連載コラム『美人すぎる公認会計士がこっそり教える、やわらかマネー知識』では、公認会計士の平林亮子氏が、その豊富な経験を生かした「お金」に関する知識を、分かりやすく説明します。あなたの人生を変えるような、とっておきのマネー知識が得られるかもしれません。


私は日々、クライアントさんのオフィスに行ったり講演をさせていただいたり、あちこち移動しながら仕事をしています。しかも、クライアントさんとの面談や講演を除いては、資料作成、執筆など、どこでもできる作業ばかりですので、オフィスへ立ち寄るのも平均すると週に1回程度。

原稿の執筆時は、カフェをよく利用します。ドトールやスターバックス、タリーズコーヒーなどといったチェーン店はもちろんのこと、時にはホテルのラウンジも"オフィス"になります。

最近は、コンセントの使えるお店も増えてきて、非常に便利。周囲の会話など、適度なざわつきが、妙に集中力を高めてくれる時もあります。

カフェで仕事をしていると、「このコーヒーは一体いくら?」との疑問が…

ところで、カフェで仕事をしていると、ついつい

「このコーヒーは一体いくらだろう?」

と妄想し始めることがあります。

もちろん、コーヒーには値段があります。ドトールのブレンドのSならいくらとか、スタバのラテのショートならいくらとか、販売されている値段がありますから、それがコーヒーの値段であることは間違いありません。

気になるのは、もう1つの値段。

そうです。

原価はいくらなのだろう、と気になってしまうのです。

コーヒー豆の厳密な仕入金額まではわかりませんが、上場企業であれば、おおよその原価は決算書から読み取ることは可能です。

でも実は、お店で気になるのは、コーヒーの材料費ではなく、もう少し別の点なのです。

たとえば、1時間にコーヒーが1杯売れたケースと、1時間にコーヒーが2杯売れたケースがあった場合に、原価はそれぞれいくらになると考えれば良いでしょう?

1杯あたりのコーヒー豆の仕入原価は同じだと考えれば良いでしょう。

でも、コーヒーを出すために必要となる経費はそれだけではありません。店員さん1人1時間当たり、時給1000円くらいはかかるでしょう。お店を1時間運営すれば、1時間分の家賃、水道光熱費だってかかっています。細かいことを言えば、通信費やその他の経費も色々必要です。そして、その多くは、コーヒーが1杯売れようとも2杯売れようとも同じ額になると思われます。

仮に、人件費も原価として考えてみると、店員さんが1人で時給1000円だとしたら、

1時間にコーヒーが1杯売れたケースのコーヒー1杯の原価は

1杯あたりの豆代+1000円

となります。

1時間にコーヒーが2杯売れたケースのコーヒー1杯の原価は

1杯あたりの豆代+500円(=1000円÷2杯)

となります。

人件費のみならず、家賃や水道光熱費も含めたら、一定期間にどれだけ販売されたか(コーヒーを淹れたか)で、1杯あたりのコーヒーのコストは大きく異なるのです。

そして、空いているお店の方が、1杯あたりのコストが高くなる、というわけ。

実際には、

売上-原価(売れた数に対応する豆代)-人件費総額-家賃総額-その他経費総額

として利益を計算しますから、人件費などを含めたコーヒー1杯当たりの金額を計算する必要はありませんが、カフェの込み具合を見てそんな妄想をしてしまうことがあるというわけです。

工場で大量生産されるような製品の場合は?

ちなみに、工場で大量生産されるような製品は少し取り扱いが異なります。

例えば、とある製品を1年間に最大1億個作れる工場があったとします。その工場で働く人の賃金や工場の家賃などが、年間20億円かかるとしましょう。1個当たりの材料費は2円とします。

工場の生産能力が1年で最大1億個だったとしても、販売できる数に応じて生産するのが普通です。

そのため、1億個作る年もあれば、8000万個作る年もありえます。

このとき、1億個作った年は、1個当たりの製品の原価は

1個当たりの材料費2円+20円(=20億円÷1億個)=22円

と計算します。

8000万個作った年は、1個当たりの製品の原価は

1個当たりの材料費2円+25円(=20億円÷8000万個)=27円

と計算します。

もちろん、厳密に言えば、1億個の年と8000万個の年では、残業による人件費の違いや水道光熱費の違いなども生じるでしょうけれど、上記の考え方に基づいて計算されるということが重要です。

もし、上記の製品を、50円で5000万個売るとしたら、利益はどうなるでしょうか。

コーヒーショップと異なり、工場の人件費や、工場の家賃などといった経費は、すべて製品1個当たりの原価とし、売れた分だけを差し引いて利益を計算します。すなわち

22円の製品を50円で5000万個販売したとすると

売上25億円(=50円×5000万個)-原価11億円(=22円×5000万個)=利益14億円

となります。一方

27円の製品を50円で5000万個販売したとすると

売上25億円(=50円×5000万個)-原価13億5000万円(27円×5000万個)=利益11億5000万円

となります。

大量に製品を作れば、計算上の利益を大きくすることが可能

22円で製品を作った年も、27円で製品を作った年も、材料費以外に20億円の支払いがあることに変わりはありません。それにもかかわらず、いくつ作ったかで、利益が異なってくるのです。

結局、売れるか売れないかにかかわらず大量に製品を作れば、1個あたりの製品の原価が下がり、計算上(見た目)の利益を大きくすることができるというわけ。

会計のルールを知っていれば、生産数量を調整するだけで、利益の額を変えていくこともできるのです。そしてそういった生産調整自体は、ルール違反であるとか粉飾決算であるとかは、なかなか言い切れないのが現実です。

とはいえ、材料費以外の経費について年間20億円の支払いが必要になることは同じですから、たくさん作って見た目上の利益を大きくしても、売れなければいつかは破たんします。そして、大量の売れ残り在庫を抱えて倒産、などということにもなりかねません。

表面をいくら取り繕っても、どこかに無理が生じて、最終的には問題が露呈するのだということを教えてくれているような気がします。

ホテルのラウンジ、お代わりはサービスだとコーヒーチェーンよりリーズナブル!?

さて、ここで再び、コーヒーの値段に話を戻しましょう。

ホテルのラウンジでは、お代わりはサービスというところもたくさんあります。そうなると、例えば、1000円で5杯いただいたら1杯あたり200円となって、コーヒーチェーンよりもリーズナブル、ということもありえます。

ホテルのラウンジという優雅な場所で、そんなことを考えるのは似つかわしくないので避けたいと思いますが(笑)、「値段」とは何なのか、考えれば考えるほどわからなくなるものだということを、この記事の結論にしようと思います。

執筆者プロフィール : 平林 亮子

公認会計士。「美人すぎる公認会計士」としてTVやラジオ、雑誌など数多くのメディアに出演中。お茶の水女子大学在学中に公認会計士二次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現・新日本有限責任監査法人)に入所。国内企業の監査に多数携わる。2000年、公認会計士三次試験合格後、独立。企業の経営コンサルタントを行う傍ら、講演やセミナー講師など多方面で活躍。テレビの情報番組のコメンテーターを始め、ラジオ、新聞、雑誌など幅広いメディアに出演している。