課長歴2年、もっと早くこの本に出会えていればもう少し…(以下略)

私自身、課長になって2年が経とうとしているが、本書『はじめての課長の教科書』とは10年前に出会っていたかったと思う。もっとも、10年前と今とでは自分自身の問題意識が違うので、今現在、課長である私にビシビシと共感する部分が多く感じられたのかもしれないが。

課長には2つの側面がある。ひとつは、組織の上のほうから下りてくる予算や規則を現場で徹底する末端管理職のマネージャとしての役割である。もうひとつは、簡単には言うことを聞かない部下たちをなだめながら、日々の業務を遂行する現場のリーダーとしての役割である。これらを両立するのは並大抵なことではなく、それゆえ一般に持たれている課長のイメージとは、部長と部下の間に立って苦労する哀しき中間管理職ということになっている。欧米では中間管理職といえば余分なレイヤーであり、企業内のIT化により削減されているという。あぁ、課長って哀しいなぁ。

ところがどっこい、哀しき中間管理職という欧米のマネジメント理論は日本にはそのまま当てはまらないのだ。一橋大学名誉教授である野中郁次郎先生によると、日本企業のイノベーションの源泉は課長などの中間管理職にこそあるという。トップダウンでもボトムアップでもない、「ミドル・アップダウン」という野中郁次郎先生の生み出したコンセプトは、課長(ミドル)こそが、経営層と一般社員のちょうど中間に位置するからこそ、社長の戦略をかみ砕いて現場に伝える(ダウン)と同時に、現場のナマの情報を適切に上に上げる(アップ)ことにより、大きな付加価値を創出できるという考えであり、著名な日本企業ですでに実証済みなのだ。

『はじめての課長の教科書』の第1章に上記のようなことが書かれてあるのだが、ここまで読んで企業における課長の重要性というものを初めて知った気がした。「おまえは2年間課長として何をしてきたのか!」と問われると、まさに課長失格である。生まれてすみません、である。ところで今日、まさに"運命"というものを感じたのだが、偶然にも私の勤務する会社に野中郁次郎先生がいらっしゃり、知識創造組織についての講演に参加する機会があったのだ。もちろん私は知識創造組織における課長の役割について質問をした。野中先生の回答は「課長とは上下(部長と部下)に働きかけ、何かを生み出していくプロジェクトマネ-ジャであり、チャレンジングな役職である」という予想通りのものであった。私はこの言葉を胸に抱きながら今後の課長職をまい進していく所存である(ホントか?)。

あり得ないトラブルがぞくそくと…それでも闘え、カチョー!!

本書の第2章は課長の持つべき8つのスキルについて。中でも「部下を守り安心させる」という、スキルというか課長の立ち位置は重要であろう。上司とは、いざというときに部下を守るか守らないかの2種類に分かれるかもしれない。あなたはどちらだろうか。ほかには部下のほめ方や、叱り方、コーチングについて書かれてあり、それぞれ部下を持つすべての人の参考になるだろう。部下のストレスレベルの適度な管理がイノベーションにつながるという箇所も課長必見である。部下からするとたまらないだろうが。

第2章が部下をまとめるリーダーとしてのスキルだとすれば、第3章は末端管理職としてのマネージャとして、決して目をそらすことのできない、予算管理、人事評価、社内政治という課長ならではのダークな領域への対処法である。これらについては青臭い正論ではなく、割り切ってゲーム感覚で乗り切れと書かれており、合理的といってよい本書の特徴的な章となっている。

第4章は「あなたならどうする? 9つのケーススタディで学ぶ課長の危機」といった感じで、突発的な問題に襲われた際に課長の取るべき行動について学ぶことができる。問題社員が現れたり、部下が会社を辞めたいと言い出したり、心の病になったり、いろいろである。ベテラン係長が言うことをきかなくなるというケースにいたっては、課長って大変だなあ……とひとごとのように思う次第である。

私自身、日々の業務に忙殺されて忘れがちになるのだが、課長にとって自らの今後のキャリアをどのように作っていくかは気になるところ。ということで第5章は課長のキャリア戦略のお話。部長を目指すか、課長に留まるか、運命の分かれ道!である。どちらも茨の道のようだが、いずれにしても課長といえども日々の自己鍛錬を欠かしてはいけない。人的ネットワークを作り、ビジネス書、しかも良書を読んでいかなければならない。今日の野中郁次郎先生のお話では経営学者のピーター・ドラッカーはテレビを見ず、マネジメントのハウツー本も読まなかったそうである。かわりに文学や美術の本を読んでいたそうだ。文学などビジネスに何の役にも立たなさそうだが、教養というものは知識創造にとって必須であるとのことなので、ビジネス書もほどほどにしておきたい。

とはいうものの、なりたての課長や、そろそろ課長かなと思っている人は、ぜひこの『はじめての課長の教科書』を読んでほしい。私もさまざまな課長研修を会社で受けてきたが、この本ほど心に染み入るものはなかった。お勧めである。2月24日までにアマゾンで購入すると著者からプレゼントがあるので、キャンペーンサイトを覗いてほしい。

『はじめての課長の教科書』

酒井穣 著
ディスカヴァー・トゥエンティワン発行
2008年2月15日発売
四六判 / 232ページ
ISBN 978-4-88759-614-6
定価1,575円(本体1,500円)