ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館のコレクションが来日

超大作が多数出品される大型展覧会とは異なり、一点一点の作品を美術史の流れとともにじっくりと堪能できる今回の展覧会。互いに影響し合った画家たちの人間関係や戦争のおとした影など、絵画作品から20世紀前半という時代を見つめることができる。

ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館は、20世紀前半にスポットを当てた質の高いコレクションを有しているが、同館の設立は1960年代。ヨーロッパの美術館としては、かなり新しい。設立後、半世紀しか経っていないのに、100点にも及ぶパウル・クレーの作品を所蔵し、「ヨーロッパ屈指」といわれる近代美術のコレクションを持っているのには、ある理由があった。作品を見る前に、まずは美術館の歴史から……。

1879年、スイス生まれのパウル・クレーは、画家として順調な人生を歩み、ドイツで活躍。バウハウスの教授を経て、1930年、デュッセルドルフ美術学校の教授に就任した。しかしそこへ、第二次世界大戦の影が忍び寄る。1933年にはヒトラーが政権を掌握し、前衛画家たちを弾圧。クレーはデュッセルドルフ美術学校を追われ、亡命先のスイスで経済的な困窮や病気に苦しめられ、1940年に60年の生涯に幕を閉じた。

戦争が終わり、平和が訪れた1960年代。デュッセルドルフでは、クレーへの謝罪と失われた文化を取り戻す意味を込めて、ノルトライン=ヴェストファーレン州知事はクレーの作品の購入を開始した。さらに、クレーの作品を補強する意味から、同時代の画家の作品をコレクションに追加させ、州都デュッセルドルフに美術館を開館させた。「その画家の骨格を成す作品しか所蔵しない」という方針のもとで購入されたコレクションは、設立後50年ほどの美術館としては驚異的な素晴らしい質の高さを誇っている。

ピカソ<<鏡の前の女>>など大作も多数出品される

ジョルジュ・ブラック<<果物皿と瓶、マンドリンのある静物>>(左)とピカソ<<ひじかけ椅子に座る女>>(右)

20世紀前半の美術の世界を堪能

今回の展覧会は、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館所蔵作品を4つの章に分けて展示。最初から順を追って鑑賞するうちに、クレーの作品が誕生するまでの歴史を体感することができる。

1章は「20世紀の幕開け」といわれるフォーヴィスムの代表作品からスタートし、鮮やかな色彩で南仏の海を描いたマティスやドランの作品が並ぶ。続いて、ピカソやブラックなど、キュビスムの貴重な作品が並ぶ2章、戦争が暗い影を落とす3章のシュルレアリスムの作品を経て、最終章「カンディンスキーとパウル・クレーの展開」へと続く。

キュビスム(立体派)の貴重な作品が並ぶ第2章

第一次大戦の経験から、兵器を作り出した文明への批判が込められているマックス・エルンスト<<揺らぐ女>>(左)とイヴ・タンギー<<不在の淑女>>(右)

第3章は、シュルレアリスムの大作が並ぶ

特別出品されたカンディンスキーの3作品

4章のクレー作品の展示室の壁のみペパーミントグリーンに塗られ、会場がぱっと華やぐ。 クレーの珠玉の作品群はどれも明るく輝き、亡命先での苦しい日々に描かれたものも、作品からは戦争の不安や苦悩などはみじんも感じられない。幼いころからバイオリンを演奏し、詩を愛したクレーの作品はどれも穏やかでやわらかな色に包まれている。

パウル・クレーの作品は27点も出品される

クレー作品の変遷をたどる展示構成

クレーの水彩作品も展示

ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館のコレクションを世界に先駆けて公開される本展では、クレーのほかに、ピカソ、ミロ、マティス、シャガール、マグリット、エルンスト、マックス・ベックマンやフランツ・マルク、オスカー・シュレンマーなど23作家の作品が出品される。