富士通とマイクロソフトは7月13日、共同で記者説明会を開催。両社は既報の通り「Windows Azure platform」を活用したサービスの世界的な展開について協業することで合意したと正式に発表しているが、現時点で明らかにされている協業の内容について説明が行われた。
「アプライアンス」とは何か?
今回の協業でポイントとなっているのは、発表内容の「Windows Azure Platform Appliance」という名称に示されているように、両社の協業によって顧客に対し、マイクロソフトのソフトウェア「Windows Azure Platform」(SQL Azure、Windows Azure)の環境が組み込まれた富士通のハードウェア(「PRIMERGY」シリーズ)がセット(アプライアンス)で提供されるということ。大雑把に言うと、「富士通とマイクロソフトが共同でプライベートクラウド環境を提供しますよ」ということになる。
ただし、ここで「アプライアンス」と呼ばれているのは、一般的な"箱"型製品のことではなく、数千~数万台規模のサーバ環境がパッケージ化されたもの。五十嵐氏によると、Windows ServerやSQL Serverといったソフトウェア製品とハードウェアベンダーのサーバ製品がセットで提供される従来の仕組みと大きく異なるのは、上述のようなサーバ台数に示されているように、「インターネットスケール」である点だという。
今回の取り組みは、「マイクロソフトが持っている(Windows Azureの)環境を自社内で展開したい」と考えているユーザー(サービスプロバイダや大企業)が主なターゲットとされている。
富士通と組んだ理由
ではなぜマイクロソフトは富士通と組んだのか。
五十嵐氏は、あくまで富士通が「先行パートナーである(ほかの企業との協業準備も進める)」としながらも、今回の協業が顧客ニーズに対応するものであると強調。同社がWindows Azure(パブリッククラウドサービス)に関して世界の顧客企業からヒアリングを行った結果、レガシー資産や各国の法制度による制約などから、「自社で(クラウド環境を)持ちたい」という声が多く寄せられた事実を明らかにし、とりわけ欧米において豊富なシステム構築実績やIAサーバの出荷実績を持つ富士通が評価され、今回の協業に至ったとした。
また五十嵐氏は、経営的な観点での共通性も協業の背景にあるとし、両社の間で「クラウドで社会に貢献する」というビジョンの共有が図れたことも大きな要素となっているとしている。この点については、マイクロソフトはテクノロジーの側面から、富士通は"上位レイヤー"担当として、(すでに接点を持つ)農業分野などにおける業務支援サービスを展開する。
2010年末に「FJ-Azure」(仮称)サービスを開始
富士通の阿部氏は、今回の協業の第1弾として、同社「館林システムセンター」を利用した「FJ-Azure」(仮称)サービスを2010年末を目標として提供する計画を明らかにした。これに伴い富士通はシアトル(マイクロソフト)にエンジニアを派遣するなどし、5,000名以上の「Azure技術者」を育成する。同社山本社長が経営方針説明会で明らかにした「クラウド関連のスペシャリストを、2011年度末までに5000名育成する」は、具体的にはこのことを指す。
ちなみに、富士通はすでにセールスフォース・ドットコムともグローバルな協業展開を実施することを発表しているが、今回の協業は「顧客に対して提供する選択肢を増やす」(阿部氏)という意味を持つという。
今回の説明会でマイクロソフトの五十嵐氏は、グーグルやセールスフォース・ドットコム、アマゾンなどとマイクロソフトの立ち居地の違いについても説明。協業によって、これまでの「SaaS」「PaaS」「仮想化」に加え、インフラ部分の資産も網羅されるようになることから、「"クラウド"に関するすべての領域をカバーする」という点でマイクロソフトが強みを持つようになると説明した。
なお、現段階では本社レベルでの話にとどまっているデルやヒューレット・パッカード、イーベイとの提携に関する国内での展開については、「(日本法人としては)今回(富士通との協業)の話とは大きく意味が異なるもの」(五十嵐氏)として具体的な言及は避け、「タイミングを見たうえであらためて発表することになるだろう」という考えを示した。