新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、日本では東京五輪の中止を求める声が強くなっている。感染者が増えては規制を強化し、規制を緩めては感染者が再び増えるという悪循環に、実際、日本政府もお手上げというところだろう。
政府は東京五輪を開催する方向で着実に準備を進めているが、仮に東京五輪を実施すれば人々の動きが活発になり、感染者数が再び増加すると感染症専門家たちが警鐘を鳴らしている。
東京五輪を支持する中国
そのような中、中国は東京五輪の開催を積極的に支持している。習国家主席は5月、国際オリンピック委員会のバッハ会長と電話会談し、東京五輪の開催を支持し、それに向けて協力する姿勢を強調した。
米国務省が5月24日、国民の日本への渡航について中止を求める「渡航警戒レベルで最も厳しいレベル4(渡航中止)」を出すなか、中国にはどのような意図があるのだろうか。
中国のワクチン外交
まず、中国側には東京五輪で一定の存在感を示したい狙いがある。最近、WHOは中国産では2つ目となる中国の製薬大手「科興控股生物技術」(シノバック・バイオテック)のワクチンを承認したが、中国は去年以降ワクチンを各国へ提供するワクチン外交を展開している。
既に、インドネシア、シンガポール、カンボジア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスなどの東南アジア諸国、UAE、エジプト、トルコ、バーレーン、ヨルダンなどのアラブ諸国、セルビア、ハンガリーなどの東欧諸国、チリ、ブラジルなどの南米諸国が中国製ワクチンを国内で導入しており、今後シノバック・バイオテック製のワクチンを武器にさらにワクチン外交を積極的に展開しそうだ。
そして、中国にはワクチン外交を日本にも展開し、東京五輪で選手や関係者に中国製ワクチンを接種させるなどして存在感を内外に強く示したい狙いがある。実際、バッハ会長は3月、東京五輪における中国製ワクチンの提供について言及したことがある。
北京冬季五輪への思惑
また、東京五輪の次には来年2月に北京冬季五輪が迫っている。仮に、東京五輪が感染拡大で中止ということになれば、今後のコロナ情勢にもよるが、今度は北京五輪でその是非が議論される可能性も出てくる。
当然ながら、北京五輪への準備を着実に進めている習政権はそれを回避したく、自分たちこそ“人類がコロナに勝った五輪”を実現したいと考えている。よって、その前哨戦となる東京五輪を何とか自分たちが存在力をアピールする形で実現し、五輪開催に関するポジティブなイメージのまま北京五輪にこぎ着けたいはずだ。
一方、北京五輪を巡っては最近中国と欧米との間で一悶着あった。米国議会下院のペロシ議長は5月、悪化する米中対立を理由に、北京五輪の開会式や閉会式の際、各国に選手団以外の首脳や政府関係者の参加を見合わせる外交的なボイコットを行うよう呼び掛けた。
米国だけでなく、最近は英国と中国との関係も冷え込んでおり、仮にそうなれば習政権が目指す"人類がコロナに勝った五輪"は達成されなくなるだろう。冬季五輪ということで、参加国は必然的に欧米諸国が多くなることから、それを理由に、中国は欧米諸国との必要以上の関係悪化をひとまずは避ける可能性もあろう。
いずれにせよ、中国にとって最優先事項は、北京五輪を人類がコロナに勝った五輪とのイメージを内外に強く示し、その後の米中対立の中でも、対外的な影響力を維持・発展させることにある。そのための発車地点が東京五輪であり、中国の五輪外交もいっそう本格化することだろう。