世界最大級の家電関連製品の見本市「International CES 2009」が幕を閉じた。今年もLas Vegas Convention Centerの広大なフロアをすべて使い、隣に建つLas Vegas Hilton、そして高級ホテルVenetian Las Vegasに併設されたSands Expo Convention Centerまでも利用するという超巨大イベントだ。
しかし、昨年から始まった特に米国を含む世界規模の不況の影響が直撃。出展の取りやめも相次いだほか、とにかく来場者の数が減っていたのが印象的だった。初日、2日目ぐらいまでは人気のブースはピーク時に大変な人だかりだったが、3日目ぐらいからは目に見えて来場者が減り、最終日は各ブースをゆっくり見て回れる状況だった。
世界最大の消費大国であり、家電の購買欲が旺盛だった米国でイベントが盛り上がるのは当然でもあり、昨年までCESは出展社、来場者とも順調に拡大を続けてきた。それだけに今回、世界経済の減速がむしろ際だってしまう形となった。
実際は、まだまだ大きなイベントではある。ただ、新製品が一堂に会し、各社が競うように展示を行うCESにとって「話題づくり」というファクターは重要であるのだが、今年は特に大きな話題に乏しかったように見える。
昨年はHD DVDとBlu-ray Discの次世代DVDの規格競争、1昨年は大画面テレビといったような「分かりやすい」話題性があったせいだろうが、それでも今回のCESでキーワードをあげるとしたら「3D」「UI」「エコ」だろう。
テレビの次のエクスペリエンスは3Dとなるか
3Dは、パナソニック、ソニー、Samsung、LGといったメーカーが出展。基本的には特殊な撮影をした映像を、専用メガネで見ることで3Dの映像を見るというもの。かつてあったような赤と青の色差で見るのではなく、左右の目の視差を利用して映像が3Dに見える。
これまでも「3Dディスプレイ」と呼ばれるものはあったが、携帯電話やカーナビゲーションシステムなどの解像度が低いもの向けのパネルであり、メガネをかけなくても3Dとして見えるというものだった。今回はメガネが必要な代わりに、解像度はフルHDとなり、よりリアルな3D映像を実現した。
実際に見てみると、かなりリアル。奥行き感があり、こちらに迫ってくるような映像では、本当に目の前にあるように見える。
テレビの高画質化では、従来のフルHDの4倍の解像度を持つ4K2Kも注目を集めており、実際にそうした展示も行われていたが、このCESでは「分かりやすさ」という意味で3Dが大きく注目されていたように見える。
さらに、Blu-ray Disc Associationの会見では、今後のBDの拡張として3Dが挙げられており、規格化を待って3Dにコミットしていく方針が明らかにされているほか、パナソニックのカンファレンスではジェームズ・キャメロン監督やパートナーのジョン・ランドー氏も登場し、コンテンツ側からの期待も高そうだ。
いかにテレビを使いやすくするか
UIに関しては、例えば東芝、日立製作所、パナソニックなど、多機能化する家電を操作するために工夫を凝らす例が出てきている。東芝や日立は体、特に手を使ってジェスチャーをすることで操作するという方法を提案。
この方法だと、CESのような展示会では注目されるが、実用性としてはまだ疑問が残る。手を大きく動かさなくてはいけないとか、テレビの前で手を動かすと意図しない操作が行われる、ノイズの問題など、解決すべき課題はあるが、新しい可能性のあるUIだと思う。
また、ノイズを排除しつつ体を少し動かせば操作できるようになってくると、テレビの複雑な操作が容易になるかもしれない。将来的に期待できる技術だ。
機能的に差別化が難しくなっている昨今、携帯電話業界でApple iPhoneが差別化を実現していることを考えれば、こうしたUIの部分で差別化を図ることも重要なポイントだろう。
パナソニックは新しいリモコンの形を提案。テレビが高機能化し、ネット接続もサポートし、HDMI-CECなどで家庭内のさまざまな機器とつながるようになると、リモコンの機能は肥大化する一方。それに対して現行のリモコンの形を考えると、増やせるボタン数は限られているし、ボタン数を増やし続けると操作性が悪くなる。
今回のパナソニックのリモコンでは、ボタンの代わりにタッチパッドを搭載し、状況に応じてソフトウェアキーボードを切り替えることでこうした問題の解決を図った。
この方法だとテレビ画面にリモコンを表示し、それを見ながら操作するため、手元を見る必要がない。部屋が暗くてもリモコンの操作ができるし、デモでは快適なスピードで動作していたため、実用性も高そうだ。
電力消費を減らしてエコに寄与
エコロジーに対する意識の高まりもうけて、家電業界でもさまざまな省電力の取り組みが進められている。
ソニーは"Eco" BRAVIA「VE5シリーズ」は、HCFL(熱陰極管)をバックライトに使うことで約40%の電力低減を実現。スタンバイ時の電力を0ワットにし、人がいなくなるとテレビの電源をオフにする「Presence sensor」、バックライトをダイナミックにコントロールする「Light sensor」を備えることで、全体として電力消費を減らした。
今夏にも発売することが決まっており、52V/46V/40Vの3製品がラインナップされている。
同じくEcoという名称を使っているのがパナソニックの「Neo PDP Eco」。これはPDPの放電効率を従来比3倍に高め、電力ロスを3分の1に削減する省電力駆動方式を採用。つまり、同じ明るさなら電力は3分の1ですむ。同様に電力消費量が半減した「New LCD Eco」の技術も明らかにされている。
日立製作所も、電力消費を半減した液晶テレビを開発中。発光量を減らし、その代わりに信号をアップさせることで見た目の明るさを維持する方式だということで、トータルで電力消費を減らせる。
こうしたポイントに加え、WirelessHDなどによるワイヤレスのホームネットワークの可能性や、テレビウィジェットによるネットワーク機能の強化など、見るべきポイントはいくつかあった。
不況にあえぐ家電業界にあっても、テレビにおける今後の一定の流れは見えてきた。単なる機能の進化だけでなく、より使いやすく、よりエコに。今後の製品化に期待していきたい。