テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が「少人数私募債」について解説します。


前回の記事では、スタートアップの資金調達として銀行借入を中心に書きました。今回は、「少人数私募債」について書いていきたいと思います。

少人数私募債とは

通常、株式会社が発行している債権としては、公募債と私募債の2種類があります。

公募とは、「公に募る」、つまり「広く一般を対象に投資を募集する」ことを言います。不特定多数(50名以上)の一般投資家に対して、新たに発行される有価証券の募集を行うというものです。広く一般の人に募集をかけますので、有価証券届出書の提出や縦覧が必要となり、手続きが煩雑になります。手続きが煩雑であるため資金調達までに数カ月という時間もかかります。

一方で私募債とは、募集人数49人以下の少人数に発行される社債(借入)のことです。金額合計では1億円以下が想定されています。つまり、小規模な社債のことを言います。私募債は公募債に比べると、手続きが簡略化されています。スタートアップ、小規模企業でも発行が可能です。監督機関への申請や証券会社への依頼という工程を必要としない直接的な募集になるので、コストを削減できます。

少人数私募債のポイント

少人数私募債発行のポイントは2つあります。

1つ目は、募集人数が49人以下という点です。“募集”が49人以下ですので、平たく言うと声をかける人数が49人以下でなければなりません。最終的に購入してくれる方が49人以下、ではないので注意が必要です。これは、多くの人に声をかけず、知り合いや身内に対して声をかけることが想定されている分、手続きも簡略化されている制度となっているためです。

2つ目は、通常は毎月もしくは毎年(年に一度にしている場合)利息のみを支払い、償還期限に元本を返済する方式であるということです。これは銀行借入と大きく異なります。銀行借入の場合、すぐに利息の支払だけでなく元本の返済も始まります。償還期限での負担が大きいため注意が必要ですが、それまでの期間は利息の支払のみであるため資金繰りとしては楽になります。この特徴から、最初に投資が生じ、後から収益を回収するような会社には向いているので、まさにスタートアップに向いていると言えます。

少人数私募債の発行に必要なこと

少人数私募債を実際に発行したいとなった場合、まずは明確な事業計画を作成することが必要です。担保や保証人無しに資金の提供を受けますので、明確な事業計画を策定し、償還期日には必ず返せるというキャッシュフローを示せなければ信頼してくれないでしょう。この事業計画をどれほど詳細に、かつ信用力のあるものにできるかが重要になってきます。

次に少人数私募債の償還期限、利率等の発行条件を決めていきます。利息は費用になりますし、償還期限では返済が可能となっている必要がありますので、事業計画と密接に関係してきます。

事業計画、発行条件を作成後、知り合いや身内、ビジネスパートナー、取引先等に直接勧誘をしていくことになります。なかなか金利で投資をしてもらう程の魅力を作ることはできないので、応援してくれる人を増やすイメージになるかと思います。事業計画とともに、会社としてこれからどうなっていきたいか、何をしていきたいかというビジョンを示すことも重要になってきます。

少人数私募債の発行後に必要なこと

資金の適正管理に努めることも重要です。毎月の返済負担がないとはいえ、一括償還時に向けて償還資金を毎年積み立てておく等の自己管理は当然に必要となります。

次に、事業計画の開示が必要です。社債引受者は取引先など身近な方々ですので、信頼感を維持、増進できなければ、会社経営に支障をきたすことになりかねません。社債発行後は、さらに合理的で効率的な経営に努めていくことが求められます。策定した事業計画の定期的なチェック、ブラッシュアップを行いながら、その進捗状況や社債償還金の準備状況等を積極的に示していくことが大切です。

このように上手く利用することができれば、銀行借入と比較してもメリットの多い少人数私募債。これから直接金融が増えてくると思いますが、利用のしやすさからも少人数私募債はより増えてくるのではないかと予想されます。自分の会社でも実施することができるのか、一度検討されてみてはいかがでしょうか。

執筆者プロフィール : 岡野貴幸

ゴージュ株式会社 代表取締役、ゴージュ会計事務所 代表公認会計士
立教大学経済学部卒業。大学在学時に公認会計士試験に合格。大学卒業後、あずさ監査法人国際部に入社。上場企業の法定監査、国際会計基準導入支援業務を経験。実家は埼玉県で3代続く税理士事務所を経営しているが、ゼロから立ち上げ新しい会計事務所の形を作りたいと一念発起し、2014年に独立。岡野公認会計士事務所(現、ゴージュ会計事務所)を設立。同時にコンサルティング会社であるゴージュ株式会社を設立。成長する企業を会計面・資金調達面からサポートしたい想いから、スタートアップを中心にサービスを行っている。クラウドを駆使し徹底した経理の効率化、事業計画の作成、資金調達を得意とする。