漫画家・芦原妃名子さんの急死が報じられてから1週間あまり。ドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ)を巡る記事やSNSでのコメントが今なお飛び交っている。
そのなかで注目を集めたのは、同作を放送した日テレの報道・情報番組での出演者の発言。1月30日の『DayDay.』でMCの南海キャンディーズ・山里亮太、翌31日の『news zero』でメインキャスターの有働由美子がコメントしたが、どちらも日テレに対する疑問や問題提起を含むものであり、だからこそ称賛を集めていた。
はたして2人は日テレの局員でないからこのようなコメントができたのか。そこには制作サイドの意図は含まれているのか。今回の報道を通して、局外の人材を報道・情報番組のMCやメインキャスターに起用する意味をテレビ解説者の木村隆志が探っていく。
コメントにOKを出した3つの理由
まず山里は日本テレビが発表した「日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております」というコメントに言及。
「少し思うのは『万全な態勢をこちらは取っていましたよ』というふうに取られてしまう、そう感じられる文言だったので。そうじゃなく、たぶん日本テレビはもちろん今から徹底的に動くんだろうと思います」などと、言葉を選びながらも日テレの姿勢を問題視した。
一方の有働は、芦原さんの遺族が発表したコメントを読み上げたあと、「ご遺族のみなさまに心からお悔やみ申し上げます」と約8秒間にわたって一礼。さらに、「芦原妃名子さんの尊い命が失われたことに、本当に悲しいやるせない気持ちです。原作者の方の意思を尊重するというのは当然のことです。この件については何がどうして起きていたのか、関係各所の調査が必要です。そしてその調査は誠実に、慎重にすることが大事だと思います」と、日テレを含む各所に提言した。
生放送番組である上に、これまで培ってきた関係性を考えれば、山里も有働も制作サイドにある程度の確認を取った上でコメントしたのは間違いないだろう。つまり、制作サイドが「2人が自分の言葉で語ることにOKを出した」のだが、その理由は下記の3つが考えられる。
その3つとは、「報道・情報番組として、このニュースに触れないわけにはいかない」という判断、「局員であるアナウンサーに語らせると、そのまま局の意見となってしまう」というリスク回避、「外部の人に叩いてもらうことで一定のガス抜きが期待できる」という狙い。
制作と出演者を分けることの効果
これらはそのまま外部の人にキャスターを任せることのメリットと言っていいだろう。外部の人のほうがメディアとしての立ち位置や、営利企業としてのリスクを考えつつ、世間の反応を踏まえたコメントがしやすいからだ。
ちなみに他局を見ると、『めざまし8』(フジテレビ)の谷原章介、『Nスタ』(TBS)のホラン千秋などは、これほど踏み込んだコメントをしなかった。これは谷原とホランというより、「自局にも当てはまりかねない問題のため、日テレを追及しづらい」という制作サイドの判断によるものではないか。
また、山里は「今このことでどうなっているかが分からないので、みなさんいろんな思いを自分のそれぞれの形で言葉にして発していると思うんですけども、感情がいろいろ乗っかっていると、自分の発している言葉が思った以上に攻撃を持っている言葉だって気付かなかったりしますし。なので、みなさんいろんな思いがあると思うんですけど、1回考えて発していただければ」とも語っていた。
この言葉も、もし日テレのアナウンサーがこの言葉を発していたら批判は避けられず、山里が外部の人だからこそ視聴者の心に響いた感がある。やはり制作と出演者を分けたほうが番組としてさまざまな角度からメッセージを発信しやすいのかもしれない。
ちなみに、『news zero』と『DayDay.』とコメンテーターに、この件でコメントする機会は与えられなかった。彼らの中には自身のSNSなどで発言した人もいることから、「制作サイドが山里と有働のコメントに集約させて終わらせた」という印象もあるが、それが可能なのは2人に人気や説得力があるからだろう。