テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、スタートアップ・ベンチャー企業の投資のデュー・ディリジェンスについて解説します。
スタートアップ・ベンチャー企業に対する投資の場合にも、投資家は、投資対象となるベンチャー企業の運営態様、財政状態等についてある程度知ったうえで投資を行いたいという希望を持っていることが多いです。
しかし、スタートアップ・ベンチャー企業のデュー・ディリジェンスは必ず行われるものではありません。デュー・ディリジェンスが行われるか否かは、資金調達のシリーズ、規模にもよります。
実際に、スタートアップ・ベンチャー企業の出資の場合には、投資金額が比較的少額になることから、投資リスクが低く、十分な費用をかけてベンチャー企業を調査する必要性が低いとして、全部または一部のデュー・ディリジェンスを実施しないケースも多いです。もっとも、デュー・ディリジェンスを実施しない場合であっても、投資対象となるベンチャー企業の最新の株主構成や既存の投資契約・株主間契約・種類株式の内容等の資本構造にかかわる資料については、投資後のベンチャー企業の株主として重大な関心事であるため、最低限確認する必要があると考えられます。
デュー・ディリジェンスにおいて開示が必要となる書類
デュー・ディリジェンスを行うにあたっては、まず、投資家候補から、開示依頼資料リストが交付され、対象会社が資料を準備して、必要な資料を投資家候補に対して開示することが通常です。
開示の方法としては、PDF等のファイルをファイル共有サーバーにアップロードするか、または電子メールにより送付する方法が多く用いられています。場合により、該当資料をベンチャー企業で準備し、投資家候補が現地に赴いて資料を確認する方法がとられる場合もあります。
デュー・ディリジェンスにおける資料開示依頼について例を挙げましょう。たとえば、法務 デュー・ディリジェンスにおいて使用される資料開示依頼リストにおいて、 開示が依頼される資料の例は以下となります。
なお、下記のリストにおいては、期間や対象の限定を付していないですが、「過去3年分の株主総会議事録」「過去5年間の労災事故」「売上上位5社との契約書」「年間売上額1000万円以上の取引先との契約書」「過去5年分の訴訟の記録」など、実際の依頼においては期間や対象に限定を設けて資料開示を依頼することが多いです。
1 会社組織関係
- 定款
- 株主総会議事録、招集通知およびその添付書類
- 取締役決定鬱
- 組織に関する社内規定、会社組織図
2 資本関係
- 株主名簿、新株予約撞原簿
- 会社に関する株主間契約
- 会社と株主との重要な取引に関する契約および資料
- 会社株式の購入、買戻し、質入消却等に関する契約および資料
- 新株予約権、ワラント、転換社債等の潜在株式の発行に関する契約
3 従業員関係
- 従業員数(正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、出向の内訳)
- 就業規則(給与規程・賞与規程・退職金規程・職務発明規程等を含む)
- 会社と従業員と間のその他の契約
- 過去の労働争議、ストライキ等に関する資料
- 過去の労災事故の一覧および関連する資料
4 契約関係
- 主な取引先のリストと各社との契約響
- 巨要な業務提期契約、業務委託契約薔
- 金銭の貸借、保証・債務引受け、担保権設定等に関する契約
- その他意外取引または潜在的債務に関する契約
5 紛争・クレーム関係
- 過去の裁判、調停、仲裁その他現在係争中の紛争に関する記録
- 会社の潜在的紛争・クレームに関する書類
- 過去の判決、仲裁裁定、調停調書、和解調蓄等
- 政府機関からの法令違反等の通知または関連する調査の資料
資料開示後の流れ
スタートアップ・ベンチャー企業における資料開示がなされた後、投資家候補から開示資料について質問が行われます。このやりとりは、エクセルファイルに質問や追加資料依頼の旨を記入して、それに対して、ベンチャー企業が回答または追加資料の送付を行うという方法で行われることが多いです。
例えば、以下のようなものです。
質問日:2019/1/1
重要度:中
資料名:タイムカード
質問種類:質問
質問・依頼内容:御社の残業時間の計算方法では、提示より早めに出勤した分は残業時間に含めていないのでしょうか。
回答日:2019/1/2
回答:残業時間に含めて残業代を支払っています。
マネジメント・インタビュー
スタートアップ・ベンチャー企業から開示された資料の検討やQ&Aリストによるやりとりがある程度進んだ後に、マネジメント・インタビューを行うこともあります。マネジメント・インタビューは、デュー・ディリジェンス担当者が投資対象の企業を訪問して対面(電話)でインタビューするものです。
インタビュー事項は、大抵はインタビュー実施の数営業日前までに送付されます。なお、。法務デュー・ディリジェンスにおけるマネジメント・インタビューでは、以下のようなことを目的とした質問を行うことが多いです。
- 開示資料の内容に基づく質問のうち重要な点に関する質問
- Q&Aリストにおける回答の補足を求める質問
- 開示された資料には記載されていない問題点があるかか否かの確認