今夏は民放各局でスポーツの世界大会が放送され続けている。例えば8月27日の番組表を見ると、TBSが午後と深夜に『世界陸上ブダペスト大会』、テレビ朝日がゴールデン・プライムで『FIBAバスケットボールワールドカップ2023』、深夜帯で『世界新体操スペイン・バレンシア2023』と『世界バドミントン デンマーク2023』を放送した。
月が変わって9月になると、8日から日本テレビで『ラグビーワールドカップ2023』、16日からフジテレビで『FIVAパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023』、23日からTBSで『アジア大会 中国・杭州』、10月も3日からテレ朝で『世界体操 ベルギー・アントワープ』の放送が予定されている。また、7月にはテレ朝が『世界水泳 福岡2023』を放送していたことも記憶に新しい。
このように、民放各局でさまざまなスポーツの世界大会が放送されている一方で、「世界大会以外の試合は中継が少ない」という現実があり、昨今は「スポーツのビッグマッチは有料動画配信サービスに移行し始めた」という傾向も見られる。果たして現在、テレビで放送されるスポーツの世界大会は、どんな立ち位置にあり、何が求められているのか。さらに今後はどんな未来が待っているのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
■放送される世界大会が増えた背景
かつて世界大会の定番として民放各局が放送してきたのは、オリンピック、サッカー、バレーボールで、それぞれ高視聴率を獲得してきた。その他では主にTBSが陸上、テレ朝が水泳とバドミントン、テレ朝とフジがフィギュアスケート、テレビ東京が卓球の世界大会を放送し、近年では日テレがラグビーとバスケットボールに注力するなど、扱われるスポーツの幅はジワジワと広がり続けている。
ただ、これらは世界大会に限ったものであり、国内外のリーグ戦やカップ戦の中継は依然として少ない。その理由はひとえに「視聴率が獲れない」からだが、人気スポーツのサッカーと野球ですら地上波の放送がわずかに留まり、「DAZNやスカパー!などで有料コンテンツとして楽しむ」という形が定着したことが、その難しさを物語っている。
今なお、リアルタイムで番組を見てもらい、視聴率を獲得したいテレビ局の基準は、「どのスポーツが人気なのか」ではなく、「どの試合が人気なのか」。すると必然的に選ばれるのは、人気スポーツであるサッカーのJリーグや野球のNPBではなく、他スポーツの日本代表戦になっていく。特にスポーツの世界大会はバラエティやドラマでは難しい生放送番組の最高峰であり、視聴率獲得への期待値は高い。
注目すべきは、昭和時代からあった「小柄な日本人が大柄な外国人に勝つ様子を好む」という国民性が、平成、令和の時代を経ても全く薄れていないこと。SNSが幅広い年代に普及し、共通の話題や一緒に盛り上がれるコンテンツの価値が高くなった今、日本代表の試合はそれを満たす1つとなっている。
また、「サッカーワールドカップが、民放各局とNHKが共同制作するジャパンコンソーシアムですら放送困難なほど放映権料が高騰した」という事実は重い。民放各局が扱うスポーツの幅を広げている背景には、「放映権料で得られる視聴率とのコストパフォーマンスをシビアに見ている」という理由もあるのだろう。