欧州委員会(EC)が2004年に下した「Microsoftは独占的立場を利用している」という判定について調査していた欧州第1審裁判所(CFI)は17日、ECの判定を全面的に支持する判決を下した。ECの判定を不服として控訴していた米Microsoftにとっては、敗訴という結果になった。足掛け9年続いているEU対Microsoftはこれで終わるのだろうか? この判決は何を意味するのだろうか?
はじまりはSunの不服申し立てから
2004年3月にECは、"MicrosoftはデスクトップPC OS市場での独占的地位を乱用して競争を阻害している"とし、EU競争法違反との判定を下した。これはもともと、1998年に米Sun Microsystemsが「MicrosoftはWindowsと互換性のあるサーバーを作成するための情報を提示していない」として、ECに不服を申し立てたことからはじまったものだ。その後、米RealPlayerらが加わり、主な焦点はサーバーとメディアプレイヤーの2つとなった。
2004年の判定で、ECはMicrosoftに対し、(1)サーバー互換性のためのインタフェース情報公開、(2)「Windows Media Player」をバンドルしていないWindows OSの提供、(3)4億9720万ユーロの罰金支払いの3つを求めた。Microsoftはこれを不服としたが、同年12月に訴えは破棄され、同社はその後控訴の申し立てを行った。
今回、CFIは、MicrosoftはPC OS市場での独占的立場を利用して競争を阻害しているとして、ECの判定を全面的に支持する判定を下した。CFIが却下したのは、ECが提案していた監査委員会についてのみ。Microsoftは同日付けでプレスリリースを発表、ここで同社副社長兼法律顧問のBrad Smith氏はCFIの判決に対し、「欧州の法に遵守することは大切」「この判決文をよく検討し、遵守のために必要な追加的ステップがあればそれを実行する」とコメントしている。だが、最高裁にあたるEuropean Court of Justiceに控訴するかどうかについては、態度を明確にしていない。
9年間でこじれたMicrosoftとEC
この9年の間、MicrosoftとECの関係はこじれている。両者の対立は2004年3月と今回の控訴だけではない。2004年3月に下された是正措置についても双方の見解は食い違い、Microsoftは追加の制裁金を課されているのだ。
Microsoftは罰金以外の2つの是正措置について、(2)ではWindows Media Playerを搭載していない「Windows XP N」を欧州市場で発売する形で遵守した。だが、(1)については、Windows Serverのソースコードを一部公開したもののEC側はこれを不十分とし、2005年10月に是正命令への履行状態を監視する委員会を結成、英国のコンピュータ科学者であるNeil Barrett氏をアドバイザーとして任命した。同年11月、Barrett氏らはMicrosoftが提供した情報は「根本的に欠陥がある」というレポートを発表、ECは再度Microsoftに対し、命令に履行するよう警告した。そして、2006年6月、ECは追加の制裁金として、2億8050万ユーロの支払いを命じた。
今回CFIは、相互運用性のためのインタフェース公開について、「ECはMicrosoftにWindows OSのソースコードを公開するよう命じているのではない」としている。ライバル各社がWindowsと通信するためのレベルが十分ではないことが問題なのであって、"ECが要求している(情報開示)レベルは、あらゆる点でWindowsシステムと同じように動くワークサーバーを他社が作成できるレベルだ"とするMicrosoftの主張を破棄する、と続けている。そして、Windowsドメインアーキテクチャと相互運用できるための情報が欠如していることが市場におけるMicrosoftの競争優位性を増強し、競争が阻害されるリスクを生んでいるというECの見解は正当である、とまとめている。
一方でMicrosoftもこの間に堀を固めている。最初に自社を訴えたSunとは、2004年に歴史的和解にこぎつけているし、オープンソースでは、2006年11月に米Novellと提携し、相互運用性に向けた取り組みを進めている。
米国と欧州の商慣習の違いととらえる向きも
対EUという問題を抱えている米国企業はMicrosoftだけではない。米IntelもECより、x86 CPU市場において競争法違反が見られるとの異議声明を受けている。これらについて、単なる規制当局対企業ではなく、米国対欧州の商慣習の違いとしてとらえる向きもある。たとえば、Microsoft敗訴を報じた米Bloombergは、競争法弁護士でBritish Institute of International and Comparative Lawの研究者であるPhilip Marsden氏の「判決は、米国と欧州の溝を示すものである」というコメントを引用している。
欧州は、競争奨励よりも保護の観点の方が強いといわれている。EUが、コンピュータ業界独自の商慣習により米国企業が独占状態を築き、欧州企業が排除されていると感じているとすれば、今回の判決はMicrosoftに限定されるものではないだろう。米Google、米Appleなど、Microsoftのライバル各社もそれぞれの分野で同じような問題に直面する可能性がある。