バイデン政権になって、米中対立はトランプ政権下以上に激しくなっている。トランプ政権では正に米国と中国の一対一の対決だったが、バイデン政権では英国やフランス、ドイツやオーストラリアなどが加わり、皆が一緒になって中国に対抗する図式に変わっており、中国もそういった動きを強く警戒している。

  • 日中関係の難しさとは

ウイグル問題の波紋

そのような中、最近、中国国内では、「スウェーデン衣料品大手のH&Mや米スポーツ用品大手のナイキの商品を買うな!」という動きがネット上で拡大した。

その発端は、米国やカナダ、英国などの欧米諸国が3月下旬、中国政府がイスラム教徒のウイグル人が多く住む西部新疆ウイグル自治区で人権侵害を続けているとして中国に制裁を発動し、H&Mやナイキなどの欧米企業も強制労働を強いられているウイグル人が栽培した新疆ウイグル産の綿花を材料に使わないと発表したことにある。

この不買を求める声が拡散し、H&Mやナイキ、アディダスのCMなどに出演する中国の歌手や芸能人などが相次いで契約解除を発表するなどその影響が拡大しているという。

日本特有の難しさ

今後少なくとも4年あまりはバイデン政権が続く。バイデン政権はトランプ政権と違って人権問題を非常に重視しており、ウイグルの問題を巡って今後も両国の火花が散り、こういった不買運動がさらに激しくなることは十分に想像がつく。欧米諸国や欧米企業は中国に対して譲歩する姿勢を示すことはないと考えられるので、欧米と中国との貿易摩擦は今後いっそう激しくなる可能性が高い。

一方、最近のウイグル問題を巡っては日本も対岸の火事ではない。現在、日本政府はこの問題で欧米諸国のように強く非難することを避けているが、その背景には、政治・安全保障は米国頼り、経済は中国頼りという日本特有の難しい問題がある。

仮に、日本が欧米諸国のようにウイグル問題で共同歩調を取れば、今後は中国国内でパナソニックやユニクロ、トヨタや任天堂など日本製品を買うな! という不買運動がネット上で一斉に拡散し、日本経済に大きな悪影響が出る可能性がある。

ちなみに過去には、2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件や2012年の尖閣諸島国有化宣言を巡って、中国各地で反日デモや不買運動が広がるだけでなく、日系企業の工場やお店が襲撃、破壊、放火、略奪の被害に遭ったことがある。現在の日中関係でバランスを失うと、その影響は現地の日系企業を直撃するリスクがあることを忘れてはならない。

日本経済は中国頼り

また、影響はそれだけではない。新型コロナウイルスの影響で、去年以降日本の観光業界や航空業界は大打撃を受けている。特に、インバウンドはほぼなくなり、地方の観光地や温泉地は活気を失ってしまった。その多くが中国からの旅行客である。

要は、上記のような不買運動だけでなく、日中関係が今後悪化すれば、「もう日本に観光に行くな!」、という声がネット上で拡散し、地方の温泉ホテルやお土産屋さん、バスやタクシー会社の経営にもさらなる影響が出る可能性がある。

日本経済の繁栄と安定を願うならば、今後の米中対立の中での日中関係は大きな懸念事項だ。一歩出方を間違うとたちまち不買運動、そして貿易摩擦や長期的な紛争状態に陥る可能性がある。