テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、中小ベンチャーの「組織設計」について語ります。
CFO8マトリックスで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO®、高森厚太郎です。
今回は、本連載テーマ「中小ベンチャーの成長マネジメント」、前々回・前回に解説した「中小ベンチャーCFO業務のその1(全体管理)」の「戦略策定」に続いて、戦略を実現する「組織設計(前編)」です。
組織設計とは
組織は事業計画とともに、事業戦略を現実化する両輪です。では、いったいどんなふうに組織設計を進めていけばよいのか。そこに正解はありません。営業と開発は別の部の方がいいのか。ひとつの事業部として一括りにした方がいいのか。いずれも一長一短あります。
ところが、正解はないはずなのに、紙に書いた組織図は現実化すると想像を超えて従業員に影響を及ぼします。たとえば、営業と販促で、業務はそのまま変わらないのに、部署を分けただけでそれぞれの方向性が違ってくる、業務で対立する、ということはよくある話です。その意味で、定期・不定期にゆらぎ(人事異動や組織改正)を作って、組織が凝り固まったり唯我独尊に陥ったりするのを未然に防ぐのが良いでしょう。
組織体を作る5つのポイント
組織体の作り方に正解はないと書きましたが、考慮すべきと思われる5つの要素を挙げておきます。
ひとつ目は、組織のステージです。起業したばかりのステージの企業は社員もまだ少なく、組織設計というより、全社員一丸となって業務を推進するような混沌とした未分化の状態にあることがほとんどでしょう。このステージでは敢えて組織を作る必要さえないかもしれません。それを超えて従業員が10人、20人になってくると、グループ化して役割分担しないと事業が回りにくくなってきます。このステージでは、ある程度の規律ある組織が必要になるでしょう。従業員が50人、100人を超えてくると、資質やスキルにムラができないようマニュアルや規定集などを整えることも必要になってきます。組織の精度も厳格化し、時に官僚化が起こってきます。官僚化が進みすぎると、人が組織にがんじがらめになって不測の事態に融通がきかなかったり、新規事業や多角化に対応できなかったりするなどの問題が出てきます。こうした脱成熟のステージでは、逆に組織の精度を敢えて少し緩めるようなオペレーションが必要かもしれません。このように、現在のステージを考慮に入れながら精度に緩急をつけていくような組織作りが求められます。
ふたつ目に、その企業の業務プロセスが複雑で多岐にわたっているか、あるいはそうでないかによって、機能別組織を採用するかどうかを検討します。これは営業、開発、管理、宣伝といったいわゆる機能別に従業員を区分けしていくやり方ですが、各組織の専門性が高くなり、業務プロセスはシンプルになります。ただしあまりに細分化された機能別組織は業務の単純化を招き、従業員のモチベーション低下にもつながりかねないので、事業がそれほど複雑でないならばそこまで細かく分けてしまわない方がいいでしょう。
3つ目は、従業員数から考える分け方です。管理職1人が何人まで部下を管理できるか(スパンオブコントロール)という視点で組織を作る方法です。社長がワントップ体制で頑張ってきた企業も、従業員が30人とか50人クラスになれば、さすがに中間管理職が必要です。従って階層を作っていくわけですが、何人以上で何階層といった定義は特にありません。業務プロセスを考慮しながら、必要と思われるだけの階層を積み上げていきます。
4つ目に、単一事業か複数事業か。同じ「開発」機能を持つ組織でも、事業が異なれば業務はまったく異なります。複数事業を抱える企業では「事業部別組織」を検討する場合があります。
最後にもうひとつ付け加えたのが、業務がオペレーショナル(定型的)かどうかです。定型的でない場合は、プロジェクト型組織も検討に入れましょう。一般的な企業は業務がある程度定型化されていないと成長戦略が描けませんが、そうではないビジネス、たとえば筆者が行っている経営コンサルティング業務はあまり定型化されていないものです。この場合、機能別や事業別よりも、プロジェクト型を採ってそのプロジェクト毎に組織を作るやり方も考えられます。
次回は、「組織設計(後編)」にて、上記5つのポイントで触れた、機能別組織、事業部別組織など各組織体系のメリット・デメリットを整理していきます。