2,000人いる事務所のナンバー2である常務が、現場まで来てくださったことが何度もありました。あるときは、緊張いっぱいで冷や汗をかきながら原稿を読んでいる私に向かって、一生懸命カメラの脇から両手を振ってジェスチャーをしてくれたりしましたが、私からすれば「ん? なに?」ってな感じ。緊張でそれどころではありません。あまりのNGに、「はい、カット。一回きりま~す」の声で常務が飛んでくる。

常務「由美、ちゃんと原稿は読まないといけないけど、足もちゃんと閉じて!」
そうなんです。原稿を読むテーブルの下は、カメラから丸見えになっているのですが、あまりの緊張に他のところまで気が回らず、スカートをはいて股全開&足丸出し(笑)。本人はもちろん笑える余裕などまったくなく、事務所の人も毎回冷や汗をかいていたと思います。第1回目の放送では、有名メイクさんがメイクをしてくださったのですが、スチールやCMばかりのメイクさん(大物はそういう方も多いみたいです)だったらしく、大幅に時間を使ってしまいました。

結局、ヘアーを完成するまでに間に合わなくなり、ひとつしばりの変な髪型で登場の私。そのときすでに高橋幸宏さんがスタジオ入りしていましたが、なぜか殺伐とした空気が漂っていたのです。しばらくたったある日、常務から
「由美、売れたら好きな洋服着れるから、今は与えられた衣装をちゃんと着なさいね」と言われました。
私「??? はい。もちろんです。今もちゃんと着ていますけど、なんでですか?」
確かに当時の私の私服はセントージェームス(しましまのカットソー)にジーンズという出で立ちでしたが、『音楽ニュースHO』はニュース番組形式だったので、スーツや大人っぽい衣装でした。でも、なんでそんなことを聞くのかなと不思議に思ったんです。

常務「あれ、由美、スタイリストさんとかに何か言わなかったか?」
私「いいえ、股全開にするぐらい余裕がないのに、衣装まで気が回るはずがありませんよぉ」

よく聞いてみれば、ゲストを待たせてしまったのは、私がこの衣装、気に入らないとわがままを言って時間が遅れたことになっていたようで、事務所の方は注意されていたらしいのです。ホント「えぇ~!?」ですよ(笑)。ただでさえも原稿も読めず、おしゃべりもへなちょこな私は、せめてスタジオ入りの時間だけは早く行こうと決めていて、いつも予定時間よりも前に現場に入っていたのに……。

そんなこんなで、プチ事件はしょっちゅうありました。あるときは一緒に来てくださった敏腕マネージャー(現場に来ることは滅多にない)が、この番組では毎回同行してくださいました。その方に、覚えのないことで怒られたときがあり、泣きそうになる私を高井アナウンサーがかばってくれる、なんていうこともありました。なんで怒られたんだろうと思っていたら、帰り道で敏腕マネージャーが
「なんで怒ったかわかる? わざとだよ、原稿も読めない、しゃべりもいまいち。高井さんやみんなが、あの子はダメだよねって思われる前に、マネージャーが悪人になって逆に高井さんたちにかばってもらったんだよ」
と話してくれました。う~ん、納得。

こんな感じで、2クール(半年)番組の司会を務めさせていただきました。今思うとありえないぐらいしゃべれなかった私。みんなに申し訳ない気持ちで半年間、きっと呆れて怒ってたりするだろうなぁ……なんて内心思いつつお仕事へ通っていました。番組の収録後はいつも「おつかれさまでしたぁ~!」の掛け声で終わるんですが、最後の収録のときは「おつかれさまでしたぁ~!」と私が言った途端に、またカメラが回りだして何十人といるスタッフの方が、お花と一緒にメッセージをくださったんです。

「この人は照明さんの□□さん。由美ちゃんの顔が少しでもキレイに撮れるようにしてくれた人だよ」
と、ひとりずつあらためて紹介してくださいました。
今まで半年間も、ほとんど泣き顔で番組収録していたにも関わらず、絶対にみんなの前では泣かない! と決めていたのに、この日ばかりは顔がぐちゃぐちゃで原型をとどめないぐらい泣きました(もしかしたら、お仕事で泣きじゃくったのは、この日が最初で最後かも)。テレビで放送するわけでもないのに、最後の日は終わった後もそんな模様をカメラで追いかけて収録してくれたりしました。あの映像どこかにあるのかなぁ?(笑)。

つい最近、『音楽ニュースHO』の台本を発見! 貴重で懐かしい宝物を見つけて、ちょっぴり感動です

こうして身を持ってひとつひとつ勉強していきました。ちなみにこの後も、しばらく『音楽ニュースHO』は続いたのです。私の後任となる高井アナウンサーのお相手は、テレ朝の女子アナウンサー。やっぱりアナウンサーがよかったんでしょ~(笑)。

いいえ。

そのあとに同番組がもっと深夜枠に移動したあとの司会は、な、なぁ~んと! 今をときめく藤原紀香さん!! 当時の風の噂だと、「最初の松澤由美はどこへ行っちゃったの?」。そう言われてたとか? どこへも行ってませぇ~ん(笑)。でも最後の収録後に言いました。
「今度は歌手で戻ってきまぁす!」
でも、番組放送の間には歌手として戻れなかったぁ(涙)。いつか売れて、テレ朝に行きますね。

そして次なるオーディションは、TBSの西武ライオンズの応援番組『レッゴーライオンズ』のレポーターオーディション。はっきり言って野球、全然詳しくありませんでした(笑)。それでも書類選考の100人に残れたので、さっそくTBSへ。オーディションを待ちながら、隣の部屋ではひとりひとりカメラテストみたいなことをしているようで、なにかをアドリブでやらされてる? 壁の向こうでいろいろなやりとりが聴こえました。

(どうしよう、全然野球わかんないよぉ)……心の中で叫びました。でも、ここまで来たらやるしかない! 野球の話をしなければいいんだわ!(いや、よくないと思いますけど)。そう思い、いざオーディションに臨みました。
「では、西武ライオンズの野球選手がそばにいる設定で、取材、質問などを適当にやってください」
よし、テキトーにやればいいんだな!(素直すぎ)ということで、野球とまったく関係ない質問(内容は忘れました)を選手に話しかける私。これまたテキトーに「そんな感じで意外な一面が見れた□□選手でしたぁ~!」と勝手にしめてみたり。

とにかく野球のことを知らないわけだし、ここは素直に笑顔で! 私が唯一持ってたのはその笑顔と勢いだけだったと思います。けれど、その素直さがよかったのか(?)オーディションの結果は、合格したのが男子1人と私を含めた女子2人。この3人で『レッゴーライオンズ』を放送していくことに。

んー、なんで受かったんだろう? 綱渡りのように危うい感じでお仕事している私ですが、ここでも珍道中ぶりを発揮しました。そのエピソードは次週、明かしていきたいと思います。