この作品は命の物語であると同時に、ある一組の夫婦の物語でもある。夫・良介は医者を目指していたが、いまはフリーカメラマン。収入は安定しておらず、そのためか外科医の妻に献身的に尽くしている。
――夫役の椎名桔平さんとのキスシーンやベッドシーンが本当に美しいと思いました
松雪「夫婦の愛情表現のひとつとして、10年連れ添っているけれど恋人同士のようなフレッシュな関係性を表現しようと心がけました。象徴的なシーンになると捉えて演じていましたね。夫婦逆転だったりしますが、2人の中ではとてもいい関係が成立しています。ダンナ様が愛情深いですし、かわいらしい夫婦だなと思っていました」
――夫婦逆転とおっしゃいましたが、妻の経済力をあてにしているようなダンナさんについて、どう思いますか。
松雪「時代を象徴しているのかもしれませんよね。人は経験を通して成長していくもので、この作品では夫婦が成長し、中盤から後半にかけて夫婦のバランスが逆転していきます。どの形がいいかはわからないですし、成長する必要があったからこうなったのかなとも思いますし。私がいいなと思うのは、人生が充実している中で共有していける時間もあること。本当は依存しない関係がいちばんいいなと思います」
この映画のポスターは、彼女が小さい赤ん坊を抱いている写真である。『余命』というショッキングなタイトルに、二人の穏やかな表情。物語を知っている者にとっては残酷な構図だ。しかし、松雪の赤ん坊を見つめる姿は幸せそのもので、普通の母親の笑顔にも見える。
――ひとりで産む決心をする滴に母の強さを感じましたが、松雪さんご自身が母の強さを感じることはありますか。また息子さんにはどんなふうに接していますか。
松雪「母は少々のことじゃ動じないですよね。だいたいのことは大丈夫かな(笑)。
心配しないで信じてあげたほうが、彼(息子)にとって楽なのかなと思っています。たまたま私を選んで生まれてきてくれて、存在してくれているのはありがたいなと思います。もう、生まれた瞬間から個性があるので、それを大事にしてあげたい。
(親子が)共存しているような感覚でいると、彼もがんばって生きなきゃ、と思うみたいで、いっしょにがんばろうねっていう感じなんです。親だからって、いつも元気でがんばっていかなきゃいけないって難しい時もある。そんな時は『ごめん、たいへんなの私』って言ったりします。『どうして』って聞かれて理由を説明すると、『なるほどね。じゃあ、ぼくもがんばるよ』って。おもしろい関係です、うちは」
――最後にこれからこの作品を見る人へメッセージをお願いします
松雪「いろいろな視点から感じられる作品だと思います。ライフスタイルによって感じるポイントも違うと思います。
私はエンドロールを見たときに、彼女にとってこの選択はよかったんだな、と思えたんですよね。物語が終わるとき、彼女に後悔はなかったと思うし、満たされていたと思う。
どう生きてもいいと思うんですよね。女性が、ということに限らず、何もしないで立ち止まったり、後悔するよりは、困難があっても受け止めて、乗り越えて、生き抜くということが大事なのではないかと思います。
この映画を見る方にとっても、生き方を見つめなおすきっかけになるといいなって思います」
『余命』予告編
『余命』は2月7日(土)より東京・新宿バルト9、丸の内TOEI2ほか全国ロードショー。
PROFILE
まつゆき・やすこ
1972年生まれ、佐賀県出身。
1991年に女優デビュー後、ドラマや映画、舞台で活躍。2006年には映画『フラガール』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞などを受賞し、名実ともに日本を代表する女優に。去年は、映画『デトロイト・メタル・シティ』、『容疑者Xの献身』に出演し、ひとつのイメージでは語れない役者として存在感を見せつけた。待機作、ゲキ×シネ「五右衛門ロック」2009年5/16(土)より東京、大阪ほかにて上映決定。映画『笑う警官』は今秋公開予定。
【衣装】
ドレス\51,450、ヒール\40,950/SANEI・INTERNATIONAL (VIVIENNE TAM)、ピアス\9,450、リング\9,450/エク セル(サテリット)、その他スタイリスト私物
(c)2008「余命」製作委員会
インタビュー撮影:石井健