『VIVANT』(TBS)、『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日)、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ)など、夏ドラマの最終話が放送されるたびにネット上が盛り上がる現象が続いている。

この3作に「感動」「今期イチ」「ロス」などの好意的な声が多い理由として挙げられているのは、脚本の素晴らしさ。それぞれ「壮大かつ緻密な伏線」「洗練されたミステリー」「魂のこもったセリフ」などの違いはあれど、脚本が称賛されていたのは間違いない。

夏ドラマの脚本に注目が集まる一方で注目すべきは、現在「日テレ シナリオライターコンテスト」(応募期間:7月21日~10月31日)、「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」(同:9月1日~30日)の募集が行われていること。

テレビ局主催のシナリオコンクールは「フジテレビヤングシナリオ大賞」が最もメジャーであり、「テレビ朝日新人シナリオ大賞」も開催されているだけに、これで主要4局がそろうことになったが、どんな背景があるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • (左から)『VIVANT』堺雅人、『ハヤブサ消防団』中村倫也、『最高の教師』松岡茉優

    (左から)『VIVANT』堺雅人、『ハヤブサ消防団』中村倫也、『最高の教師』松岡茉優

■業界内で急速に増す連ドラの重要性

真っ先に挙げておかなければいけない背景は、テレビ局における連ドラの重要性が急速に高まっていること。

振り返ると、2010年代は連ドラにとって受難の時期だった。テレビ番組全体の世帯視聴率が下がる中、特に録画視聴されやすく視聴率獲得につながりにくい連ドラの放送枠は減り、さらに、中高年層から手堅く視聴率を狙える刑事・医療・法律の3ジャンルが量産。作品数が減り、ジャンルの多様性が失われ、「死」「病気」「犯罪」などの重いテーマが視聴者を選ぶ形を招いていた。

今夏、10年代に激減していた『ハヤブサ消防団』のような長編ミステリーや『最高の教師』のような学園ドラマ、さらにジャンルすら分からない規格外の『VIVANT』が人気を集めたことが、奇しくも当時の苦境と迷走を裏付けている。

しかし、2020年春に視聴率調査がリニューアルされ、各局がコア層(主に13~49歳)の個人視聴率獲得に向けた番組制作に舵を切ったことで事態は一変。刑事、医療、法律の3ジャンルが減って、ラブストーリーや長編ミステリーなどが増え、主演俳優やスタッフに若返りの傾向が見られる。

さらに大きかったのが、コロナ禍を経て配信視聴が一気に浸透したこと。「TVerの配信再生数が右肩上がりで伸び続けている」「スポンサー受けのいい若年層も見ている」「各局系列の有料動画配信サービスでの収益化にもつなげやすい」「スマートテレビが増えている」などの理由から、テレビ業界は「放送収入の低下を配信収入でカバーしていかなければいけない」という段階に突入している。

しかもTVerの月間再生数だけで約4億万回まで上昇する中、“番組再生数ランキング”の上位は、ほぼ連ドラの独占状態。連ドラは深夜帯も含めて幅広く再生されている一方、バラエティは『水曜日のダウンタウン』(TBS)や『アメトーーク!』(テレ朝)らが入る程度に留まっている。

こうした連ドラ需要アップを受け、昨春から現在にかけて民放各局は放送枠を新設。その間、主な連ドラ枠だけでも、フジが水曜22時、火曜23時(カンテレ制作)、金曜21時、テレ朝が日曜22時(ABC制作)、日テレが金曜24時30分、TBSが火曜24時58分に新設された。それだけドラマの重要性が増し、放送枠が増えているのだから、「シナリオコンクールに力を入れる」のは当然の流れに見える。