18日夜、『踊る大捜査線』プロジェクトが今秋に再始動し、新作映画の公開が明らかになった。その内容は柳葉敏郎が演じる室井慎次がメインの物語で、プロデュース・亀山千広、脚本・君塚良一、演出・本広克行とおなじみのスタッフが集結。すぐに「踊る大捜査線」というフレーズがX(Twitter)のトレンド入りするなど、ネット上は盛り上がりを見せている。

同作は1997年に放送された織田裕二主演の連ドラからスタートし、98年、03年、10年、12年に映画が公開。その他にもスペシャルドラマやスピンオフ映画なども含め、数多くのシリーズ作が制作されたが、それでも12年ぶりの再始動はコンテンツとしての相当な質と影響力がなければ成立しないだろう。

あらためて『踊る大捜査線』は何が支持され、どんな影響力を持つ作品なのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • (左から)深津絵里、織田裕二、柳葉敏郎

    (左から)深津絵里、織田裕二、柳葉敏郎

“昭和の刑事ドラマ”の印象を一掃

97年に放送された連ドラは世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区、以下同)10%台後半に留まり、当時の基準としては「ヒット作」とは言えないレベルだった。しかし、最終話に初の20%台を記録するなど尻上がりのフィニッシュだったほか、業界内で「面白い」という評価を得たことなどが映画製作につながり、その後のシリーズ化につながっていく。

では、なぜ序盤から中盤まで盛り上がりが今一歩だったのか? その理由は「これまでの刑事ドラマとは一線を画す作品だった」から。『踊る大捜査線』は、『太陽にほえろ!』(日本テレビ)、『西部警察』(テレビ朝日)、『あぶない刑事』(日テレ)などの昭和から続いてきた刑事ドラマの象徴的なシーンをことごとくカットした異色の作品だった。

主にカットされたものは、刑事と犯人が銃を撃ち合う銃撃戦、逃げる犯人を刑事が追うカーチェイス、刑事ごとにつけられたあだ名、「犯人=ホシ」などの定番用語。いわゆる“刑事ドラマっぽいもの”をカットした代わりに警察のリアルな実態を描き、特にそこで働く人々の人間模様にフォーカスした。だからこそ序盤では「思っていた刑事ドラマとは違う」と戸惑う視聴者がいるなど、いきなり人気に火が点かなかったのだろう。

同作が支持を得た最初のポイントは、等身大で人間味あふれる登場人物たち。正義感と愛きょうを併せ持つ青島俊作(織田裕二)、定年間近のベテラン刑事・和久平八郎(いかりや長介)、トラウマを抱えながらも勇ましい女性刑事・恩田すみれ(深津絵里)、腰が低い東大卒のキャリア組・真下正義(ユースケ・サンタマリア)、笑いを誘う上司のスリーアミーゴス(北村総一朗、斉藤暁、小野武彦)、冷徹に見えて熱さを秘めた室井慎次(柳葉敏郎)ら、魅力たっぷりのキャラクターが視聴者を引きつけた。

さらに警視庁を「本店」、所轄署を「支店」と呼ぶなど、一般企業に置き換えて自分事のように考えやすい描き方が視聴者の共感を加速。青島、和久、すみれらへの愛着は強くなり、室井の魅力が伝わり始めたころから視聴者の思い入れは急速に増していった。