香港の中国化が示す「邦人拘束リスク」の高まり
昨今、一部外国メディアが報じたところによると、香港大学で今年度(9月)から、2020年7月に施行された香港国家安全維持法に関する入門講座が必修科目になる。香港大学の学生に送られたメールでは、法律科目として憲法などと同じように国家安全維持法が必修となり、新学期が始まる9月1日から実施される見込みだという。
香港中文大学、香港理工大学など他校でも2023年度から国家安全維持法講座を開始する予定だが、香港教育大学、嶺南大学、香港城市大学などでは既にセミナーやワークショップなどで国家安全維持法の学習がカリキュラムに導入。国家安全維持法は中国当局が香港の治安を取り締まる目的で導入された、いわゆる「香港の中国化を象徴する法律」だが、それは既に教育レベルにまで及び始めている。
洗脳教育といっても過言ではなく、自由や市場経済、観光といった日本人にも人気があった香港の姿は殆どなくなっているようだ。
しかし、香港の中国化だけでなく、近年、中国全体で習政権による強権体制がいっそう強化されている。市民の一つひとつの行動に当局の監視の目が強化されつつあり、それは中国に住む邦人拘束リスクを高めているのだ。
邦人拘束事例が示す危うさ
7月、上海にある日本総領事館が明らかにしたところによると、去年12月に上海で中国当局に拘束された日本人男性50代が6月には逮捕。日本総領事館は同男性への面会を中国当局に要請したが、今もそれは実現しておらず、なぜ逮捕されたかなど具体的なことは一切中国側から発表されていない。
しかし、同男性が中国で2014年に施行された反スパイ法に抵触し、国家の安全を害した容疑に問われた可能性が指摘されている。
実は、こういった事例は後を絶たない。2019年には、広州市で拘束されていた大手商社の日本人男性40代がスパイ容疑で懲役3年の判決を受け、湖南省長沙市では日本人男性50代が国内法に違反したとして背後関係が分からないまま拘束。さらに、日本人の大学教授が日本へ帰国直前に北京の空港で拘束された。
2015年以降、こういった逮捕、拘束の事例が16件にも及び、しかもその多くが起訴され、懲役刑を受けるケースなのだ。昨年には懲役刑を下された日本人男性2人が北京の裁判所に不服申し立てを行ったが、顧みられることもなくあっさりと棄却され、実刑が確定してしまった。
日本企業に求められる見極め
今日、日中関係の行方を懸念する声は日に日に高まっている。特に、中国に進出する日本企業の間では、岸田政権の対中姿勢に不安が強まり、日中関係が悪化した際、中国が経済制裁だけでなく邦人拘束という手段で政治的圧力を掛けてくるのではないかと警戒が強まっている。
日本の外交姿勢が気に食わないからといって、中国当局が何十人も何百人も一斉に邦人を拘束することはないだろう。しかし、何かしらあるごとに邦人1人を拘束しては日本の対中姿勢を見極めるといった戦法に出てくることは十分に考えられる。
リスクを過剰に考える必要はない。しかし、これまでのケースから、拘束された理由が分からず、要は中国側の考え1つで実行されている現実を考慮すれば、中国に進出する日本企業はこれまで以上に日中関係を見極め、駐在員の安全・保護を撤退する必要がある。それが危機管理だ。