「我々二人の信頼関係は強固で揺るぎない。シングルCEO時代に比べて"良くなった"と顧客から言われるようになる自信がある」 - 3月2日(現地時間)、ドイツ・ハノーバーで開催されたCeBITの会見場で、就任後はじめての会見となったSAPの新CEOであるBill McDermott氏とJim Hagemann Snabe氏は自信を隠さずにこう宣言した。前CEOであるLeo Apotheker氏の突然の退任が発表されてから約1カ月、ふたたび共同CEO体制に回帰したSAPの顔となるふたりが、はじめて共同でパブリックな場に登場、抱負を語った。
「我々は顧客の声に耳を傾けなければならない。そして、信頼を取り戻さなければならない」 - SAP CEOとしての役割を問われたMcDermott氏はこう答えた。それはとりもなおさず、Apotheker氏時代に多くの顧客離れがあった事実をSAP自身が認めた格好になる。
サブスクリプションの値上げなど、顧客離れを引き起こした原因はさまざま挙げられているが、両CEOが今後、注力していく分野として強調するのはSAPのオンデマンドソリューションである「Business ByDesign」だ。クラウドコンピューティングという言葉がまだ一般化する前、多くのエンタープライズ企業がSaaS(Software as a Service)ビジネスの拡大を図っていたが、SAPは明らかにそのスタートに乗り遅れた。Apotheker氏解任(と言っていいだろう)の理由は、このBusiness ByDesignの遅れに依るところが大きい。失った顧客を取り戻すため、両氏は大企業をBusiness ByDesignのターゲットとしていきたいとしている。「Business ByDesignはSAPソリューションのエコシステムを支える非常に重要な製品であり、チャンスでもある。これほど業務効率を高められる製品はない。私が顧客なら(競合他社製品と比べても)まず最初にBusiness ByDesignを選ぶだろう」とSnabe氏は製品のクオリティの高さを強調、これまでオンプレミス製品を使っていたユーザが「すごい勢いで」(Snabe氏)Business ByDesignに移行してきているという。
さらに両氏は「SAPはイノベーション企業だ」と断言、顧客にも従業員にも"イノベーション企業のSAP"というイメージを強く植えつけていきたいとしている。「SAPは技術の企業だというプライドを我々は強くもっている。オンプレミス、オンデマンド、そしてオンデバイス - あらゆるエリアにおいて強い技術力でもって成長を果たしていく」(McDermott氏) - そして、おそらく同社の"イノベーション戦略"の鍵となるソリューションはやはりBusiness ByDesignとなりそうだ。
もうひとつ、CEOの重要な仕事して両氏が挙げたのが「財務の改善」だ。会見では「2ケタ成長をできるだけ早いうちに実現したい」と強気な目標を掲げたが、2010年度に達成するのは、同社の現在の数字が4.8%で営業利益率が30%前後という現実に加え、不況が続く世界経済とIT市場から考えると達成は難しいとするのが大方の見方だ。
「SAPで顧客のビジネスを拡大してもらうことが我々の使命。そのためにはSAPがふたたび成長を目指しているということを広く知ってもらわなければならない。ビジネスのリーチを拡げ、さまざまなタイプのサプライヤとの関係を良好にはこび、顧客の声に耳を傾ける。そして我々自身がオープンであり続ける努力をしなければならない」とMcDermott氏。Snabe氏は「クリエイティブなソリューションを市場に届け、それをユーザに正しく使ってもらい、ビジネスを拡大する - SAPだからこそそれができる」とし、ソフトウェア/サービスの迅速な提供を顧客に約束するとしている。
共同CEO体制で決断がぶれたりすることはないのか、という質問に両氏は「我々は長い間、チームを組んでいる。その信頼関係は揺るぎない。ビジネスアワーだけでなく、土曜も日曜も我々は話し合いをしている - 24時間/7日間、つねにコンタクトがとれる状態にある。2名体制が、顧客にとっても従業員にとってもエキサイティングであることがわかるだろう」と笑って回答、「むしろ2-CEOであることで、どんな経営判断も柔軟かつ迅速に行えることになる」としている。
世界的な景気回復にはまだ時間がかかりそうな現在、失った顧客を取り戻すという最初から大きなハードルを課せられた両CEOだが、SAPにとってこれ以上の業績悪化は外部状況がどうであれ、絶対に許されない。幸い、2008年に買収したBusinessObjetctsは今やSAPの"フラグシップ"となるまで成長し、顧客満足度も高い。今後、BusinessObjectsと並ぶイノベーティブな製品を顧客に印象付けることができるのか、両CEOはスタート時点からすでに、顧客、業界、そしておそらくSAP自身からもきびしい視線と大きな期待を投げかけられている。