iPhoneを筆頭にスマートフォンが台頭し始めてから、処理能力は二の次で、どこからでもインターネットを利用できる接続性を重視するネットユーザーが増えている。そうした変化をチャンスに頭角を現してきた企業がある。CDMA方式のワイアレス技術で知られるQualcommだ。今年のCESでは、同社CEOのPaul Jacobs氏が初めて基調講演に登場。大きな製品発表はなかったが、スマートフォン、PC、医療、ネットワークなど、幅広い分野のパートナーを壇上に招きながら同社のエコシステムの拡大をアピールした。
開口一番、Jacobs氏は「この中でQualcommがスタジアムを運営している会社だと思っている人? 」と聴衆にたずねた。Qualcommという名前はテクノロジ企業としてよりも、サンディエゴ・チャージャーズのホームスタジアム"Qualcomm Stadium"の方が有名だというわけだ。しかし一般的な知名度は低いものの、同社の技術は今日約9億人が利用しているすべての3G対応携帯に組み込まれている。
携帯電話は新興市場において1台20ドル程度の低価格製品が使われており、同時にスマートフォンが2011年には出荷台数でPCを上回る見通しだ。「携帯電話は、もっとも幅広く人々に浸透しているプラットフォームである」とJacobs氏。そのメリットを武器にするために、QualcommはAndroid、Linux、S60、Symbian、Windows Mobileなど、あらゆるモバイルデバイス向けOSのサポートに努めてきた。今年後半に搭載製品が登場する予定のChrome OSもサポートする計画だという。また同社自身も6日(米国時間)にスマートフォン向けOSを軸にしたBrew Mobile Platform (Brew MP)のローンチを発表した。同プラットフォームを採用するパートナーの代表としてHTC CEOのPeter Chou氏が登場。今年春リリース予定の「HTC Smart」を紹介した。HTCのSenseインターフェイスとの組み合わせにより、手頃な価格帯で直感的に操作できるスマートフォンを実現する。
携帯電話が多機能化・高機能化してきた一方で、一般消費者が気づかないところで逆に家電製品やデジタル機器にセルラー技術が組み込まれるケースも増えている。たとえばAmazon.comの電子ブックリーダーKindleには3Gチップが組み込まれており、Kindleから直接電子ブックを購入できる。
セルラー技術は様々な分野にワイアレス・インターネットの可能性をもたらし、また新たな製品カテゴリの創出も促す。その一例としてJacobs氏は「スマートブック (Smartbook)」を挙げた。Snapdragonプラットフォームを搭載した超薄型のノートブック型ネットデバイスで、スマートフォンのインスタント起動と長時間駆動、ネットブックの大きな画面とウエブ互換性を併せ持つ。スマートブックを投入するパートナーとしてLenovoとHewlett-Packard(HP)が登場。Lenovoは米国で4月発売予定の「Skylight」の、ネットユーザーの利用スタイルに適したウエブベースの独自ユーザーインターフェイス(UI)を説明した。一方HPは開発中のAndroidべースのスマートブックを使って、スマートフォンで培われたタッチUIの操作性の高さを示した。
スマートフォンとネットブックの長所を併せ持つ"スマートブック" |
Lenovoのスマートブック「Skylight」。Digital Experienceなどではブラックモデルを見せていたが、基調講演ではレッドモデルでデモを披露 |
ほかにも基調講演では、ワイアレス技術以外でのモバイルプラットフォームの取り組みとして、電子リーダー向けディスプレイ技術「Mirasol」が紹介された。蝶の羽が光にきらめくのと同じ原理で、光を反射させて特定の波長を互いに干渉させ、鮮やかな色を生み出す。バックライトで照らし出す必要がないため、ディスプレイの消費電力を大幅に低減できる。