テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大氏が、「企業が生き残るための"デジタル・ファースト"の7つの戦略」についてお話します。
アクセンチュアCEOの、体験と成功企業の分析による7つの戦略
テクノロジーが進化し、日々新製品が生まれ、消費者の目が厳しくなるなか、商品サイクルが短くなり、大企業と言えども繁栄を謳歌できる期間が短くなっています。IoTとAIを軸とする第4次産業革命によって生まれたベンチャーやスタートアップのビジネスモデルが大企業を破壊しています。
企業が長期に渡って成長するためには、デジタル・ファースト戦略をとる必要があります。アクセンチュアのCSOだったオマール・アボッシュは自らの体験と多くの成功企業の分析から、「賢明なピボット」というルールを見つけます。
今日はアボッシュらが書いた『ピボット・ストラテジー: 未来をつくる経営軸の定め方、動かし方』(東洋経済新報社刊)より、「企業が生き残るためのデジタル・ファーストの7つの戦略」を紹介します。
いまや企業は「デジタル・ファースト戦略」を採用し、戦略立案者の好みではなく、顧客のニーズに最も適した戦略を採用する必要がある。
潜在的収益価値を解放する企業は、あらゆる機能・従業員を再配置し、テクノロジー、顧客、ステークホルダー、社会的価値といった核となる資源を、企業全体のポートフォリオとして管理している。単に四半期ごとに業績を測定するのではなく、長期にわたって、本来目指すべき収益を模索している。
私たちはデジタル・ファーストのアプローチを総称して、「7つの勝利戦略」と呼んでいる。(オマール・アボッシュ『ピボット・ストラテジー: 未来をつくる経営軸の定め方、動かし方』より引用)
「賢明なピボット」とは、製品・顧客・技術などの中核資産を中心に、継続的に事業の方向を転換し、ひとつのステージから次のステージへと移行していき、市場環境の変化と創造的破壊力のある技術の登場に即座に対応する、というビジネス価値を創造するアプローチのことを言います。
著者のアボッシュは「賢明なピボットのためには、デジタル・ファーストが有効」だと語り、それを実現するための7つの勝利戦略を提示します。
- テクノロジー主導
- 絶え間ない関係構築
- データ主導型の事業展開
- インテリジェントな資産管理
- 包摂的なアプローチ
- 新たな人材管理の導入
- エコシステムの活用
以下7つの勝利戦略を簡単に解説します。
1.テクノロジー主導
「テクノロジー主導」を戦略として採用した企業は、経営者が自ら新しいテクノロジーの採用を推進し、創造プロセスを改善するための新テクノロジーに投資し、外部との安全なコラボレーションを促進するために堅牢なインフラを構築する。他の6つの勝利戦略を機能させるため、自らの組織が新テクノロジー推進のリーダーにならなければならないことを認識している。(オマール・アボッシュ『ピボット・ストラテジー: 未来をつくる経営軸の定め方、動かし方』より引用)
新しいテクノロジーを導入して、イノベーションを起こすことができますが、そのためには、デジタル・ファーストの戦略が欠かせません。デジタル・ファースト戦略で、最も優先すべきは、テクノロジー主導で経営を行うことです。
インターネット時代の前に生まれた企業は、より新しい「デジタルネイティブな」競合企業よりも古いテクノロジーを使っています。このテクノロジー負債の上に新しいテクノロジーを継ぎ接ぎすることで、企業は競争力を失っていくのです。古いシステムがどれほど上手く維持され更新されたとしても、最新のシステムには勝てないことに経営者は気づくべきでしょう。
2.絶え間ない関係構築
「絶え間ない関係構築」の戦略を採用した企業は、イノベーション段階から顧客と協力し、顧客体験を高める製品やサービスを開発します。企業はデジタル・マーケティングを通じて、顧客に迅速に対応し、顧客が望んでいる製品やサービスを適切なタイミングで提供できるようになります。
「絶え間ない関係構築」のためには、詳細な顧客行動データへのアクセスと、それを理解するための分析ツールが必要だ。またそれ以上に、単に何かを売るのではなく、顧客と長期的な関係を築く必要がある。そして自社と顧客が互いに学び、それに応じて製品やサービスをカスタマイズする必要があるのだ。(オマール・アボッシュ『ピボット・ストラテジー: 未来をつくる経営軸の定め方、動かし方』より引用)
「絶え間ない関係構築」戦略を採用する企業は、モノを売っているのではないく、経験を売っていると言えます。
3.データ主導型の事業展開
「データ主導型の事業展開」を行う企業は、データから得られた知見を基にレコメンデーションを行います。また複数のデータソースを分析し、顧客の行動に影響を与える要素を見極め、将来の需要を予測します。
4.インテリジェントな資産管理
潜在的収益価値の解放に成功する企業は、ITなどの資産を扱う際、所有・リース・レンタルのバランスを上手く取る必要があると理解しています。戦略的に資産管理を行うことで、事業規模の急速な拡大や縮小を行い、市場の変化に対応します。
5.包摂的なアプローチ
「包摂的なアプローチ」戦略を採用する企業は、顧客ニーズをより適切に満たす新しいサービスを開発すると言います。デジタル・ファーストを実践することは、他のパートナーと密接に協力し、より効率的なサプライチェーンを構築することにつながります。そうして、消費者とサプライヤーが潜在的収益価値を解放できるプラットフォームを提供するのです。
6.新たな人材管理の導入
「新たな人材管理の導入」戦略を採用した企業は、イノベーションの変化を監督し、ジョブローテーションや短期派遣社員、「ギグ」契約を通じて非常に順応性の高い労働力を確保しています。併せて創造的破壊力のあるイノベーションを実現するために、小規模で分野横断的なチームをリードできるリーダーも育成します。
7.エコシステムの活用
「エコシステムの活用」戦略を追求する企業は、デジタル技術を活用することで、1回限りの売り買いを、継続的なサービス利用に変えています。外部のエコシステムに積極的に参加し、開放的なエコシステムを育て、新しいイノベーションをより早く顧客のもとに届けようとしているのです。
今後、 IoTが世の中に普及することで、10年以内に多くのものが相互に接続し合い、かつインターネットに接続するデジタルデバイスになっていくと考えられます。現在のシンプルなIoTアプリケーション(スマート・サーモスタットやプログラマブル照明など)は、製品を構成する部品や原材料のレベルまでに拡張され、製品のライフサイクル全体を通して、その所在や作動状況、使用状況が追跡可能になるのです。
「製品がスマート化され、検知、収集される大量のデータを活用して学習し変化するにつれて、製品とサービスの境界線はあいまいになる」と著者は言います。企業、業界、消費者、社会のすべてで、潜在的収益価値が解放され、調達・製造・流通・小売および顧客サポートの効率を大幅に向上させます。
デジタル・ファーストの7つの戦略を上手に組み合わせることで、将来の成長を確実なものにできます。経営者はITを軽視するのをやめて、テクノロジー主導の経営を行うべきでしょう。
参考書籍
『ピボット・ストラテジー: 未来をつくる経営軸の定め方、動かし方』
著者:オマール・アボッシュ, ポール・ヌーンズ, ラリー・ダウンズ、監修:牧岡宏監修、訳:小林啓倫
出版社:東洋経済新報社