バイデン政権になってから、世界の企業の間では、「企業が生産過程で人権侵害リスクを把握・発見し、その予防や軽減に努める」とする人権デューデリジェンスの意識が高まっている。
ファーストリテイリングだけで終わらない企業の人権侵害リスク
特に、中国新疆ウイグル自治区での強制労働によって製造された品々を使用するな! との意識が欧米で強まり、ユニクロを展開するファーストリテイリングは昨年、フランスで現地の人権NGOから人道の罪に触れる疑いで刑事告発され、米国へのTシャツの輸出が差し止められるなどした。
ファーストリテイリングは、「第三者の監査機関によって人権侵害がないことを確認している」、「綿花も生産過程で労働環境が適正に守られたものだけを使っている」と説明しているが、新疆ウイグル自治区では中国当局の監視が厳重に敷かれており(特にこれだけ世界で今大きな問題になればなお)、その信憑性は依然として不透明な状況にある。
他の日本企業でも、ウイグル産の綿花やトマトの使用停止、調達先変更を決定する動きが加速化している。
そして、今年はさらなる影響が日本企業に及びそうな状況だ。
昨年12月、米国では新疆ウイグル自治区で作られた製品の輸入を全面的に禁止するウイグル強制労働防止法案が可決された。これによって企業は強制労働によって生産されていないことを証明する義務を負うことになったが、米国に多くの製品を輸出する企業にとっては極めて重い宿題を課される形になった。
それができないと輸出停止に遭う場合があり、大きな経済的損失になる可能性がある。
また、影響は米国だけではない。フランスのマクロン大統領は1月中旬、欧州議会で講演し、バイデン大統領が新疆ウイグルの人権侵害で中国に圧力を掛けるなか、EUが一体となって強制労働による製品の輸入を禁止することに賛成する意思を示した。
欧米諸国では英国やオーストラリア、カナダがバイデン政権に足並みを揃える姿勢を堅持していたが、この影響は非英語圏の欧州諸国にも広がりを見せつつある。フランス議会下院も1月、新疆ウイグル自治区の人権侵害を巡って非難決議を採択している。
日本企業も他人事ではない
このような最近の欧米諸国の動きは、それが殆ど進んでいない日本企業にとっては大きな心配事だ。
人権侵害の調査について、今でも大手企業の半数以上ができていないとみられ、今後は日本企業と欧米企業との間で乖離がこれまで以上に生じてくる可能性がある。これまでは米国の動きに注目が集まっていたが、フランス企業やドイツ企業と日本企業との間でも人権デューデリジェンスが今年もっと大きな問題になるかも知れない。
今はコロナ禍で、日本企業の海外進出や駐在員の派遣などは多くはない。しかし、それが落ち着きを見せ始めれば再び国際的な経済活動が活発化するだろうが、日本企業が人権デューデジェンスを重視しない姿勢を貫けば、欧米企業から見放され、国際的なマーケットから取り残されていくだろう。
今年、日本企業は昨年以上にこの問題にぶちあたりそうだ。