YouTuberというと動画を制作し、広告収入で生活している職業というイメージが強い。しかし、実際には専業YouTuberで生活できるほど稼げている人は一握りであり、多くのYouTuberは本業を持ちながら副業で活動している。
また、そもそも稼ぐためにYouTubeをやっているわけではなく、趣味として動画を投稿しているうちにある程度の収入が入るようになったという人もいる。専業YouTuberになる自信はないけれど、副業としてなら挑戦してみたい――と考えている人も多いのではないだろうか。
今回、まさにそんな副業YouTuberの一人である「ゆきお」さんに取材をさせていただいた。
ゆきおさんはソムリエの有資格者であり、主にワインを紹介する「ワインYouTuber」として活躍。ユーモラスなキャラクターと優しい語り口が幅広い層から支持されている。
副業としてYouTubeを続けるポイントや、YouTubeから広がっていった仕事、本業との関係など様々な話を聞くことができた。
聞き手:ワイン好きライター 山田井ユウキ
■たまたま撮った動画をノリで投稿したのが始まり
山田井 :ゆきおさんは現在、「ワインYouTuber」としてご活躍です。私もワインが大好きなのですが、ゆきおさんの動画を見ていると、紹介されているワインを飲みたくてうずうずしてきます。
ゆきお :ありがとうございます(笑)。まさにそう思ってもらいたくて動画を投稿しています!
山田井 :さっそくお話を伺っていきたいのですが、まずは本記事でゆきおさんのことを初めて知った方のために自己紹介をお願いします。
ゆきお :2年半ほど前にYouTubeを始めて、主にワインを紹介する「ゆきおとワイン」を週に数回投稿しています。それ以外に料理やiHerb(サプリメントや食品、雑貨などを扱うECサイト)で買ったものの紹介動画や旅行のVLOGを投稿することもあります。
山田井 :今回の取材テーマは「仕事」です。ゆきおさんにお声がけさせていただいたのは、ゆきおさんが実践されている"副業YouTuber"というスタイルについてお聞きしたいと思ったからです。そもそも、ゆきおさんはなぜYouTubeへの投稿を始めたのでしょうか。
ゆきお :もともとYouTubeは好きで、妻と食事をしながらよく見ていたんです。あるとき、お菓子作りをする様子をYouTubeっぽい感じで撮ってみたのですが、編集してみたら想像以上にYouTubeらしい動画が出来上がりました。ノリで投稿してみたのが最初です。それで気を良くして料理動画の投稿を続けているうちに登録者が増えてきたので、じゃあもっと好きなことを発信したいなと思ってワインの動画を作るようになりました。
山田井 :「副業するぞ!」という感じで始めたわけではなかったのですね。
ゆきお :ぜんぜんそんな感じじゃなくて、本当にふわっと始めただけですね(笑)。
■動画制作は夫婦で二人三脚、作りたいのは「流し見できるゆるい動画」
山田井 :動画制作のやり方ついても教えてください。どんな流れでどれくらい時間をかけて制作されているのでしょうか。
ゆきお :ものによって労力や時間は変わりますが、料理動画なんかは撮影も編集もけっこう時間がかかりますね。だから、そんなに頻繁には投稿できていないんです。
一方でワインの紹介動画はたくさん数を出したいこともあって、それほど手をかけなくてもいいようにフォーマットを決めて制作しています。撮影自体は30分くらいで、休日にまとめて撮影します。編集は2~3時間くらい。ダラっと流し見できるようなゆるい動画にしたいので、あえて凝った編集はしていないですね。歳も歳なので、まったりいこうかと(笑)。
山田井 :編集はご自身で?
ゆきお :僕がやることもあるし、妻が編集することもあります。サムネイルはほとんど妻が作ってくれています。こういうのを作るのが好きみたいで。
山田井 :YouTubeには夫婦チャンネルもたくさんありますが、奥さんは動画には出演されないのですか?
ゆきお :妻は絶対に出演したくないタイプなんです。姿も声も出したくないらしくて……。僕は昔バンドをやっていたこともあって、人前に出るのは好きなタイプ。正反対だからこそうまく噛み合っているのかもしれません。
■再生数が伸びたときは「こんなに(お金が)もらえるの!?」と驚いた
山田井 :動画制作のこだわりを教えていただけますか。
ゆきお :力を入れすぎず、自然体でいることでしょうか。ウケを狙って無理をすると、どこかで辛くなってやめてしまうと思うんです。自分自身が楽しんで、長く続けることを意識しています。
山田井 :現在のYouTubeは稼ぐことを目的として戦略的に始める人も多いのですが、その場合、稼げないと挫折してしまうこともあります。ゆきおさんのようにゆるく始めて、結果として収入にもつながるというのが、副業YouTuberのひとつの理想かもしれませんね。
ゆきお :そう言っていただけると嬉しいです。でも、正直なところ、YouTubeでそんなに稼いでいるわけではないですよ。特にワインの動画はそれほど再生数も伸びないし、収入にはあまりつながりません。収益につながるのは料理動画、それもオートミール系の動画ですね。最初に再生数が伸びたときは「こんなに(お金が)もらえるの!?」と妻と一緒にびっくりしました。「これなら毎日2人でビッグマックが食べられるね!」って(笑)。
山田井 :たしかにワインは興味のある人も限定されますし、再生数を伸ばすのは大変そうですね。
ゆきお :でもワイン動画はそれでいいと思っています。ワインの楽しさを少しでも広めたいと思い、好きで配信をしているので、再生数には関係なくこれからも続けていきたいです。
山田井 :オートミール系の方が伸びるなら、そっちをやっていこうと思ってしまいそうです。
ゆきお :それをやってしまうと、僕の場合はたぶん途中で嫌になってやめてしまうと思います。料理動画も出していきたいけれど、それは再生が伸びるからじゃなくて、自分がやりたいからやるというスタンスでありたいですね。
■9月に転職、ワインの夢を追いかけて新天地は「酒屋」
山田井 :YouTubeではそこまで稼げていないということですが、YouTubeがきっかけで企業からお仕事の依頼が来るようになっていますよね。
ゆきお :そうですね。ワインの動画を見てくださった企業からご依頼をいただくこともあります。本当に嬉しいです。
▼ゆきおさんの企業依頼案件
・ソムリエ4人がオンラインで「コノスル飲み会」やってみた!
・ピノ・ノワール4種飲み比べ!〜コノスル・オンライン飲み会Part 2〜
「UNITED ARROWS LTD.WINE CLUB」(UAワイン部)部長×人気ワイン系YouTuberのゆきおさんが「PIZZA-LA」でオンラインワイン飲み会!
山田井 :そもそもなのですが、ゆきおさんはお仕事的に副業OKなのですか?
ゆきお :えーっと……実はですね、今年の9月に転職しまして、今は酒屋なんですよ。二子玉川の「New Valley(ニューヴァレー)」で働いています。
山田井 :えっ、そうなんですか!
ゆきお :それで今はお店公認のYouTuberとして活動することになりました。名刺にもYouTubeのQRコードを入れているんです。
山田井 :たしかにお店にとってもシナジーがありそうですね! これからはYouTubeでもお店のワインを紹介していくことになるのでしょうか。
ゆきお :いえ、そういうわけではないです。お店のワインばかり紹介すると単なるビジネスアカウントになってしまいます。あくまでもYouTuberは個人の活動で、これまでと同じようにお店とは切り離したスタンスで続けていきます。ただ、お店のワインを絶対に紹介しないわけではないですよ。
お店で販売しているワインはどれもすばらしいもので、僕も大好きです。これは絶対おすすめしたい! というワインについては動画で紹介することもあると思います。
逆にお店の方が僕の活動を応援してくれているのもありがたいです。実は、お店のネットショップで「YUKIOのワインセット」を販売させてもらっているんです。これはYouTuberのゆきおとして全力で選んだワインセットです。いつかやってみたいと思っていたことなので、実現したのは本当に嬉しいですね。
■無限の多様性こそがワインの魅力、"凄み"を感じる基準は5,000円
山田井 :趣味として始めたYouTubeが大きくなり、ゆるやかに仕事へとつながっていく――。副業YouTuberを目指す人にとって、非常に参考になるお話だったと思います。最後に動画の話ではないですが、せっかくなのでゆきおさんのおすすめのワインを教えていただけますか。
ゆきお :そうですね……初心者の方なら、やっぱり最初はコノスル(※)をおすすめしたいですね。低価格なのに信じられないくらいクオリティの高いワインですし、品種もそろっているので飲み比べて自分の好みを知るのにもぴったりです。
※コノスル…自転車のラベルでおなじみのチリワイン。数百円から購入できて非常にハイクオリティ。豊富な品種ラインナップも魅力。
山田井 :ゆきおさんは動画でもコノスルをべた褒めされていましたね。ではもうひとつ。ワインの値段はピンきりですが、「この値段を出せば、ワインの真髄に触れられる」という価格帯はいくらくらいでしょうか? 私自身がそうでしたが、「いきなりゴールが知りたい」という人もいると思います。せっかくなので今回、ゆきおさんのお考えを聞いてみたいです。
ゆきお :突っ込んできますね(笑)。そうですね、それなら5,000円がひとつの基準になると思います。もちろん、もっと安くても満足できるワインはたくさんありますし、生産地域によっても価格の感覚は変わるので、あくまでもひとつの基準にすぎませんが、でも5,000円出すと、ただおいしいだけではない"凄み"のようなものを感じられると思います。
山田井 :その"凄み"とは具体的にはどういうものでしょうか。
ゆきお :ワインが持つ世界観です。ワインの最大の魅力は多様性だと僕は思っています。そのワインがつくられた地域や、つくった人、品種、つくり方などの組み合わせでワインのスタイルは無限に広がっています。純粋にぶどうからつくられるお酒だからこそ、その土地の風土がワインに閉じ込められているんです。
ワインを飲むとその土地の風景が思い浮かぶし、旅先で飲んだワインの香りは記憶と結びついて、同じワインを飲めばいつでも思い出せます。そんなお酒はワインだけですし、それが一番の魅力です。
山田井 :まったく同意見です。ワイン系のYouTuberの方はまだまだ少ないですが、今後さらに盛り上がっていってほしいですね。ワインYouTuberを引っ張っていく一人として、ゆきおさんの今後の活動も楽しみにしています。
趣味として始めたYouTubeチャンネルがいつのまにか大きく育ち、思ってもみなかった出会いや仕事につながっていく。それがYouTubeの魅力であり、面白さのひとつだといえるだろう。その境地までたどり着くには、やはり「続ける」ことが何よりも大切だ。
そうはいっても、本業のかたわらYouTuberを続けるのは決して楽なことではない。副業としてのYouTubeを考えている方は、ゆきおさんのスタンスや考え方を参考にしてみてはいかがだろうか。