今春の改編の中で目を引いたのは、日本テレビが33年続いた「水曜ドラマ」(22時台)を終了させ、土曜21時台にドラマ枠「土ドラ9」の新設を発表したこと。これにより日テレは「土曜21時台、22時台とドラマ枠を連続放送する」という編成戦略を選んだことがうかがえる。
その背景として見逃せないのは、2年前の22年春にフジテレビが水曜22時台にドラマ枠を新設したこと。ただでさえ平日の視聴率獲得が難しい中、フジの参戦でドラマ枠が競合し、リアルタイム視聴者を食い合っているような感があった。だからこそ、「全曜日の21時台・22時台で唯一のドラマ空白時間帯だった土曜21時台に移動させて、放送中の22時台と連続放送したほうがドラマ好きに2作続けて見てもらえるのではないか」という日テレの狙いは理解できる。
それでも気になるのは、ドラマ枠の増設ではなく移動を選んだこと。この2年間、フジが水曜22時台と金曜21時台、テレビ朝日系(ABC制作)が日曜22時台と、ゴールデン・プライム帯にドラマ枠を増設していた。配信を含めドラマというコンテンツが民放各局の今後を左右するキーコンテンツとなる中、「日テレは増設ではなく移動を選んだ」という事実に気づかされる。
日テレのドラマ枠移動にはどんな事情や思惑が考えられるのか。さらに、ドラマ枠の競合や2作連続放送をめぐる現状をテレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
過去に日テレが三度フジに勝利も…
2010年代、日テレは常に視聴率争いのトップに君臨し、しかも他局に先駆けてスポンサー受けのいいコア層(主に13~49歳)の個人視聴率獲得に向けた番組制作を行っていた。
同局はマーケティングに基づくシビアな編成を行うことで知られ、だからこそ連続視聴が難しく、録画されやすいドラマではなく、リアルタイム視聴されやすいバラエティ偏重の編成戦略を採用。そのためドラマでは、昭和時代からシーンをリードしてきたTBSとフジ、シリーズモノで手堅く数字を獲るテレ朝のような支持を得られていなかったが、バラエティで圧倒していたため何の問題もなかった。
しかし、放送収入の低下が止められず、配信視聴の高収益化を進めなければいけない状況になり、民放各局におけるドラマの重要性が急激にアップ。各局がドラマ枠を増設し、オリジナルの大作を手がけるなどの積極策を採る中、日テレのドラマは視聴率、配信再生数ともに苦戦傾向が続いていた。
加えて22年春にフジが水曜22時台にドラマ枠を新設し、日テレの水曜ドラマと競合。今春までの2年間、「水曜22時台は民放ドラマが唯一100%かぶる時間帯」という苦況が続いていた(日曜22時台は23年春からテレ朝系22時~と日テレ22時30分~が30分間重なる)。
しかし、それでも日テレの水曜ドラマは、TBSの日曜劇場、フジの月9と並ぶ、局を象徴するドラマ枠。一方のフジは、これまで91~92年、98~99年、13~16年の3度も日テレの水曜ドラマに戦いを仕掛けつつ、すべて撤退を余儀なくされた歴史があった。業界内では「4度目の挑戦となった今回も撤退するならフジのほうだろう」とみられていただけに、日テレの土曜21時台への移動に驚いている他局のテレビマンは少なくない。
しかも日テレの「21時台、22時台にドラマ枠を連続させる」という編成は、21年から現在までフジテレビの月曜21時台・22時台(カンテレ制作)で行われている戦略の踏襲。当初は「ただでさえリアルタイム視聴が減ってきているのにドラマを2時間連続で見てもらうのは難しいだろう」と見られていたが、一定の成果をあげていることで「日テレがフジを模倣した」と見られても仕方ないだろう。