こんにちは、産業医の武神と申します。私は主に外資系企業で毎年年間1,000人を超える働く人と、心と身体の健康相談をしています。

私たちはこの1年間、新型コロナ感染症の影響を受けてきましたが、コロナ禍のこの状況はまだまだ続きそうです。そこで今回は、テレワークで部下のメンタル不調を回避するための3つお願いをさせていただきたいと思います。

「平時よりも部下の不調に気づきにくい」ということを知る

まず1つめのお願いは、テレワークは従来の出社に比べ、部下のメンタル不調に気がつきにくいということを、知るということです。

人は、環境に適応しきれない時や自分が許容できる以上のストレスを感じ、その状態が続くと、「心」「身体」「行動」に反応する症状が現れてきます。

心の症状は、気分が沈む、イライラする、日々が楽しくないなどが代表的ですが、いずれも他人からは見えません。普段から部下を注意してみ(観)ている上司は、部下の表情(元気がない、笑顔がないなど)や周囲との関わり合い(挨拶や雑談など)で、部下の"いつもと違う、ちょっと変だな"に気がつきます。

しかし、テレワーク環境では、たとえZoomなどの顔が見えるコミュニケーションがあったとしても、それは就業時間のごく一部で、まして部下が他の同僚とどのように関わっているのかは、なかなか見えず、気がつくことができません。

身体の症状も同様です。テレワーク環境ではみ(観)ることができないが故に、「最近眠れていますか?」「頭痛や目眩はないですか?」と聞きたくても、プライベートすぎてなかなか上司では聞くことができません。

仮に、ひどい腰痛や肩こりの訴えがあったとしても、原因は不安とストレスではなく、単に在宅勤務の椅子や机に起因するものかもしれません。

行動の症状は、一部気がつくきっかけにすることができます。毎日の成果や結果が出てきているか、きちんとした時間に仕事を始め終了しているか、報告連絡相談は以前と同じようにできているかなど、部下のメンタル不調に気がつくためには、普段以上にアンテナを高くする必要があります。

もし、何か引っかかるものがあれば、ぜひ部下に、「テレワークだといろいろ勝手が違って戸惑うよね」「何かお困りのことはありますか?」「いつもと違うけど、どうしたの?」など、まずは気がついている、心配しているということを理解してもらえるように声をかけてあげましょう。

決して、「メンタルかもしれないから、お医者さんに行けば?」などとは言わないでください。上司や人事部だけでなく、同僚から「医者に行け」と言われるのは、多くの場合、本人にとっては非常にイヤなことだからです。あくまでも、見た目の変化を指摘する程度に「ちょっと心配なんだけど……」と聞いてみるのが無難です。あるいは産業医やカウンセラーのいる会社であれば、「ちょっと相談に行ってみたら?」と声をかけるのもよいかもしれません。 

部下が在宅勤務をどう捉えているか知る

2つめのお願いは、あなたの部下は在宅勤務をどう捉えているかということを知ってほしいと言うことです。

私は昨年1,250件の産業医面談を行いましたが、その8割は在宅勤務などのリモートワーカーでした。そしてわかったのは、通勤がなくなり喜ぶ人、家での居場所(在宅勤務場所)がなく、肩身が狭い気分になる人、子供と過ごす時間が増えたことを喜ぶ人、そのためにストレスが増えたと嘆く人、在宅勤務の捉え方や、そこに感じるメリットデメリットは十人十色と言うことでした。

私たちの多くにとって、この1年でwithマスクの生活は当たり前になりました。が、在宅勤務以外でも、出社要請、Go Toや自粛などの新しい生活を前向きに捉えることができる人も、自分の意にならないことによりストレスを溜めてしまっている人もいました。その背景には、個人個人の性格的特性だけでなく、同居する家族構成、住まいの広さ、職場からの距離、自分や同居人の持病など、様々な要因がありました。そして、それぞれの持つ背景要因はその人にとってはいずれも「正義(真っ当な理由)」であり、他人がどうこう言えるものではありませんでした。

在宅勤務をネガティブに感じている部下に、「僕もそうだよ」と同情したり、「しょうがないだろ」と正論をかざしたりしても、部下は必ずしもそれに同意するとは限りません。「あなた(上司)よりも私の方が在宅が辛いんです」、「管理職が無能だから上層部に掛け合えないんだろ」など思われてしまっては、お互いの関係性が悪化するだけです。そんな時はぜひ、一言、「このような中、頑張ってくれていて、ありがとう」とまずはねぎらってあげてください。その一言で、気持ちが救われる人はたくさんいます。

そして、上司ご自身に余裕があれば、「何がつらい?」と聞いてあげてください。その際は、自分は喋らず、相手の言葉をしっかりと聞くことに徹してください。人は話せば9割は楽になります。アドバイスよりも、黙って相手のつらさを理解するよう努めて聞いてあげてください。上司が何もアドバイスしなくても、きくだけで、部下は楽になります。

部下によって接したり声かけしたりする頻度を変える

3つめのお願いは、部下によって、接する頻度や声かけ頻度を変えましょう、ということです。もちろん、業務上のやりとりは、必要に応じてやっていただいて構いません。

しかし、職場で顔を見ることができない以上、必ずしも業務に直接関わらない場を設け、部下の顔色や声の加減に意識を向けてみてください。そこから部下の調子を察することはできるはずです。

在宅勤務での社内コミュニケーションは、従来の電話の他に様々なITアプリが使われています。大きく分ければ、

  1. 顔を見ることができるもの
  2. 音声のみ
  3. テキストチャットのみ

の3分類でしょう。どの方法が好きかは別にして、やはり1>2>3の順番でコミュニケーション上、相手のことをよりわかるということは誰もが気がついていると思います。もし、部下たちとのコミュニケーションを大切にしたいのであれば、上司から顔出しは必要かと思います。

定期的な部下との1対1での面談で、在宅勤務にどう思っているのか、通勤に当てていた時間はどう過ごしているのか、家族(同居人)や家事で忙しくないか、趣味は続けられているかなど、毎回少し話題をふってみてはいかがでしょうか。

チーム全体での情報交換ミーティングなどでは、部下同士が話す場面をよく見れば、普段上司には見せない一面が見えることもあります。

私の経験上、一人暮らしの人は、ちょっとした雑談相手や、業務開始時と終了時にチームの人々の声を聞いたり少し話したりすることでほっとすることが多いようでした。一方、家族も在宅で家事が増えてしまっている人は、そのような時間はむしろストレスと感じてしまうようでした。

部下それぞれが、どの程度のコミュニケーションを望んでいるのか、ぜひ、意識していただけるといいと思います。

以上、テレワークで部下のメンタル不調を回避するために、上司は何ができるかと言うお話をさせていただきました。1つでもお役に立てば幸いです。