燃料電池の分野では世界最大級となる展示会「第5回 国際 水素・燃料電池展」(FC EXPO 2009)が25日から東京ビッグサイトにて開催されている。「第2回 国際 太陽電池展」(PV EXPO 2009)が併催されるほか、今年から「二次電池フェア」も新設されており、新エネルギーに関する技術・製品をまとめて見ることができる。

FC EXPO 2009が開幕。今年は西展示棟の4Fに移動

屋上では燃料電池車の試乗も行われていた

完成度の高い試作機を初公開

今年のFC EXPOで注目を集めていたのは、今回が初出展となるソニー。同社はこれまで、燃料電池関連ではあまり表だった発表をしてこなかったが、今回はダイレクトメタノール型の燃料電池(DMFC)を使った試作品を公開しており、いよいよ製品化に向けた段階に入ってきたようだ。

同社のDMFC技術の特徴は、電解質膜にフラーレン(C60)を採用していることだ。分子表面にスルホン酸基を導入し、プロトン(水素イオン)の伝導パスを構築したもので、一般的に使われる電解質膜に比べ、コストは多少上がるものの、クロスオーバー(メタノール分子が通過してしまう現象で、これが少ないほど良い)は1/4になるという。

電解質膜にフラーレン(C60)を採用している

このDMFCの適用例として、同社はスピーカを提案していた。これは非常に面白いと思う。筆者はこれまで、様々な展示会で何年も燃料電池の取材をしてきたが、ノートPC用や携帯電話用の製品などは毎回「来年にも…」「2~3年後には…」と言われるばかりで、一向に実用化されてこなかった。燃料カートリッジの販路の問題はあるにせよ、一番の問題は「あまり必要性がない」ためではないかと思う。

燃料電池を搭載したスピーカ。実際に動作していた。燃料の後ろにはLEDも点灯している

燃料電池のセルはここにある。タンク内のメタノールが下から運ばれてきて、ここで発電する

例えばノートPCでは、バッテリ駆動時間が5~6時間以上の製品はザラにある。キャンプ場など、電源がない場所で数日過ごすような場合でもなければ、普通は十分だろう。携帯電話にしても、リチウムイオンの外付けバッテリがある。それに、電源からの充電であれば、感覚的にはタダだが(もちろん実際には電気代はかかる)、燃料電池であれば、カートリッジを買わなければならない。そうまでして使いたいと思うか疑問がある。

それに対し、ソニーの燃料電池スピーカには、「レイアウトフリー」という明確なメリットが存在する。音の信号はワイヤレスで、電源もコードレスにできれば、ホームシアターの設置も簡単だ。「週末にDVDを2~3時間観るような人の場合には燃料は1年間保つ」(説明員)ということなので、手間もかからない。1年に1回で良いようなものであれば、燃料は通販でも何でも問題ないだろう。

こういったニーズの把握のうまさは、いかにもソニーらしいと思う。製品化については「未定」とのことだが、このままで良いから欲しい、という人も多いのではないだろうか。

そのほか、モバイル充電器の試作機や

据え置き型の充電器も展示されていた

コーラで発電

そのほか、実用化はまだ先となるが、同社からは「バイオ電池」の試作機も出展されていた。これは、ブドウ糖から電力を得られるもので、正極・負極ともに、触媒ではなく酵素が使われているのが特徴。2007年8月に初めて発表したときよりも、高出力化・小型化に成功しており、ウォークマンを動作させるデモを行っていた。

バイオ電池の試作機。出力電圧は1つ当たり0.5Vとのこと

ウォークマンを動作させるデモ。セルは3つ直列になっている

ブドウ糖はコストが安く、燃料ではないので安全性も高い。空気極(正極)の構造の改良などによって、単位面積当たりの出力密度は5mW/cm2にまで向上したが、実用化には「最低でも数10mW/cm2は必要。1ケタでは難しい」(説明員)ということで、さらなる出力向上が今後の課題となるようだ。

ブドウ糖なら何でもいいので、コーラで発電するデモも。ただし、ダイエットコーラだと動かないそうなので注意