づけのひとつになっているようだ。と言うのも、発展途上国などからは、ISEFで奨学金を獲得することで大学進学が可能になるといった参加者たちも少なくないからだ。また近年から参加となったガンボジアやベトナム、インドネシアなどは、政府レベルでISEFへの参加を支援し、提携フェアなどを積極的に推進しているそうだ。
今年からスポンサーとして参加したグーグルは、1万ドルの奨学金と共に「スペシャルアワード」を準備していた。シスコやリコー、シマンテックなどのハイテク企業、大学や専門学校、政府機関、IEEE財団や米歯科協会など、科学やテクノロジーに関連した幅広いエリアからの各種団体、コミュニティ等が支援を行っている。「ガバメントアワード」(写真右)では、米国政府や海軍、陸軍などの関係者も数多く出席した |
例えば、フロリダの私立工科大「Florida Institute of Technology」からの特別賞を受賞したひとり、プエルトルコの男子高校生は、名前を呼ばれた瞬間、飛び上がってステージに駆け上がり、本当に感極まるといった表情で喜びを体全体で表現していた。受賞によって今後、同大学と大学院生活を送ることのできるフルスカラシップを、毎年12,500ドルを受け取ることができるのだ。財政も厳しく、貧富の差も激しいプエルトルコの事情を考えると、彼にとってこのスカラシップは、一生を左右するくらい価値のあるものだと想像できる。
ブルーのユニフォームに身を包み目立っていたプエルトリコのファイナリストたち。名前を呼ばれた瞬間、体全体で喜びを表わしていたのが印象的だった |
従来の経済大国、発展国以外のあらゆる国々から、数多くのファイナリストたちが参加するようになってきた |
「Intel ISEF」も変化している
今回のISEFを取材して、数年前のISEFでの参加者たちと比べて、なんとなく雰囲気が変わったなと感じたことがあった。
そのひとつは、彼らがデジタルネイティブだということだ。もちろん、誰もが皆、携帯電話やスマートフォンを手にしているし、ピンバッジ交換の際には、FacebookやTwitterアカウントを一緒に教え合ったりしていた。数年前のISEFでは、息抜きとして用意された(ネットにつながっていない)PCゲームで、はしゃぐ様子が見られたものだが、今年はと言えば、マルチタッチのデジタルウォールに落書きしたり、バーチャル空間でやりとりをしたりと、5年前にはまだ未来であった技術を当たり前のように使いこなしていた。テクノロジに対して気負うところがまったくない世代なのだと感じた。
変化を感じた理由は、もうひとつあった。参加者たちの「黒髪」がやけに目立つのだ。そうだ、インドや中東、そしてアジア諸国の参加者たちの割合が増えているからでないか! 米国内の各州から集まった高校生たちにしても、中国などのアジア系が多い。グローバル化したための自然な流れなのかも知しれないが、「ゴードン・ムーア賞」を受賞したチャオさんに象徴されるように、今後は女性の活躍やアジアや中東諸国などからの積極的な参加がさらに顕著になっていくのではないだろうか。一方で、日本ももっと積極的にこういったグローバルレベルでの人材育成に力を入れていかなければ、取り残されてしまうのではないかとも思った。
筆者が数年の間を経て訪れた「Intel ISEF」は、科学技術への関心と研究、英語力やプレゼンテーションスキル、コミュニケーション力やコラボレーション、積極性などが総合的に評価される場となっていた。それは、インテルCEOのポール・オッテリーニ氏が受賞セレモニーで語っていた「研究にはプレゼンテーション、ビジョン、イノベーションが必要である」という言葉からも汲み取ることができる。
2011年の「Intel ISEF」への参加権を得ることのできる提携科学フェアの応募要項がすでに発表になっている。ぜひ、多くの高校生たちにチャレンジしていただきたいと思う。
「Intel ISEF」レポートの最終回となる次回は、写真で紹介する「ISEF番外編」をお送りする。